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ラクリマライブ@桑名

その日、私は新幹線で推しのライブ会場へ向かっていた。はやる心を落ち着かせようと、かばんからガムを取り出す。
「噛みつづけてたガムも 底をついて 鼓動が抑えきれない」
お気に入りの歌の歌詞を思い浮かべながらニヤニヤしていたら、唐突に異物が混ざりこんできた。
…銀歯だ。
恐る恐る舌で口内をさぐると、右上にごっそり穴が空いている。

推し=ラクリマクリスティーは昨年、12年ぶりに復活した。ただし「期間限定」の活動で、今回のツアーは彼らの音楽を生で楽しめる最後の機会といえる。
別に奥歯の状態なんて誰からも見えないし、痛いわけでもない。
でも。よりによってなんで今日なんだ。
うっすら傷ついたまま、会場最寄りの三重県・JR桑名駅へ降り立った。

駅前で、桑名出身のボーカルがSNSで紹介していた安永餅の店を見つけた。案の定、ファンが詰めかけて行列が店の外にまで飛び出している。店員さんたちは、唐突に訪れたピークタイムに明らかに困惑していた。
申し訳なさを感じつつ2本購入し、ホテルへ向かうとここもファンだらけ。オタクが経済を回していることを実感する。

早めに会場へ行き、物販の列に並ぶも一向に進まない。しかも4月のわりには日差しがきつい。立ちっぱなしで周りのファンの会話を盗み聞きすること1時間、スタッフの男性の叫び声が響いた。
「物販はいったん終了して、この列は入場列に切り替わります!入場したらグッズを買えます!」
抜けるに抜けれない。長丁場になることを覚悟し、さっき買った安永餅を左側の歯を使って慎重に食べた。口の中の水分がすべて持って行かれる。私は桑名まで来て一体何の修行をしているのか。ただ、好きな音楽を楽しむために来たはずなんだが。

ライブは、ほぼ定刻どおり開演。各メンバーが思い出話をするなど、ずいぶんとリラックスしているように見えた。
ボーカルとギターが初めてライブをしたのは桑名で、メイクを落とさずにボーカルのおばあちゃんの家に行ったら「赤鬼が来た!」とひっくり返ったそう。下積み時代に高速で事故ったときのエピソードでは、ボーカルのハンドルさばきをアシストしたベースが、がにまたで当時の動きを再現していた。あんなに複雑な世界観の音楽をやっているのに、なんというか、ちゃんと面白いのがすごい。
桑名名物といえば、はまぐり。ボーカルが「お前ら全員一つのはまぐりの中にいるようなものだ」という趣旨の発言をしていたような気がするが、はたして幻聴だろうか。

メンバーはそれなりに年を重ねているが、ステージ上の熱い照明もなんのその。通気性ゼロの衣装でギターをかき鳴らし、厚底でベースをぶん回し、二の腕ムキムキでドラムを叩き、信じられないほど高い声で歌っている。
私と来たら会場の暑さに耐えかねて、せっかくのバンドTシャツを途中で脱いでしまった。おしゃれに見せたくてシースルーのトップスを重ねていたのに、ただのスケスケの中年になってしまったのが悔やまれる。
ラストライブは5月9日。複雑な心境ではあるが、「ちゃんと終わることが大事。何かが終わるってことは、何かが始まること」だと星野源も言っていた。「寂しくても悲しくはない」。そんな境地にたどり着けるといいなと思っている。

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