経営学部で学ぶ座学|コーポレートファイナンスで出てくる「リスクマネジメントとデリバティブ」
経営学部で学ぶ座学|コーポレートファイナンスで出てくる「リスクマネジメントとデリバティブ」
企業経営では、
「利益を増やすこと」
だけを考えていればいいわけではありません。
むしろ重要なのが、
予想外の出来事によって大きな損失を出さないこと
です。
例えば日本企業がアメリカに製品を輸出しているとします。
1ドル=150円なら、
100万ドルの売上は
1億5,000万円
になります。
ところが代金を受け取る半年後に、
1ドル=120円
になっていたら、
100万ドル × 120円
= 1億2,000万円
です。
商品は同じだけ売ったのに、
為替が動いただけで
3,000万円も売上が減ってしまいます。
こうしたリスクを管理するのが、
リスクマネジメント
です。
そして、そのリスクをコントロールするために使われる代表的な金融商品が、
デリバティブ
です。
1.企業にはどんなリスクがあるのか
企業が直面するリスクには、いろいろあります。
代表的なものを見てみましょう。
為替リスク
円高・円安によって利益が変化するリスクです。
特に、
輸出企業
輸入企業
海外工場を持つ企業
海外売上の多い企業
では重要です。
例えば、
トヨタ自動車のような海外売上の大きい企業では、為替変動が業績に大きな影響を与える可能性があります。
2.金利リスク
企業が銀行から、
100億円
を変動金利で借りているとします。
金利1%なら、
年間利息は約1億円。
ところが金利が3%になれば、
年間利息は約3億円。
つまり、
金利が上昇するだけで年間2億円の負担増
になります。
このようなリスクが、
金利リスク
です。
3.商品価格リスク
航空会社なら、
原油価格
が重要になります。
原油価格が上昇すると、
航空燃料の価格も上昇する可能性があります。
すると航空会社は、
「半年後に原油価格が上がったらどうしよう」
というリスクを抱えることになります。
食品会社なら、
小麦
大豆
トウモロコシ
砂糖
などの価格変動も重要です。
つまり企業は、
商品価格の変動によって利益が変わるリスク
も抱えています。
4.信用リスク
取引先が倒産して、
売掛金を回収できなくなる。
これが、
信用リスク
です。
例えば1億円の商品を掛け売りして、
その会社が倒産したら、
1億円を回収できない可能性があります。
銀行では特に重要なリスクです。
5.リスクマネジメントとは何か
リスクマネジメントとは、
単純に、
「危険なことを全部やめる」
という意味ではありません。
企業経営では、
リスクを取らなければ利益も得られません。
そこで重要になるのが、
取るべきリスクと、取る必要のないリスクを分ける
ことです。
例えば自動車会社なら、
「良い自動車を開発して売れるかどうか」
というリスクは、本業そのものです。
しかし、
「半年後にドル円がどうなるか」
で会社の利益が大きく変わる必要はありません。
そこで為替リスクだけを金融取引によって減らします。
これを、
ヘッジ
といいます。
6.デリバティブとは何か
デリバティブ(Derivative)は、
日本語では、
金融派生商品
と呼ばれます。
株式・債券・為替・金利・商品などの価格を基礎として、その値動きから価値が決まる金融契約です。
代表的なのが、
先物取引
先渡取引
オプション
スワップ
です。
この4つを理解すると、デリバティブの基本がかなり見えてきます。
7.先物取引
先物取引とは、
「将来、この価格で売買する」
と現在決めてしまう契約です。
例えば航空会社が、
半年後に大量の燃料を購入するとします。
現在、
1バレル=70ドル
だったとしましょう。
しかし半年後、
100ドル
になるかもしれません。
そこで、
「半年後に70ドル相当で購入できるようにしておこう」
という取引を行います。
すると価格上昇による損失を抑えることができます。
これが、
先物によるヘッジ
の基本的な考え方です。
8.先渡取引
先物とよく似ているのが、
先渡取引(Forward)
です。
違いを簡単にすると、
先物
→ 取引所で標準化された契約を取引する
先渡
→ 銀行などと個別に契約する
という違いがあります。
企業の為替ヘッジでは、
為替予約
が非常に重要です。
例えば、
「3か月後に100万ドルを1ドル145円で円に交換する」
とあらかじめ決めておく。
すると3か月後に円高になっても、受取額をある程度固定できます。
9.オプション
オプションは少し面白い金融商品です。
簡単にいうと、
「将来、決められた価格で売買できる権利」
です。
ポイントは、
義務ではなく権利
というところです。
10.コールオプション
コールオプションとは、
買う権利
です。
例えば、
「半年後に1株1,000円で買える権利」
を持っていたとします。
半年後、
株価1,500円
になれば、
1,000円で買えるので有利です。
逆に、
株価800円
なら、
わざわざ1,000円で買う必要はありません。
権利を使わなければいいわけです。
11.プットオプション
プットオプションとは、
売る権利
です。
例えば、
「1株1,000円で売れる権利」
を持っているとします。
株価が、
600円
まで暴落しても、
1,000円で売る権利を使えます。
そのため、
価格下落に対する保険
として利用できます。
12.オプションは保険に似ている
オプションは、
保険と考えると理解しやすくなります。
自動車保険では、
事故が起きなければ保険料は戻ってきません。
しかし事故が起きれば、大きな損失を防げます。
オプションも同じです。
オプションを購入すると、
プレミアム
という代金を支払います。
何も起きなければプレミアムはコストになります。
しかし大きな価格変動が起きたときには、損失を抑えることができます。
つまり、
プレミアム=リスクを限定するための保険料
と考えると分かりやすいでしょう。
13.スワップ
スワップ(Swap)は、
将来のキャッシュフローを交換する契約
です。
代表的なのが、
金利スワップ
です。
例えば企業が、
100億円を変動金利で借りているとします。
金利が上昇すると怖い。
そこで金融機関と、
「自分は固定金利を払う」
「相手から変動金利を受け取る」
という契約を結びます。
こうすることで、実質的に変動金利の影響を抑えることができます。
14.通貨スワップ
異なる通貨の資金を交換するものが、
通貨スワップ
です。
例えば、
日本企業がドル資金を必要としている。
アメリカ企業が円資金を必要としている。
こうした場合、
円とドルの元本や利払いを交換する契約を利用することがあります。
国際的に活動する企業では重要な金融技術です。
15.なぜ企業はデリバティブを使うのか
ここがコーポレートファイナンスとして一番重要です。
企業は本来、
商品やサービスを作って利益を得る会社
です。
自動車会社なら、
自動車を作ることが本業です。
航空会社なら、
人や貨物を運ぶことが本業です。
ところが、
為替
金利
原油価格
などが大きく動くと、
本業とは別のところで巨額の損失が発生します。
そこで、
本業とは関係の薄い価格変動リスクを金融市場に移す
わけです。
これが企業のデリバティブ利用の大きな目的です。
16.ヘッジと投機はまったく違う
ここは非常に重要です。
同じデリバティブでも、
使い方によって意味が変わります。
ヘッジ
すでに持っているリスクを減らす。
例えば、
航空会社
→ 燃料価格上昇をヘッジ
輸出企業
→ 円高をヘッジ
借入企業
→ 金利上昇をヘッジ
これは、
リスクを減らす取引
です。
一方、
投機
「ドルが上がりそう」
「原油が下がりそう」
などと予想してデリバティブを取引する。
こちらは、
利益を狙ってリスクを取る取引
です。
同じ金融商品でも、
目的がまったく違います。
17.デリバティブそのものが危険なのではない
ニュースでは、
「デリバティブで巨額損失」
という話が出ることがあります。
そのため、
デリバティブ=危険
と思われがちです。
しかし正確には、
使い方によります。
包丁と同じです。
料理に使えば便利ですが、扱い方を間違えれば危険です。
デリバティブも、
リスクを減らす目的で適切に利用すれば、
企業経営を安定させる重要な道具になります。
逆に、
高いレバレッジをかけて投機を行えば、
小さな価格変動でも巨大な損失につながる可能性があります。
18.企業価値とリスクマネジメント
では、
なぜコーポレートファイナンスでリスクマネジメントを勉強するのでしょうか。
目的は、
企業価値を守るため
です。
例えば為替変動によって突然赤字になれば、
設備投資ができなくなるかもしれません。
研究開発費を削るかもしれません。
銀行からの借入条件が悪化するかもしれません。
最悪の場合、
資金繰りが悪化します。
つまり、
単に利益が上下するだけではありません。
大きなリスクは、
企業の将来の投資や資金調達まで壊してしまう
可能性があります。
だから企業はリスクを管理します。
19.これまで勉強したコーポレートファイナンスとつながる
ここまで学習すると、
コーポレートファイナンスの各単元が一本につながってきます。
企業は、
資金調達
↓
事業へ投資
↓
キャッシュフローを生み出す
↓
DCF・NPV・IRRで投資判断
↓
株主と債権者への利益還元
という活動をしています。
しかし途中には、
為替リスク
金利リスク
商品価格リスク
信用リスク
があります。
そこで、
リスクマネジメント
を行い、
必要に応じて、
先物
先渡
オプション
スワップ
などの、
デリバティブ
を利用します。
20.個人投資にも同じ考え方が使える
この考え方は企業だけのものではありません。
株式投資でも、
1社だけに投資する
より、
複数企業・複数業種に分散することで、
個別企業のリスクを減らすことができます。
これは、
ポートフォリオ理論
につながります。
さらに、
株価指数先物やオプションなどを利用して市場全体の下落リスクを抑える方法もあります。
つまり、
ポートフォリオ理論
↓
リスクマネジメント
↓
デリバティブ
は、それぞれ別の話ではありません。
すべて、
「リターンを狙いながら、どのリスクをどこまで取るのか」
という同じ問題を扱っています。
まとめ
コーポレートファイナンスにおけるリスクマネジメントとは、
企業が抱える不確実性を把握し、企業価値への悪影響を抑えること
です。
代表的なリスクには、
為替リスク
金利リスク
商品価格リスク
信用リスク
などがあります。
そしてリスクをコントロールする代表的な金融手段が、
デリバティブ
です。
代表的なものは、
先物
= 将来の売買価格を決める
先渡
= 相対取引で将来の価格などを決める
オプション
= 将来売買できる「権利」を取引する
スワップ
= 将来のキャッシュフローを交換する
と整理できます。
そして最も大切なのは、
デリバティブは「儲けるためだけの金融商品」ではない
ということです。
企業にとってはむしろ、
予測不能な価格変動から本業を守るための道具
として重要です。
コーポレートファイナンスを学ぶと、
「企業はどうやってお金を集めるのか」
だけでなく、
「集めたお金と将来のキャッシュフローを、どう守るのか」
まで見えてきます。
これが、
リスクマネジメントとデリバティブ
を学ぶ意味なのです。

