🌹女風土記🌹 岡山県倉敷市 ゾルゲ最後の愛人 石井 花子 女史 / The Last Lover of Richard Sorge, Ms. Hanako Ishii

「それは愛する者への義務である。」
"It is a duty to those we love."
石井 花子 女史
Ms. Hanako Ishii
1911 -2000
岡山県倉敷市 誕生
Kurashiki-city ,Okayama-ken
石井 花子 女史は、ソビエト連邦のスパイであるリヒャルト・ゾルゲの最後の愛人。ゾルゲ刑死後に遺骨を探し当て墓碑を建立、回想録を刊行。
"Ms. Hanako Ishii is the last lover of Richard Sorge, a Soviet spy. After Sorge's execution, she tracked down his remains, erected a tombstone, and published a memoir."
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「天理教」
花子は、医師に続いて醸造業者の妾となった母親のもと誕生。父親から一軒家を譲り受けて宿屋を営んでいた母親は天理教に入信、たちまち熱中して父親に屋敷財産を売り払わせます。兄はキリスト教徒で社会主義者となり、花子は岡山医科大学附属の産婆看護婦養成学校に通います。卒業後は、奉公先から戻っていた姉と一緒に岡山市で喫茶店を開くも、素人経営で1年で廃業。花子は単身上京し、ダンスホールや酒場を転々として、同郷の知人の紹介でドイツ人ヘルムート・ケテルが経営する銀座5丁目の酒場「ラインゴールド」の女給に腰を落ち着けます。
「ラインゴールド」
店には法務大臣・犬養健や衆議院議長・星島二郎の他、各国大使館員・商人・旅行者・作家・芸術家・軍人・記者らが訪れ、ドイツ語の源氏名で呼ばれる女たちがチップをもらって働きます。「イルマやドーラたちが憲兵隊に呼ばれたの知ってる?ドイツ人大使館の人たちとドライブに行って横須賀で記念写真をしたんだけど、そのバックが問題なのよ。みんな自動車飛ばして大使館に引き揚げたから憲兵の負けね。でも女たちだけ一晩とっちめられたのよ。」「あんたも気を付けなさいよ。ここは外人が多いから何かと女たちに目をつけているのよ。」アグネスこと花子は、共産主義の学生である店のボーイと親しくなり、同棲生活をしながら「蟹工船」はじめプロレタリア文学の読書に熱中します。
「モーツァルト」
「私はゾルゲです。アグネス、今日は私の40歳の誕生日です。」いかにも強靭で精悍なドイツ人客とデートの約束をしたアグネスこと花子は、翌日楽器店でモーツァルトのピアノとバイオリンのためのソナタのレコードをプレゼントされ、ドイツ人アウグスト・ローマイヤーが経営する洋食レストラン「ローマイヤ」で食事をします。拙い英語とドイツ語でしどろもどろに話す花子に、ゾルゲは始終にこやかに笑いながら少しずつ話しかけます。「私はドイツ紙フランクフルター・ツァイングの特派員です。」やがて、お手伝いさんが掃除・洗濯・食事の世話をしてくれるゾルゲ宅で週の半分を過ごすようになり、まもなくゾルゲの世話で東中野に一軒家を借りると母と姪っ子を呼び寄せます。そして武蔵の音楽学院のドイツ人教授アウグスト・ユンケル宅に通って、岩倉具視の孫にあたる長女ベーラのもと念願の声楽を習い始めます。
「エゴイスト」
「あなた、ベビーつくりません?」「わたしおじいさん、早く死にます。可哀そうな、ベビーさんなくていいです。あなた勉強します。ゾルゲなくていいです。」「あなたと一緒にドイツに行きたいです。」「戦争長いだめです。たぶん少し後で行きます。」「一人日本であなた寂しくない?」「あなたがいい勉強できるなら、私淋しい、仕方ない。私嬉しいです。」「私とあなた結婚していません。私淋しいです。」「あなたはエゴイスト。人はエゴイストであってはダメです。私エゴイストでない。本当です。」「あなたゾルゲと一緒に死にたい?」「私死ぬの怖いです!」「あなた嘘つきでない。本当話します、いいです。あなた心配しなくていい。あなたママさんと小さなガールあります。死んではダメです。ゾルゲ強い男、あなたのこと話しません。」
「義歯の金の指輪」
中野上髙田で敗戦を迎えた花子は、2・3の新聞を読んでゾルゲの刑死を知ります。衣食住に追い立てられるまま、三鷹で小さなバラック建て新居を手に入れると、姪と一緒に移り住んで下宿屋を始めます。ひと段落ついた翌年には、同人雑誌の会員になってゾルゲの思い出を書きためます。「米国陸軍省公表のゾルゲ・スパイ事件の全貌」と題した報道で、ゾルゲが「尊大・残忍・酒豪・漁色家」と非難されるのに激怒した花子は、下宿していた学生の伝手で、一部を雑誌『旬刊ニュース』に発表後、三宅華子のペンネームで「人間ゾルゲ」を刊行します。弁護士事務所・東京拘置所・雑司ヶ谷霊園の共同墓地・共産党本部へ何度も出向いてゾルゲの埋葬場所を探し当てると、多磨霊園に12㎡の墓地を購入し石柵をつくり木製の墓標を建立、一人で墓守りを続けます。しばらくして「尾崎・ゾルゲ事件犠牲者救援会」が発足、ソ連政府がゾルゲを名誉回復、墓碑は石碑に改修されます。花子はゾルゲの義歯で作った金の指輪をはめて生涯独身のまま89歳で逝去。
-"Qui êtes-vous, Monsieur Sorge?"(1961)
-「人間ゾルゲ」(三宅華子 著 / 日新書店1949)
-「愛のすべてを : 人間ゾルゲ」(石井花子 著 / 鱒書房1956)
-「ゾルゲ事件と現代」(尾崎秀樹 著 / 勁草書房,1982)

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