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『空き家問題』をナゼナゼ分析

1. Situation(状況)

沖縄の強い日差しが、色褪せた赤瓦の屋根を容赦なく照らしつけていました。かつて子供たちの笑い声が響いていたであろう古民家は、今や生い茂る雑草に埋もれ、潮風に吹かれるまま静かに朽ちていくのを待っています。

私が名桜大学で産・官・学連携プロジェクト(COC+)に関わっていた頃、沖縄北部地域の「空き家問題」は、まさに解決の糸口が見えない迷宮のようでした 。地域の寄り合いや行政の会議で語られるのは、いつも形のない「ため息」ばかり。「先祖代々の家を壊すのはもったいない」 「結局、行政が動いてくれないからいけないんだ」 「最近の若い人は地域の伝統に無関心すぎる」

そこにあるのは、行き場のない感情と、誰かを責めることで現状を維持しようとする印象論の壁でした 。 「では、具体的に何をどう解決するのか?」 その問いを投げかけても、返ってくるのは重苦しい沈黙だけ。多くの人は、この複雑に絡み合った社会の病理を前に、思考を停止させていました。「製造業の品質管理の手法を使えば、この混沌は整理できる」と私が提案したとき、周囲の反応は冷ややかなものでした。「機械と人間は違う。そんな数式のような理屈が、地域の心に通じるわけがない」と。

2. Task(課題)

私のミッションは、この重く湿った「感情論」の霧を晴らし、空き家問題を誰もが論理と構造で語れる「共通言語」へと翻訳することでした。 利害関係者の想いという不確定な要素を排するのではなく、それらすべてを構造の一部として組み込み、実践的な解決へと導くプログラムを設計することが、私に課された挑戦でした 。

3. Action(行動)

私は、社会課題を「教育」と「実行」のサイクルに乗せるため、以下のステップを踏みました。

① 方法論の獲得:CBL(Community-Based Learning)

まず、地域の課題を単なる「お手伝い」で終わらせないための骨組みを求めました。たどり着いたのは、米国のポートランド州立大学が提唱する Community-Based Learning(CBL) です。これは地域の現実を「生きた教材」とし、学生が調査・分析・提案までを正規カリキュラムとして遂行する実践教育です。私は現地に滞在してその設計思想を身体に刻み込み、帰国後、日本版CBLの先駆けとしてその翻訳と導入に心血を注ぎました 。

② 方法論の統合:QCサークル手法の導入

CBLという骨組みに、私は日本が誇る IE(経営工学)やQC(品質管理) の魂を注入しました。

-5 Whys(なぜなぜ分析): 「なぜ問題が起きるのか?」という問いを、表面的な現象で止めず、深層の真因に到達するまで繰り返す手法です 。

-A3レポート: 複雑な問題の背景、分析、対策、計画を、わずか一枚のA3用紙に論理的に集約する手法です。これにより、情報の羅列を「役立つ知恵」へと昇華させます 。

③ 実装と実行:地域課題解決PBL

名桜大学の学生と志ある社会人が集まり、チームを編成しました 。

1日目: QCサークルの専門家から「5 Whys」と「A3」の集中講義を受け、その足で大宜味村の現場へと向かいました。住民へのヒアリングを通じ、現場に眠る「事実(データ)」を拾い集めました 。

2日目: 収集した膨大な情報を、「5 Whys」を用いて徹底的に構造化し、A3レポートにまとめ上げる極めて濃密なグループワークを実施しました 。

4. Result(結果)

分析の結果、感情の陰に隠れていた「真因」が次々と浮かび上がりました。

移住促進チーム(グループ1)の分析: 移住者が溶け込めない根本的な理由は「地域風習への無関心」ではなく、「事前の体験移住ツアーの欠如」や「相談窓口の不明確さ」 という行政・環境側の不備にありました 。これに対し、「学生案内による家族向けモニターツアー」 や 「移住コーディネーターの設置」 という、具体的かつ魅力的な行動指針が提言されました 。

空き家活用チーム(グループ2)の分析: 活用が進まない背景には、「リフォームコストの不透明さ」や「仏壇・相続問題という心理的・法的障壁」 が複雑に絡み合っていました 。解決策として、三村が協同して「リスクプール」のメカニズムを活かした 「広域空き家バンク」の設置 と、専門知識を持つ 「空き家コーディネーター」の育成 が提案されました 。

参加者が完成させたA3レポートは、日本のCOC+プロジェクトにおいて、これまでにないほど高度に構造化された社会分析となりました。この成果は大学学長から絶賛され、地元新聞にも大きく取り上げられました。 何よりの収穫は、「感情でしか語れなかった空き家問題」を、データと論理に基づく「解決可能な構造」へと変容させたことです。これが呼び水となり、自治体や地域関係者を巻き込んだ大規模なシンポジウムの開催へと発展しました。

5. Learned Lesson(学びと未来)

このプロジェクトの成功は、確信を揺るぎないものにしました。 従来、製造業の生産現場で磨かれてきた IEやQC、5 Whys、A3シート といった「科学的な思考ツール」を、あえて「感情」が支配する社会問題の領域に応用したこと。これこそが、日本全国の産学官連携の中でも極めて先進的な試みであったと自負しています。

社会問題は、感情だけで解決することはできません。しかし、論理という光を当てることで、初めて「救うべき人々の想い」を形にすることができるのです。






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