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気づかないうちに下着が汚れる・便が漏れる|便意がない便失禁は便秘が作る

洗う回数を増やし、パッドを買い足したその手当ては、学会の指針が示す向きと真逆だ。貴方が黙って隠している間も、直腸には便が溜まり続け、感覚だけが鈍っていく。漏れているのは、締まりが悪いからとは限らない。

下着に、覚えのない汚れがついている。
おならのつもりで力を抜いたら、それだけでは済まなかった。
出かける前に、必ずトイレの場所を確かめるようになった。
誰にも言っていない。医者にも、言っていない。

helです。
ここに書くことには、必ず出典がある。学会のガイドライン、薬の添付文書、国の統計。裏が取れなければ、書かずに捨てる。
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その漏れは、正反対の2種類のどちらかだ

先に、日本での数字を出す。65歳以上を対象にした調査では、月に1回に満たない頻度まで含めた便失禁の有症率は、男性で8.7パーセント、女性で6.6パーセントだった。おおむね15人に1人から10人に1人の間だ。貴方だけではない。

ただし、この数字の出どころは1997年に行われた訪問面接調査で、対象は65歳以上の男女1,405名である。30年近く前の調査だ。ガイドラインが今もこれを載せているのは、日本での便失禁の疫学研究が少ないと学会自身が書いているためであって、今の日本の数字として保証されているからではない。

そのうえで本題に入る。貴方が「漏れる」の一語で片付けているものを、学会は最初に2つへ割る。

片方は、便意を感じているのにトイレまで我慢できずに漏らすもの。切迫性という。もう一方が、日本大腸肛門病学会が「便意を伴わず、気づかないうちに便を漏らす症状」と定義しているもので、漏出性と呼ぶ。両方を持つ人もいる。

なぜこの区別が要るのか。原因が違い、やるべきことが正反対になるからだ。

切迫性は、合図が来てから間に合わないという話だ。合図そのものは届いている。漏出性は、合図が来ていない。届いていない合図に対して、我慢する訓練をいくら積んでも意味がない。

便意がないのに漏れるのは、出しすぎではなく出しきれていないからだ

ここが今日の核心になる。

S状結腸から直腸へ便が移ると、直腸の壁が伸ばされる。その伸びが仙骨(せんこつ)から出る神経を通って脳に届き、そこではじめて便意という形になる。便意は、便が来た事実そのものではない。壁の伸びを感じ取れて、はじめて生まれる信号だ。

この感覚が鈍ると何が起きるか。便が直腸に入っても気づかない。気づかないから出さない。出さないから溜まる。そして溜まった塊の脇を、後から来た軟らかい便がすり抜けて出てくる。溢流(いつりゅう)と呼ばれる状態で、便意のない漏れの正体の1つだ。

数字がある。1,351例の患者を観察した研究で、便秘の症状を伴った便失禁患者のうち27パーセントに直腸の感覚の低下が認められたと、ガイドラインは引いている。さらに、便失禁で肛門の機能検査を受けた人を集めた解析(13編・2,981例)では、直腸の感覚が鈍っている人の割合は女性で7パーセント、男性で19パーセントだった。男性のほうが3倍近く多い。

この2,981例は、便失禁で専門的な検査まで受けた人の集団であって、漏れている人の全体像ではない。日本人だけの数字でもない。貴方がこの割合に当てはまるという話ではなく、便意のない漏れの背後に便秘が居座りうる、という話として読め。

おならのつもりが便だった、には仕組みがある

肛門の少し内側に、歯状線(しじょうせん)という境目がある。直腸に便が来ると内側の括約筋(かつやくきん)が一瞬ゆるみ、中身の一部がこの境目まで下りてくる。そこで体は、来たものが固いか、水っぽいか、ガスかを見分けている。ガイドラインはこれをサンプリング機能と呼ぶ。

この見分けが鈍ると、便とガスの区別がつかなくなる。おならを出すつもりで力を抜き、出てきたのが便だった、という事故はここから起きる。貴方の不注意ではない。

学会は、ガスが漏れることも独立した症状として定義している。便が漏れるのを便失禁、ガスが漏れるのをガス失禁、合わせて肛門失禁と呼ぶ。ガスだけなら症状ではない、とはどこにも書かれていない。

なお、ガイドラインは、ガス失禁を含めた肛門失禁の有症率として34.4パーセントという値も載せている。3人に1人だ。ただしその出どころは463人へのアンケート調査で、対象は平均年齢35.6歳の医療従事者で、7割が女性だ。この記事を読んでいる貴方の年齢層を調べた数字ではない。引くなら、但し書きごと引け。

貴方が今日やっている3つの手当ては、全部逆を向いている

手当て1|念入りに洗う。
汚れたのだから洗う。当たり前だ。だが、便が皮膚に触れて起きる皮膚炎について、ガイドラインが挙げているリスク因子の一覧には、洗いすぎることと拭きすぎることが並んでいる。原因の側に書かれている。
そして、このガイドラインが4段階のエビデンスの区分で最上位が与えられている推奨の1つが、皮膚のケアについてのものだ。アルカリ性の石けん以外で優しく拭くか洗い、保湿剤で潤いを戻せ、と。合意率は100パーセント。洗う回数ではなく、洗い方が問われている。

手当て2|パッドを当てる。
必要な場面はある。だが便がついたパッドの中は高温多湿になり、皮膚の防御はそこで落ちる。おむつやパッドの使用そのものが、皮膚炎のリスク因子として挙げられている。パッドは漏れた後の被害を減らす道具であって、漏れを減らす道具ではない。

手当て3|食べる量と水分を減らす。
出るものを減らせば漏れないだろう、という理屈は分かる。だが軟らかい便を伴う便失禁について、学会が推奨の強さを強く付けているのは、食物繊維を摂れという向きだ。合意率100パーセント、エビデンスの区分は上から2番目。減らす方向ではない。

この推奨を支える大きな数字の1つは、約6万人の高齢女性を長期に追跡した観察研究である。繊維の摂取が最も少ない群と最も多い群を比べると、便失禁のリスクは18パーセント低かった。ただし女性だけを追いかけた研究であって、男性で同じ差が出るとは書かれていない。

病院に行く線は、ここだ

ガイドラインの最初の分岐は、器質的な病気を除くところから始まる。次のどれかがあれば、漏れの手当てより先に、大腸の中を見る検査へ進めと書かれている。

  • 血便が出る

  • 排便の習慣が急に変わった

  • 心当たりのない体重の減少がある

  • 腹や肛門の近くにしこりを触れる

どれか1つで足りる。揃うのを待つ必要はない。大腸のがん、腸の炎症、直腸が下がってくる病気。こうしたものが背後にあれば、そちらを先に治すのが順番だ。

そして、これは貴方が自分で見分ける話ではない。見分けるために行くのだ。

ここまでは、漏れの正体の話だった。だが貴方が本当に困っているのは、正体が分かった後の一点だろう。それを、どうやって医者に言うのか。口に出せないから今日まで来た。その一言が言えないことが、貴方をここまで運んできた。

ここから先は、口に出さずに渡す方法を書く。学会が作った点数表を、貴方が自分で点けて、紙に書いて持って行く。それだけで診察は始まる。ここから先が、本当の生存戦略だ。


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