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(383) 今野勉「宮沢賢治の真実―修羅を生きた詩人」



こんにちは。
春3月です。桜は早くも関東を通り過ぎようとしています。卒業式の桜、入学式の桜、いずれも人生の節目で印象に残るものです。それが季節のずれというのでしょうか。何か寂しい感じがします。
無法にして倫理のかけらもないアメリカとイスラエルのイラン攻撃に春の心は乱れています。何処の地でも花が咲き緑茂り、暮らし学び語り合うはずの地が、死傷者と瓦礫と悲しみに満たされるのはやり切れません。

さて、今回の書評は、




今野勉「宮沢賢治の真実―修羅を生きた詩人」新潮社 2017年

童話作家、詩人など幾つもの顔を持ち親しまれる賢治。「銀河鉄道の夜」は重ねられた暗喩を秘めた難解さがあり、禍々しい一群の文語詩。悲しさと脆さを見つつ賢治の生涯を探る。
そこには、高等農林学校以来の親友保阪嘉内との一種の恋愛感情が絡む訣別があり、一方には最愛の妹トシの女学校での初恋と破綻、そして死がある。この二つが大きな契機ではなかったのか。煩悶と夢に生き、実生活との乖離に悩む高等遊民を思ってしまう。




<今月の本棚>


酒井信「松本清張の昭和」講談社現代新書 2025年

巨人清張が自らを語ることは少ない。「半生の記」「父系の指」など自伝的な作品で語っているのは、それぞれ断片的である。出生から転居、父親母親との関係とそれへの思いを尋ね、困難で屈折した職業生活を掘り下げている。まとまった清張伝として、彼の作品に投影されその背景が理解できる。朝日新聞での下積み生活は澄ましたエリートへの反感として、社会の裏側を鋭く突く小説の題材になっているのだろう。


美達大和「百折不撓を生きる 明治編―高潔・無私をみごとに生き切った明治の10人」敬文社 2024年

それぞれの時代には、それを具象化する人物がいる。正統的であろうと、その反対であろうと人物を通じて時代を見るのも興味深い。本書では明治期に一時代を画した10人が取り上げられている。山岡鉄舟、田中正造、荻野吟子などいずれも人口に膾炙された人士である。
私は山岡鉄舟の名を聞いて一つのことを思い出した。中学生の時、梅風塾(?)に通い英語と数学の講義を受けていた。そこは本来剣道道場で、道場主は中川久平さんだった。中川先生は山岡鉄舟を深く尊敬し、道場名は鉄舟道場が本来であった。板張りの道場に座り机をずらりと並べ、塾出身の北大早大ОBが講師だった。授業料は実費程度、利益度外視の塾だった。中学生の頃を懐かしく思い出した。


内田樹「昭和のエートス」文春文庫 2012年(再読)

何かのきっかけでウチダセンセが読みたくなる。久米宏、不破哲三、ジャンボ尾崎、内館牧子など相次いで旅立った。昭和が急ぎ足で去っていく、感慨を覚える。そんな時本棚で目についたのがこの本だった。昭和を懐かしむ一人として、引き込まれる。
ウチダセンセは「昭和人」は「昭和生まれの人間」ではなく「昭和という時代を作り出し、生きた人」のことであると定義する。だから「敗戦という断絶をどう生き延びるかということを個人的に避けて通ることのできない思想的・実践的課題として引き受けた人々だけを私は『昭和人』と呼びたいと思う。」と規定する。
さすれば昭和22年生まれの私は昭和人ではなくなる。では何と称するべきか。そうだ憲法施行の年に生まれ、少年青年時代を過ごしたのだから「憲法人」とは如何だろうか。「戦後人」と呼ぶ手もあるか。「昭和人」とは戦火を潜り抜け、生き抜いた元戦車兵の父、東京大空襲経験者の母、そして祖父母の世代がふさわしいのだろう。


島村恭則「昔話の民俗学入門―民間伝承の秘密を読み解く」創元社 2025年

幼き日に母から聞かされた「昔々あるところに」で始まる昔話、今でも覚えている話がいっぱいある。母や祖父母、耳元で語ってくれた声がよみがえる。
では、昔とはいつ頃であるところにはとはどこか。そんな野暮なことを聞いてはいけない。筆者によると日本の昔話の総数は約6万、それを民俗学では4種に分類しているという。 連綿と語り継がれたものから、最近の都市伝説まで幅広い。土地土地の伝承やら、土俗的信仰もある。また海外からの移入が換骨奪胎され、地元で合体して定着した話も。その時々や地域での喜怒哀楽と生活感もうかがえる。




【弥生雑感】


▼ 3月は10日の東京大空襲があり、11日の東日本大震災・福島原発事故の記憶も新しい。改めて平和と安寧を願うその矢先に報じられたのはアメリカとイスラエルによるイラン急襲であった。まさに核協議が継続中であり、何らかの歩み寄りが期待されていた。その相手に突然ミサイルを撃ち込み指導者を抹殺、さらに小学校も空爆し幼い女子児童を殺害する。これぞ非人道的であり、瞠目結舌許されざる行為である。トランプという危機が世界を覆っているかのようだ。
また、全身ハリネズミのように逆立てているイスラエル。司法の追及を避けるかのようにネタニヤフは戦争を繰り返している。アメリカをそそのかしているのはイスラエルではないかとする見方もある。イスラエルをここまで増長させたのは何故なのか。
一方の当事者イラン。決して褒められた国ではない。民主的とは言えぬ強権的支配体制で、人権侵害も少なからずある。だから侵略してよいことにはならない。特に今回のように(昨年もそうだったが)協議中に爆撃するとは卑劣である。日本の真珠湾攻撃を非難できる筋ではない。


▼ 日米首脳会談の詳細が報じられるようになってきた。テレビではトランプに抱き着くタカイチがいる。女性が恋しい男の胸に飛び込む、或いは長らく引き離されていた娘が父親と再会を果たす。新派や人情劇芝居なら大向こうの喝采を浴び、紅涙を絞るのであろう。でも阿諛追従とはこの人のためにある言葉だろう。空母の艦上で飛び跳ねた姿の再現か。臆面もなく宗主国の大王に媚びる姿に何を見るべきか。自己顕示自己愛の塊のような大王様のご機嫌取りにご執心なのか。
記者からイランへの奇襲攻撃の是非を問われたトランプは、真珠湾攻撃を引き合いに出して正当化していた。この発言をタカイチはどんな思いで聴いていたのか。外交儀礼上からは勿論、歴史的行きがかりからも看過し難い発言であろう。奇襲攻撃はベネズエラの例にみられるとおり、超大国の得意技なのだろう。


▼ 当家の玄関には「雨にも負けず」の額が飾ってある。子供の頃に読んだ彼の童話には引き込まれた。単に読むよりも声に出して朗読した方が賢治らしい。「風の又三郎」ではドッドド、スパスパ、ビルルなどのオノマトペが多用されてリズム感があり、雰囲気が伝わる。オノマトペを効果的に入れることにより、躍動感が生まれ印象的で臨場感が強まる。賢治は文才は際立ち誠実で複雑な精神構造だと思う。
農村での実践に献身したり、肥料会社の営業をしたり、花巻農学校で教師になったりと忙しい。一方では法華経にひかれて上京し、国柱会での活動に熱中している。それでいながら筆は休まず膨大な原稿を残している。その生活を支えたのは、結局うまく折り合えなかった父親の財力であったことも見逃せない。不思議な魅力を備え、異彩を放って夭折したのを惜しむ。


▼ 言葉と文章のリズム感と言えば、以前紹介した齋藤孝には「声に出して読みたい日本語」がある。暗誦文化の大切さと再興を願い編んだという。
歴史の中で伝えられ生き抜いていた名文には生命観と律動感があり、声に出して読むことにより心の力につながると説く。賢治もそうであるが、森鴎外や私の好きな中島敦などの文章が思い浮かび共感する。




☆徘徊老人日誌☆


3月某日 朝ラジオのニュースに驚く。アメリカ、イスラエルがイラン空爆、指導者殺害とのこと。びっくりの次に怒り湧く。


3月某日 夜来の強風に目が覚める。飛ばされては大変、起床後駐車場の屋根を補強する。先月末以来の強風は収まらず、春一番どころか折角の陽ざしもぬくもり薄まる。


3月10日 東京大空襲の日、10万人に及ぶ犠牲者。戦災による一般国民への補償はなく軍人恩給は支給され、東条英機などの高級軍人は優遇されている。「私達には何の補償もなかった」母の言葉を思い出す。


3月11日 東日本大震災・福島原発事故の日、地震発生に合わせて黙禱する。この日は屋根裏部屋で書き物をしていた、強烈な揺れに蹌踉と階下に降りて外を見ると電柱がしなり、民家が大きく揺れていた。
しばらくしてテレビをつけると東北での津波映像。パニック映画ではない。人間がいて生活があるのだ。川沿いの町に住んでいた幼少時、十勝沖地震の津波襲来におびえ、眼下の自宅を高台で見降ろしていたことを思い出した。
原発事故の後始末は目途が立たず、故郷喪失者多し。


3月某日 学恩ある北田先生の命日。小川町まで掃苔に出かける。最後の旧制高校出身者らしい深い教養とお人柄を偲ぶ。


3月某日 ある人の逝去を知る。もう20年以上前になるのだろうか。私の想い人の一人である青函連絡船摩周丸は函館港に係留されている。そのイベントに参加した際に、初めて紹介されたS井朝子さんである。
かつて国鉄広報課の専属カメラマン(女性にカメラマンとは不都合かも、でも本人の名乗りなので)として活躍し、青函連絡船廃止後摩周丸保存に奔走された。知人に紹介され写真集にサインをいただいた。何度か摩周丸を訪れた際にお会いし、S井さん指定管理者である<語り継ぐ青函連絡船の会>事務局長のT橋氏らとグラスを傾けた(勿論サッポロクラシック)。ご冥福を祈っている。
もう一人の想い人八甲田丸は青森港岸壁に健在である。黄色の船体が印象的。そうだ!近々函館に行こう。


3月某日 釧路の同級生より久々の便りあり。同級生の一人がまた去った由。感慨あり。




花だよりが賑々しい。春は心ウキウキ出かけたくなる。晴れやかな気分に忍び寄る生活の不安。石油は?物価高騰は?もしかして戦争に巻き込まれるのでは?
どうぞ心身ともに健康でありますよう。


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