星雲賞受賞者メッセージ/ノンフィクション部門『伊藤典夫評論集成』
【ノンフィクション部門】
『伊藤典夫評論集成』
著者:伊藤典夫
出版社: 国書刊行会
◎著者:伊藤典夫氏長男・伊藤夏日氏からのメッセージ
このたびは、『伊藤典夫評論集成』に星雲賞をいただき、家族を代表して心より御礼申し上げます。
本来であれば父本人がご挨拶申し上げるべきところですが、高齢であることに加え、昨年は入院もあったため、今回は長男である私、伊藤夏日が代わってコメントを用意させていただきます。
もっとも、本人に感想を聞いても、本とご飯以外には無頓着な父から返ってくるのは、だいたい「別に」「なんとも思わん」というような某女優のようなコメントばかりなので、父から得られる少ない情報をしつこく聞き出し、膨らませていきたいと思います。
今回の受賞について父に聞いてみたところ、「星雲賞の受賞はたぶん二回目だと思う」とのこと。
しかし、今回編集を担当してくださった国書刊行会の樽本さんによると、父は海外短篇ではこれまでにも何度も星雲賞を受賞しているようです。一方で、ノンフィクション部門、そして自著としての受賞は今回が初めてとのことでした。……と、父はこのような感じです。
さらに感想を聞くと、「星雲賞は半分、自分がきっかけでできたようなものだから、特に感想はない」とのこと。日本SF大賞の受賞の際も感想がなく苦労しましたが、今回もあっという間に暗礁に乗り上げました。
調べてみると、星雲賞は1970年の第9回日本SF大会で創設され、第1回の授賞も同じ大会で行われたとのこと。その大会で実行委員長を務めていたのが父・伊藤典夫だったようで、本人曰く「日本にもヒューゴー賞のような、ファンが選ぶSF賞を作ったら面白いんじゃないか」という思いから提唱したものだったそうです。
もちろん、星雲賞の立ち上げがどうだったか、公式な記録としてどのように残っているのかは私には分かりません。ただ、途中で目をつぶって寝てしまう父にしつこく話しかけ聞き出していくと、星雲賞は厳かな会議室で決まったものではなく、当時のSF仲間たちが、渋谷の老舗台湾料理店である麗郷の横にあったという喫茶店「カスミ」を部室のようにして、たむろってワイワイと話しながら形にしていったものだったようです。
当時は、ただSFが好きな人たちが集まり、自分たちで面白いものを見つけ、自分たちで賞を作り、自分たちで盛り上げていく。そういう時代だったようです。
父は、「自分たちがそうだったように、今のSFファンたちも、ワイワイがやがやしながら自分たちで新しい賞を作ったりしたら面白いんじゃないか。そして、いつの間にかそれが歴史になっていく…」と、珍しくいいことを言っていました。
『伊藤典夫評論集成』は、父ひとりの力だけで形になった本ではありません。長い時間をかけて原稿を集め、整理し、一冊の本として世に送り出してくださった皆様のお力があってこそのものです。
父は、改めて樽本さんへの感謝も口にしておりました。
今回の受賞は、父への賞であると同時に、父の仕事を読み継ぎ、覚えていてくださった読者の皆様、そして星雲賞を長年支えてこられたSFファンの皆様への賞でもあると、家族としては感じています。
本人は相変わらず無頓着で、受賞の重みよりも、今日の飯や手元の本にCPUリソースを全振りしています。そのため、口に出すと「特に感想はない」になってしまうのですが、それでもきっと、本人なりの感慨はあるのだと思います。というか、そうであると信じたい。
このたびは本当にありがとうございました。父に代わりまして、心より御礼申し上げます。
