【読書ノート】前田安正『マジ文章書けないんだけど』 ~ 就活で勝つための文章の書き方 エントリーシート編 ~
就活を有利に進めるための文章とは?
文章コンサルタントの前田安正 著『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)は文章を書くことが苦手な人に向けた指南書だ。どんな場面でも使うことができる一生モノの文章力を身につけるための基本が本書に詰め込まれている。
「世界一わかりやすい文章教室」という謳い文句はやや誇張気味だと思うが、物語形式で平易に解説されている。多くの学生や新社会人が手に取りやすいのは納得がいく。
著者の前田氏は「まえがき」の中で、ストーリー性こそ文章力の要になると考える。特にビジネスの現場では文章力が求められる機会が少なくないと指摘する。
< メール、手紙、|稟議《りんぎ書、企画書… 社会に出ると、想像以上に文章に関わる機会が増えます。「いまはパワーポイントで説明すればいいんだから、文章なんて書けなくても大丈夫だ」という声もあるでしょう。しかし、そのパワーポイントもどういうストーリーで作るのかによって、説得力に大きな差が生まれます。そのストーリー作りこそが文章力です。
特に就職活動を目の前に控えた大学生は、エントリーシート(ES)をいかに書くかが、その先にある世界に踏み出せるかどうかの一里塚でもあります。>
前田氏の言葉の通り、ビジネスの場で求められる文章は実に幅広い。先述本書で取り上げた文章に関わる機会のケースはいずれもビジネスパーソンにとって習得しなければならない面が否めない。だからこそ、その「型」を学ぶ必要がある。本書はそのための処方箋になるはずだ。
ここでは、就活を控えた大学生を対象とした文章の書き方を紹介することにする。
エントリーシートや履歴書を書いていく中で、どのようにしてうまく伝えることができるのか。もちろん、若者たちが学生時代で経験してきたことや問題意識をベースにしたアピールポイントになる。一方で、企業並びに人事部の採用担当者側は若者の人物像や経験を自社で活かせるかどうかを見極めている。そのためにはストーリーを組み立てた文章が望ましいのだ。学生たちが経験してきたことをイメージしやすいように書けば、いざ面接で対面した時、双方で深堀りすることができるからだ。
読者にとっても、大事な一生を決めるための文章の作法を知りたい方が大勢いるはずだ。それらの例を紹介した上で私なりの視点を述べていこうと思う。本稿ではエントリーシートを題材に扱うことにする。
スリムなボディで力強く
まず、就活を始めるにあたってはネットで求人情報を把握し、会社説明会を予約して出席したり、OB・OGの訪問をして仕事の醍醐味や業界の特長を知ったりする機会を自ら得ることだ。そこで得た知見をもとに応募先にエントリーシートを書いていくのが一般的だ。だが、周りの学生と同じような内容を書いても、企業側には届かない。むしろ、殺到する応募者から順次捌いていかなければならない。それで面接で会うべき人を選別しているわけだ。競争率の高い会社の場合は「選ばれし者」になることができるのはごく少数だ。だから、書き方に迷ってしまう。そこで重要なのは自ら書いたPRの内容をスリム化して力強い内容にすることだ。
本書では、主人公の「浅嶋すず」とカフェに通う「謎のおじさん」との対話を繰り広げる物語を展開している。さっそく読んでみよう。
ところで、何のために会社に入るの?
ー えーと、本音の部分で言えばオカネを稼ぐためかな。
正直でよろしい。まあ、それを否定することはできないよね。でも、会社はなんで社員にオカネを払うんだろうね。
ー 会社の役に立つっていうことじゃないかな。
ー ほかに何かあるんですか?
自分のValue(価値)を会社に売るっていう考え方。
ー Value?
そう。自分以外の人には真似できない何かがあれば、会社という組織の中での存在意義が増すだろ。
ー チャプリンの「モダン・タイムス」で描かれている世界とは逆ですね。
そうだね。機械と同じような歯車になった人間の尊厳を問う映画だったよね。あれはまさに労働時間を売っているわけだよね。でも変化の激しい現代では、会社にとっても単に労働時間を売る人ではなく、会社が存続するための知恵や発想、創造力を持った人が欲しいんだ。ESはそこを見ていると思った方がいい。
ここで重要なのは就活生が持っているValue(価値)を社会にどうアピールするかが鍵になる。いわゆる市場価値だ。
大学生の場合、まだ職に就いていない身分である。それだから、学生時代に頑張ったこと(ガクチカ)から自分の価値を見出し、会社の売上などの貢献に寄与するエピソードをPRネタとして探す必要がある。それをやらないと、新卒で入った会社でミスマッチが起こりやすくなる。学生と新卒採用担当者の双方にとって損だということになる。特に後者はミスマッチを防ぎたいという狙いがある。一方の学生も「自分の得意なことを活かしたい」という方が大勢いるだろう。能力や資質において相互にすり合わせる必要があるからだ。
謎のおじさんの助言は貴重だ。我々は千変万化の時代を生きている。AIの到来によって労働市場は大きく変わる。その波に乗れるか。はたまたあえて波に乗らず、違う選択をするのか。学生の考えに委ねられるところだろう。
「会社を存続するためには時代の変化に応じた知恵や発想、創造力を持った人が欲しいんだ。ESはそこを見ていると思った方がいい。」という視点は重要だ。書く前に今一度自らの経験を振り返ることだ。
企業側も他社との差別化をはかり、イノベーションを起こして知名度の向上に努めないと新規の顧客を集めにくくなる。そのための創造力の源泉が学生の経験談のどこにあるのかを自分の頭で考えなくてはならない。
就活で全敗した私が言うことではないが、商業に肌が合わないと考えていた自分は当初、研究者になる道しか考えられなかった。だが、現実は厳しかった。もちろん、大学生の時に就活をしたものの、心のモヤモヤが晴れずに途方に暮れる毎日を送っていた。
あれから年齢を重ねるにつれて、ようやく言語能力に適性があると感じた。早い段階から気づいていれば、出版社に就職して辞書編纂者の仕事に精を出していたかもしれない。あるいは言語系の専門職に就いていたかもしれないと我ながら反省している。
エントリーシートの作り方
さて、ESの構成について再度おさらいしよう。
① 自己PR / 学生時代に頑張ったこと (ガクチカ)
② 志望動機
以上の二つの項目で文章を書いていく。二人の会話に戻ろう。
ー たった二つだけですか?
自己PRって、学生時代に頑張ったことだろ。学業、部活、学外活動が中心になるから、本来はあまり差がつかないはずなんだ。それでもESを読むと違うんだよね。ここがしっかり書けている学生は、志望動機もしっかり書けてるんだな。
ー それでも、志望動機は難しいですよ。 そういうものなのか~。
志望動機のために、企業研究をするだろ。でもそんなものは、いくらでも資料があるから、実はさほど難しくないんだ。
書店の就活コーナーにいろいろな本が並んでいるし、大学の就職部にも資料はあるだろうしね。それを基にOBやOGを訪問して確認することもできるから。
ー そうかあ。資料はたくさんありそうですね。
何度も言うようだけど、自分が何者かがわかっていないと、自分がやりたいことと、その会社が求めているものとを比べられないからね。
最後の「自分が何者かがわかっていないと、自分がやりたいことと、その会社が求めているものとを比べられないからね。」という指摘は概ね正しい。
就活を進めるにあたって、業界研究・職業適性・ガクチカを中心に考えていくと見えてくるものがある。一人で解決できない場合は大学のキャリアセンターで職員にアドバイスを貰ったり、職業適性検査の結果に基づいた形で学生向けのキャリアプランナーに相談してベストな選択を考えてみたりなどの具体的な行動をする必要がある。
近年、学生の就職率と将来のキャリア設計に力を入れている大学がある。大学教授の中には就職部門を担当する委員を担っていることがある。その人を頼りに業界研究と企業選びを深く掘り下げていくことだろう。大学教員には企業で働いた経験を持つ人が存在する。その方から就活の心得や適切なアドバイスを聞くことも大事な指標になる。
エントリーシートの設問
次に、エントリーシートの設問の典型例を挙げてみよう。
① 学生時代に一番力を入れたことを具体的なエピソードを交えて記入してください。
② これまでの人生のなかで取り組んだ一番難しい課題について教えてください。
③ あなたが学生時代にした最大のチャレンジは何ですか。具体的に記してください。
以上の設問だ。いずれもシンプルな問いだが、企業側が提示する規定内の字数で書かなくてはならない。
謎のおじさんはすずに「ちょっと長めの400字でまとめてごらん。」と指示した。
400字以内でまとめた浅嶋すずの自己PRは以下の通りである。
小学5年から吹奏楽でトランペットを吹いてきました。大学では応援部のなかにある吹奏楽に所属しました。仲間のなかには不満を持つ者もいました。3年の時に、独立した吹奏楽部を作りたいと、後輩が大量に退部願を出してきました。しかし、機材や専門の先生に指揮をお願いする予算などをまかなうことは、現実問題として困難です。何よりも吹奏楽を中心に集まった仲間がバラバラになってしまうことがとても残念でなりませんでした。
そこで、ひとりひとりに会って、意見を聞くことから始めました。毎日毎日、後輩を誘ってカフェに行きました。そして応援部の活動と、吹奏楽の練習時間を取って発表し、吹奏楽の大会にも参加する案をまとめました。練習はかなり厳しくなるけどいい?と聞くと、みんなそれでもいいと言ってくれました。応援部にも話をするといいんじゃないか、と返事をもらいました。結局、ほとんどの仲間を部に呼び戻すことができました。 (395字)
吹奏楽部での出来事を書いた内容だ。これに謎のおじさんは筆を取って修正しながら、すずにエピソードの内容を聞き込んだ。
「大学では応援部のなかにある吹奏楽に所属しました。仲間のなかには不満を持つ者もいました。」
ってさらっと書いているけど、どうして応援部のなかにある吹奏楽に所属したの?なんで仲間は不満を持ったの?そこを知りたいな。
ー それは、独立した吹奏楽部がなかったんです。オーケストラ部はあったんだけど。
それじゃ、そこを書き加えた方がいいな。
謎のおじさんの一つ目の改善例は次の通りだ。
小学5年から吹奏楽でトランペットを吹いてきました。大学には独立した吹奏楽部がなかったため、応援部のなかにある吹奏楽に所属しました。仲間のなかには「応援部の吹奏楽」に不満を持つ者もいました。
どうやら、すずは理由(Why)の部分を忘れていたようだ。
謎のおじさんは次の文ではたと疑問に思った箇所を見つけた。
ここの「独立した吹奏楽部」ってどんな形なのかな。
ー 自主的な同好会サークルにしたいって。
それじゃ、それも書き加えておこうよ。
二つ目の改善例だ。
3年の時に、独立した吹奏楽部を作りたいと、後輩が大量に退部願を出してきました。同好会のサークルとして活動するというのです。しかし、機械や専門の先生に指揮をお願いする予算などを賄うことは、現実問題として困難です。
スッキリしており筋道の通った文章になりつつある。
次の文の「何よりも吹奏楽を中心に~」は高評価を得た。すずは少しほっとした様子と同時に笑みを浮かべた。
だが、謎のおじさんは次の文について「?」を浮かべ、表現を変えるように助言した。
「そこで、ひとりひとりに会って、意見を聞くことから始めました。毎日毎日、後輩を誘ってカフェに行きました」
まあ、具体的に書こうという意欲はわかるけど「毎日毎日、後輩を誘ってカフェに行きました」って書くと、コーヒーをご馳走して折伏した、みたいな感じに受け取られても逆効果だから、ここは「会って話を聞いた」くらいでいいんじゃないかな。
ー えー、その見方やらしくないですか!?
それにコーヒーじゃなくてパフェだし。
折伏とは、仏教用語で相手の誤った見解(悪法・邪智)を打ち破り、真実の教えを伝えて迷いから目覚めさせることを意味する。
何だか妙な話の展開になりそうな予感がする。
三つ目の改善例は次の通りだ。
そこで、ひとりひとりに会って、意見を聞くことから始めました。
いよいよ最後の部分だ。謎のおじさんは最後が肝心要だという。「そして応援部の活動と~」の文を読み、全体の流れは良いほうだと評価する。ただ、表現に幼さを感じるとし、修正案を出した。
「応援部の活動と、吹奏楽の練習時間を取って発表し」のところを、応援部の活動をしたうえで、さらに頑張るっていう感じを出したいね。何を発表するのって疑問が残る。「案をまとめ」てどうしたんだろうね。
ー 確かにそうですね。「発表の場を設ける」っていう意味です。
次のところも「案をまとめてみんなに提案した」ってことを書きたかったんです。
これで活動を全面的に頑張ったというアピールにつながる。しかし、謎のおじさんは次の文に対して手厳しい。
「練習はかなり厳しくなるけどいい?と聞くと、みんなそれでもいいと言ってくれました。応援部にも話をするといいんじゃないか、と返事をもらいました」
この部分のバランスが悪いな。ここだけ口語体になっているからね。
この指摘は重要だ。「文は人なり」という言葉がある。文章で書く場合、文語体でなければならない。面接などの口頭試問は相手との対話で成立する。口語文で書くのは文章のルール上NGだ。
四つ目の改善例は次の通りだ。
そして、応援部の活動とは別に、吹奏楽の練習時間を取って発表の機会を設け、吹奏楽の大会にも参加することを提案し、応援部の協力も得ました。練習はこれまで以上に厳しくなりましたが、退部願を出したほとんどの仲間を呼び戻すことができ、以前よりも結束力が高まりました。
四つの改善例を合わせると、
小学5年から吹奏楽でトランペットを吹いてきました。大学には独立した吹奏楽部がなかったため、応援部のなかにある吹奏楽に所属しました。仲間のなかには「応援部の吹奏楽」に不満を持つ者もいました。
3年の時に、独立した吹奏楽部を作りたいと、後輩が大量に退部願を出してきました。同好会のサークルとして活動するというのです。しかし、機械や専門の先生に指揮をお願いする予算などを賄うことは、現実問題として困難です。
そこで、ひとりひとりに会って、意見を聞くことから始めました。そして、応援部の活動とは別に、吹奏楽の練習時間を取って発表の機会を設け、吹奏楽の大会にも参加することを提案し、応援部の協力も得ました。練習はこれまで以上に厳しくなりましたが、退部願を出したほとんどの仲間を呼び戻すことができ、以前よりも結束力が高まりました。
ね、これで398字。書くべきことをしっかり書き込んでいけば、このくらいの字数にはなるんだよ。あとは必要に応じて、これを縮めればいいだけさ。
400字近くで自己PRをまとめることができた。これが学生時代に頑張った経験をコンパクトに伝えることができる文章になる。
・ 自分のValueを見つける
・ コンパクトでスリムな文章を
・ 必要なことのみ書く
・ ESがんばる
すずは以上の4つのポイントを踏まえてエントリーシートを書き、志望企業に応募するのであった。
400字以内? 400字程度? 400字ジャスト?
私はエントリーシートの字数についてひとつ疑問が浮かんだ。字数制限のことだ。企業のエントリーシートの記入欄で「400字で書いてください」と指示されることがある。だが、指示する内容によっては解釈が違ってくる。
「400字以内」と書かれていたら、400字以内でまとめればいい。しかし、これだと200字でも300字でもよいと解釈できる。企業側もそれでよしとするのか。おそらく多くの応募者の中から面接へ案内したい人を選ぶわけだから、字数が少なくても短くわかりやすい文で伝えてくればいいというなら、学生側は書きやすい。だが、「400字以内」と指定しても、400字近くの字数がなければならないと規定するなら話が違う。これは企業の見方によるものだろう。
次に「400字程度」についてだ。これがなかなか曖昧で難しい。
「程度」は物事の数量、強度、優劣などの「度合い」や「限度」を指す名詞を指す。
「○○字程度」は指定された文字数の前後10%〜20%(約9割〜11割)の範囲で記述するのが一般的ルールだ。厳密に言うと、390字から410字の間であれば許容範囲ということになる。そこまでして「文章をまとめる力」が会社生活にとって必要な基準になるのか。元より、長い文章はかえって読みにくくなる。取引先の企業は一日のスケジュールを計画的に組んでいるため、なるべく文章を読む負荷をかけたくない。だから、本質を突いた短文を求めてくるはずだ。
しかし、先述の通り、「○○字程度」の書き方を指定して、「これなら面接へ案内しよう」と思えるのか。むしろ、中身が重要なのではないか。そう思ってしまうのは私だけだろうか。
最後に「400字ジャスト」だ。これは厳しい。必ず400字に収めないといけなくなる。企業が「○○字」と指定していたら、「○○字で答えなさい」という解釈になる。その文字数ぴったり(またはその文字数に最も近い数)で書かなくてはならない。そこまで厳正なルールを敷くのか。
いずれにせよ、企業と学生の間で文字数や内容で決めてしまうと齟齬が生じやすい。企業が「この人は欲しい」と思う人材が獲れなくなってしまう。学生たちも泣き寝入りをすることになる。これでは本末転倒だ。
そんな疑問を氷解してほしい。単なる思い込みであれば、それで構わない。
今日はここまで。本書をもとにした志望動機の書き方については次回記す。
<参考文献>
前田安正『マジ文章書けないんだけど』大和書房 2017
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