てへぺろRock'n Rouge【松田聖子ちゃんグラフティ】
80年代アイドルは、生放送、生演奏、生歌が当たり前の時代。
「可愛くて歌が上手い」は大前提というか、もはやスタートライン。
逆に、可愛くて歌が下手であれば、それはそれでよかったとも言えます。
ただし、その「下手」すら個性的でなくてはならない。
考えてみると、なかなか過酷な世界だったのかもしれません。
そして、すべてが「生」の世界では、時としてハプニングが起こります。
その最もわかりやすい例が、歌詞を忘れたり、間違えたりすること。
生放送で歌詞を間違える。
それはつまり、そのまま全国に放送されるということです。
今ならちょっとしたハプニングとして笑って済ませられそうですが、なぜか当時は「歌詞を間違えるなんて、あってはならない」という空気感があったような気がします。
聖子ちゃんといえば、そんな生放送、生演奏、生歌の時代を駆け抜けたアイドルです。
移動中に歌わされたり、別の仕事をしているところへ突然中継が入ったり。
今では考えられないような状況で歌うこともあり、さまざまなアクシデントが起きる要素を孕んだ時代でもありました。
ところが聖子ちゃん、意外なほど歌詞を間違えることが少ない歌手でもあります。
というより、これは聖子ちゃんに限った話ではなく、当時のアイドルたちは「歌詞を間違えない」という一線を、頑ななまでに守っていたような気がします。
生放送、生演奏、生歌が当たり前だったからこそ、そこはプロとして絶対に外してはいけないものだったのかもしれません。
今思えば、あれだけ生で歌っていたのに、よく間違えなかったものです。
そんな聖子ちゃんの「歌詞忘れ」として最も有名なのが、『ザ・ベストテン』での「Rock'n Rouge」ではないでしょうか。
というか、逆にこれをすらっと思い出せたあなたは、相当な聖子ちゃんマニアとも言えます。
いずれにしても、あの世紀の「てへぺろ」は伝説級ではないでしょうか。
もちろん当時、「てへぺろ」という言葉はありません。
でも、これこそまさに絵に描いたような「てへぺろ」。
歌詞が飛んでしまったその瞬間。
「やっちゃったー」
あの表情です。
困って取り繕うわけでもなく、その一瞬の表情だけですべてを成立させてしまう。
これもまた、アイドルとしての素質なのかもしれません。
そもそも「てへぺろ」とは、「てへっ」と照れ笑いしながら「ぺろっ」と舌を出す仕草を組み合わせた言葉です。
そのルーツをたどっていくと、
「へへ/へへへ」
↓
「てへへ」(照れや、ばつの悪さを含んだ笑い)
↓
「てへ/てへっ」
↓
「てへぺろ」
という流れで考えることができます。
「へへ」から「てへへ」が、いつ、誰によって生まれたのかについては、明確な初出を特定するのは難しいようです。
そして「てへぺろ」という言葉そのものが広まるのは、聖子ちゃんのこの場面からずっと後のこと。
つまり聖子ちゃんは、「てへぺろ」という言葉が存在するはるか前に、完璧な「てへぺろ」をやっていたわけです。
歌詞を忘れるという、本来なら「あってはならない」ハプニング。
それすら、なぜか可愛らしい一場面になってしまう。
失敗したのに、それを見た人まで笑顔にしてしまう。
これもまた、松田聖子というアイドルの凄さなのかもしれません。
動画を探すと、この映像は今でも見つけることができます。
聖子ちゃんらしさ全開の、元祖……とは言えないまでも、あまりにも見事な「てへぺろ」。
改めて、ご堪能あれ。



