見出し画像

きょうから聴く、The Beach Boys、Sly Stone、Roger Nichols。絶対挫折しない入門編

 去る5月17日にはRoger Nichols、今月9日にはSly Stone、そして直後11日にはThe Beach Boysの(元)リーダーであるBrian Wilsonがこの世を去りました。

まだ世界中が故人の死を悼んでいる最中ですが、
このように、素晴らしい作品を残したアーティストが生前に正しく評価されていたことは、いち音楽ファンとして、また故人のいちファンとして、この上なく幸福なことではないかと思います。
一時はホームレスのような状態ともなっていたSlyへは特に。

あらためて、音楽の神が遣わせた奇跡のような3人のポップマエストロへ、彼らの加護を受けたポップスの信奉者として心からの冥福をお祈りいたします。


 その一方で、訃報に際して「今まで聴いてこなかったけど、ビーチボーイズ/スライ/ロジャニコ聴いてみるか…」と思った方も少なくないはず。
今回はそんな方々に向けて、特にビーチボーイズを中心に、『どこからどう入門すればわかりやすいか』を書こうと思います。

 ひとまず前置きとしてスライとロジャニコを、その後に本腰でビーチボーイズの順です。
ビーチボーイズだけ読みたい方はチョチョイと次の見出しまで飛ばしてください。



そして、これを読んで「よし知りたいことはわかった!」と思った瞬間に、さっそく映画見たりアルバム聴いたり伝記読んだりしてください。
懇切丁寧に書いたらアホの長さになったので、読みたいところだけ読んだら離席しましょう。ぜんぶ読み切らなくていいです、けっきょく1次ソースがいちばんオモロいので。
そいではさっそく。


映画『スライ・ストーン』


 さて、スライ。
くしくも『偏狂的なディレクションによる多重録音や宅録によって、歴史的な名盤を作り出した』という点で、ブライアンと並び称されていましたが、

実は「大ヒットの結果、ライブツアーと作曲、録音による多忙と不眠が双極性障害やドラッグ依存へとつながり…」という共通点を持つことまでは、意外と知られていないのではないでしょうか。

 そんなスライの楽曲やキャリア、その天才的な創作のウラ側を一望するのに最適なのがこちらのドキュメンタリー映画。
しかも1時間程度にまとまっているので超絶見やすい。

一番ヤバかったころの『帝王』、Miles Davisにすら「あいつはヤバい…😅」と言わしめた、
名盤『There's a Riot Goin' On』『Fresh』期におけるドロドロの創作と私生活模様もうかがい知られる、非常に内容のつまったドキュメンタリーです。

『暴動』と『フレッシュ』、ともに音楽的にはあまりに濃く、「ファンクに耳馴染みのない100人が聴いて、いきなり100人ともが熱狂できるようなものでもないのでは…?」なため、

この映画でヒット曲とその背景について知って、好きそうな曲やアルバムからあらためて聴いていくのがいちばんスムースなじゃないでしょうか。
この2枚以外にもいいアルバムいいシングルたくさんありますので!!!

なんとこの映画、アップリンク吉祥寺では今月末から、さらに全国の劇場でも緊急再上映とのことなので、都合のつく方にはぜひぜひおすすめです。
監督がスライにRhythm Ace FR-1をプレゼントする一連のシーン、マジで泣けます。


 イチオシ曲は『Runnin’ Away』

「あはっあはっ…」というちいかわみたいな可愛いフレーズ(そうだろうか?)に油断していると、やたら殺気立ったラリーグラハムのチョッパーやホーンが懐まで斬り込んできます。
やたらノーテンキなメロディなのに歌詞と演奏が物騒。

日本では小池玉緒、小西康陽、yes, mama ok?、そしてインディーズ時代のフレネシもカバー。
「いいポップスって物騒だよね」ということを再認識させてくれる名曲。


 なお、現在Disney+にて、ドラマーの?uestloveが監督した新ドキュメンタリー『SLY LIVES!』も公開中。
以下で紹介しているビーチボーイズの必見ドキュメンタリーもDisney+なので、合わせて見返したいところです。



名盤『Roger Nichols & The Small Circle of Friends』


 続いてはロジャーニコルズ。
カーペンターズが歌った『We’ve Only Just Begun』『Rainy Days and Mondays』など、特大級のヒット曲のみならず、

『渋谷系』という1ジャンルを、たった1枚のアルバムでほぼ定義してしまったモンスター作品、『Roger Nichols & The Small Circle of Friends』でも知られているSSW。

よーするに早い話が天才作曲家。未聴の音楽ファンはこれ聴きましょう、どうがんばっても聴いて損のない1作です。


 上記のヒットソング群においては、圧倒的なポップス職人感を放ちつつ、

そのいっぽう、自分のアルバムではその職人感と、当時ビートルズを真似た若者が「とりあえずこんな感じだろ!!!」的にこなした素人全開な(=ポップス理論的に破綻している)サイケ感を、
完膚なきまでに見事ミックスし『ほかに例を見ないポップスを作りだす』という、早い話が天才作曲家。大事なことなので2回。

「ロジャーニコルズに興味を持っていて『スモールサークル』聞いたことない」なーーんて方はけっこうレアだと思うんですが、
渋谷系とかポスト渋谷系とかアキシブとかプレ渋谷系とか(そんなのあんのか)が好きなのに聴いたことない」という方はただちに聴きましょう。

アレとかアレとかアレの元ネタです。聴いて優勝してください。がんばれ球児。


 「1枚でヒット曲も自名義の曲もどっちも聴きたい!」というよくばりさんは、
現段階だと23曲入りのコンピがあり (※大人の事情でカーペンターズが歌ってる音源は未収)、こちらをオススメします。


そして今年8月にも、初のロジャニコ本人公認公式コンピが出ます。こっちは42曲入りっぽいです。すごすぎる。

これと『スモールサークル』1枚を聴けば、ロジャニコ有名曲の全容がわかります。


 というわけで、ベタなやつを除いたイチオシはこの『Love Song, Love Song』
Don’t Take Your Timeなどと同じく、めちゃくちゃ技巧的なのにこんなにフレッシュでシンプル。まさに「ポップスの神」としか言いようがない絶妙なペン捌き。素晴らしすぎる。

 そのほかにも、自分たちの曲をレコード会社に売り込むために作られたデモアルバム『Roger Nichols & Paul Williams』や(大名盤)、


CMソングや劇伴仕事をまとめた名コンピ『Treasury』などいろいろありますが、

こういうのはハマったあとであらためて聴けばいいものなので、とりあえずまずはヒット曲コンピだったり、スモールサークルなりを聴くことをオススメします。


「いいメロディとは?」という問いに、「ロジャーニコルズ作品」と返せるぐらいポップスの教科書みたいな人なので、自名義作も提供曲もぜひぜひたくさん聴いてみてください。


The Beach Boys入門にはコレを見よう


 というわけで、「The Beatles唯一のライバル」としてもおなじみ、ブライアン・ウィルソンをリーダーとしたバンド、The Beach Boys

巷では、やれ『Pet Sounds』がスゴい、未完の名盤『Smile』は神だの言ってますが、聴いてもよくわかんなければ、あるいは「教養として知っておきたい」みたいな場合は、

現在Disney+で独占配信中の『ビーチ・ボーイズ:ポップ・ミュージック・レボリューション』見ましょう。結局これが一番早いです(RTA)


「ビーチボーイズ? なんか知らないけどサーフィンの人でビートルズのライバル? ペットサウンズ?」ぐらいのヌルっとした認識でも、というかヌルっとした認識すらなくて大丈夫です。『無』の状態からでも入れる保険。

代表曲がヴィジュアル付きでガンガン流れてくうえ、結成から現在までの60年間の歴史を2時間以下でカンペキに押さえられるという親切設計。
これでペットサウンズに至るまでの歴史も、その後の歴史もほぼ全クリ。

「えー2時間もあんのォ?」と思うかもしれませんが、アニメのサザエさんなんか60年くらいやってて60年後もタラちゃん3歳なので、それと比較すれば宇宙的な速度なんじゃないでしょうか。見ましょう。


 そしていちばん重要なのが、「これがビーチボーイズの自伝/伝記として最新のものである」というところ。だいぶ何気ないことなんですが、これがいちばんミソです。

『他の伝記本などでは描かれていない、2012年の再結成と、その後、現在までを描いている』という点のみで、
以下で紹介する書籍をブッチ切って「伝記としていちばん優れている」と言えるほど。
そのぐらい、ラストシーンがとーーーーーにかく素晴らしい。

充分ボーイズの歴史を知っているファンには、すでに知っている情報が2時間垂れ流されるだけなんですが、それでもこのラストシーンを見るためだけに見てほしいくらい。
そのぐらいラストシーンがとーーーーーーーーーーーーーーーーーにかく素晴らしい(大事なこッ…)。


 というわけでスライ同様に、この映画を見て「この曲いいかも」と思った曲やアルバムから聞いていくのがいいです。
とにかく「あ、これ好きかも」という曲やアルバムを1個でも見つけましょう。あとは、そこからアルバムや前後の作品をたどればいいだけなので約束された勝利です。

 イチオシ曲は『Wouldn’t It Be Nice (素敵じゃないか)』。映画などでもたびたび使われており、おそらく日本で1、2を争う有名曲。

メインボーカルはブライアン。兄弟たちによる美しいコーラスがブライアンを支えるつくりになってます。そしてこの2分半のあいだに、コソッと3回ぐらい転調しているとても技アリ1本な名曲。


あるいは『Forever』。うっすら耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。
こちらはブライアンの弟のDennis Wilson作曲。この『Sunflower』もまた、ポップな名曲ばっかの超名盤。

『ビーチボーイズ=ブライアン』のイメージが強いですが、実はビーチボーイズって、このデニスがミュージシャンとして才能を開花させていく物語でもあるんですよね。


 と、「教養としてビーチボーイズを押さえておきたい」みたいな場合にはこの映画がいちばん手っ取り早いので、これが圧倒的にオススメ。

で。以下、「ひとまず映画は見たが、アルバムはどこから聞こうか?」「映画はもう知ってることばっかだったから、もっとディープな情報知りたいぜ」という方向けに、
①ビーチボーイズの聞き方ガイドと、②オススメ本紹介を書きました。
なので各自読みたいところまでブッ飛んでください。2年後に!!!! カリフォルニア諸島で!!! (ドン!!!!)


 そんなこんなで、本作もDisney+でしか見られませんが、
先ほどのスライの新ドキュメンタリーとか、ビートルズの怪作ドキュメンタリー『Get Back』とか(10時間ぐらいある)、
ディズニー映画の切り抜きと一緒に瞑想できる謎の動画とか、1000円ぐらいでついでに全部見られるので、1ヶ月くらいなら実はそんなに高くないんじゃないでしょうか。
なんでか知らんけどディズニー作品以外も見れます。


「ビーチボーイズ入門にペット聞くな」、という提言


 そんなわけで、「なんかペットサウンズっていう名盤があるらしいぜ」「聞いてみるか」のノリで痛手を負った者は数知れず。みんなそうです。

なので、無理にペットサウンズから入る必要はまったくナシ。
以下、たぶんほかの人がぜんぜん書かなさそうなビーチボーイズの聞き方ガイドです。

 『ペットサウンズがなんかよーわからん』のは、ひいては、『ビーチボーイズがビートルズほどの絶対的な人気を得ていない』のは、端的に、我々現代人にとっては乗り越えるべき壁が多すぎるからですね。

①まず60年やってるから曲が多すぎる
②曲がオールディーズすぎる
③「本物」がモノラルってマジかすぎる

 壁、順に解説します。


①曲が多すぎる問題


 『アルバムがあまりに多すぎるのでどこから手をつけていいか分からない現象』ですね。長いな。『アあ多ど手つ分現象』とでも呼びましょうか。呼ばなくていいな。

 とりあえずコレは、さきほどの『ビーチ・ボーイズ:ポップ・ミュージック・レボリューション』を見ることで、
「ああ、このアルバムはブライアンの霊圧が消えかかってる頃のか」、「これはうだつの上がらないオッサンと化したけどまだボーイズ名乗ってる頃か」などと、ざっくり判別できるようになり、「これは後回しでいいや」と駄作を回避できるようになります。

なので、とりあえず一回だけ映画見ましょう。
ビーチボーイズ、マジでハマると『駄作』という概念が消失する可能性すらあります。
しかしハマらないかもしれないので、いずれにせよ映画見て「駄作かな?」と思われるものは回避しましょう。

「そんな2時間の映画なんて見てらんねーよォ、オイラはいますぐ聞きてーんだよォ」という岡田あーみんキャラみたいなゴネが止まらない方は、
とりあえず『お行儀よく一番最初から順に聴こうとする』という愚行さえ犯さなければ何やっても大丈夫です。
くわしくは後述しますが、ベストとかYouTubeとかでも余裕で大丈夫。

ガンダムとプリキュアはできるなら一番最初から見た方がいいですが、ビーチボーイズは別にガンダムでもプリキュアでもないので好きなところからでまったく問題ないです。何の話?


 いちおう書いておくと、ビーチボーイズ定番の入門コースとしては、
ペットサウンズの3作前、「『All Summer Long』『Today!』『Summer Days』あたりから順に聴いていき、ペットに合流する」というのが主流。

このあたりのアルバムになってくると、デビュー当時はただのロックンロールのコピーでなんとか頑張っていたブライアンも、かなり独自の作家性を獲得しつつあり、ポップスの耳で聴いてじゅうぶん楽しめる楽曲が多くなってきます。
(このあたりもこの下でくわしく書きました)

いきなりペットサウンズ聴くより、このあたりのアルバムか、あるいはブライアンが当時影響を受けていた作品までさかのぼって聴いた方が、ブライアンの作曲の進化の過程がわかるので、いろいろとすんなり理解しやすいです。


 それかいっそのこと、思いっきりペットの数年後、超ポップなさっきの『Sunflower』あたりから入るのも悪くないですね。
かなりソフトロック寄りの大人気作『Friends』とか。

オリジナルアルバムでいうと、5, 6枚目の『Shut Down Volume 2』『All Summer Long』から、16枚目の『Sunflower』まで、このあたりが人気も内容も高いアルバムなので、この中から聞きはじめるのがオススメです。


 あるいは『ベスト盤聴いて好きな曲のアルバムに飛ぶ』
曲数はとにかく多いので、さきほども書きましたが、好きな曲が1つでも見つかれば約束された勝利。

あとは、そこを起点にちょっとずつ知っていければ最高です。
きっかけはYouTubeでもベスト盤でも、「好きなミュージシャンがあれを褒めてた」とか、何でもいいんです。
いちばんもったいないのは、最初に挫折してしまって「もういいや~」。これだけは悲しすぎる。

キャリアが長く、メンバーも多いので音楽性も多様。
いろいろなタイプの曲があるのでどっかしらにあなた好みの曲があるかもしれず、『最初に挫折しっぱなし~』はあまりにもったいないバンドなので、今日から「これも運命…」と受け入れ、1曲だけ好きな曲を見つけましょう。

 ご参考までに、ポップな曲ばかり集めた自作プレイリストがあるので、よろしければご参照ください。
気持ちヒネてるような気もせんでもない選曲ですが、ポップには違えねェです。


(※ベスト盤から入る場合は、60~80年代にレコード会社が勝手に出したようなベスト盤じゃなく、ここ20年くらいで出た、新しめのベスト盤を聴いてください。
デビューから現在まで、時期に偏りなくイイ曲が収録されてるので。
とにかく、「なんか知ってる曲いっぱい入ってる!」のやつならなんでも大丈夫!!)

(※※逆に、サーフやガレージの耳をすでに持っていたりして、「絶対挫折しない」ならお行儀よく最初から聴いても大丈夫なんですが、
特にそんな耐性をもたない方がビーチボーイズ全曲マラソンに挑むと、1枚目の3曲目『Ten Little Indians』で「自分は今何を聞かされているのか???」と思ったまま気絶しないかが懸念されるので、あまりオススメはしません)



②曲がオールディーズすぎる問題


 映画『ポップ・ミュージック・レボリューション』にも登場した通り、
ブライアンが「そのへんのロックンロール作家」からさらに進化できた要因は、Phil Specterを筆頭とする音楽レーベル『Philles』の楽曲との出会いにあります。

ブライアン、ある時期からこういう曲にドハマりしちゃったわけです。


 デビュー以来ずっと、自分たちが好きな『ロックンロール』と、The Four Freshmenスタイルの『美麗なコーラスワーク』、この2本槍でずっとバンド活動をもたせてきたブライアンですが、

ここに第3の槍、この『息をそろえた大人数のバンドが高速テンポで爆走していく、非常に享楽的=ミッドセンチュリーオブアメリカ的なフィル・スペクターサウンド』が加わることで、
ブライアンとビーチボーイズは完全覚醒へと猛スピードで走り出しはじめます。

つまり、これらの曲との出会いからペットサウンズのあのサウンドまでは、ひたすら一直線に続いていく道のりなんですが。
が。ブライアンは82年の生涯で、この曲を数万回聴いています(オタクにありがちな誇張ではなくガチで)。

しかし一方で、「我々現代の日本人のうち何人が、このスタイルの音楽にそこまでの愛着を持てるでしょうか」という話なんですよ。
そもそも現代人は、こうしたオールディーズサウンドにそれほど馴染みがありません。


 こうした音楽を、ビートルズは思いっきり洒脱に、ロックに取り込みました。
ビートルズもこれらのオールディーズ大好きなんですが、その愛を表現する手段が、ビーチボーイズとはちょっと違っていたんですね。

そうしてしまえば現代の我々にとってもめちゃくちゃポップなんですが、ビーチボーイズの音楽はもはや『オールディーズの原液そのもの』、オリジナルほぼまんまの状態でお出ししてくれているので、人によっては飲みづらい。

よく知らん味なので、飲み切れる人もいれば飲み切れない人もいて当然です。このあたりが、「ペットサウンズにノリ切れない」人が多い理由のひとつなんじゃないでしょうか。
「そもそもペットサウンズの下敷きになってる音楽に馴染みがない」、という。


 そもそもペットには、こういうオールディーズだけじゃなくラウンジ・モンド・エキゾ的な要素も多分に入っており、
もともと日本人には飲みにくい味なのに、さらにエキゾティックな香りまでプラスされ、かなり独特な味に仕上がってます。

すでに「みんなが褒めてる名盤」という殿堂入りアルバムなので、あまり指摘されませんが、6席くらいしかないクセ強い店主がやってる個人店レベルの尖り方ですからね。誰もがいきなり楽しむのはかなり難しい。
「3ヶ月くらい通い続けてようやくマスターが話しかけてくれる」みたいな世界の話なわけで。

 なので、真夏にいきなりキンキンのプールに飛び込むがごとく「いきなりペット」ではなく、その手前のアルバムや、こうしたブライアンのルーツ曲を多少聞いておき、心臓を慣らしたうえでソロリソロリ(和泉元彌)と入っていくほうが、圧倒的にラク。

「みんなが褒めてるあの名盤、ペットサウンズを今すぐわかりたいんだァァァァ!!!!」という方もいるかもしれませんが、ちょっと手間ではあるものの、まわり回ってそのほうがペットをより楽しむことにも繋がるかと思います。


 さきほどの『All Summer Long』『Today!』『Summer Days』あたりのアルバムは、前述のように、「そんなオールディーズやロックンロールのスタイルを使いながら、徐々にブライアン独自のカラーが完成しはじめる」というちょーーど過渡期のアルバム、
つまり作曲家として脂が乗りきっていく、いちばんアツい時期の作品群ってことになります。

 この曲なんて、

ロックンロールのシャッフルのリズム (※「タッタ・タッタ」というハネたリズムのこと)』、
フォーフレッシュメン的な重厚なコーラス』、
フィルスペクター的なドカドカバコンバコンなドラム』、に、
ブライアン独自の、幽玄でブッ飛んだ夢見るようなイントロと、

それまでのブライアンの全要素をつめこみつつ、独自に発展させた要素もあり、めちゃくちゃ古典的、かつめちゃくちゃ新鮮なポップソングに仕上がっている代表例。


ビートルズでいう、「『Help!』あたりでディランの影響を受けはじめ、そこから『Rubber Soul』と『Revolver』で大ジャンプ、からの『Sgt. Pepper’s』へ… (そして伝説へ…)」みたいな感じでしょうか。

ビートルズは比較的ガンダムorプリキュアですが、初期がタルければこの辺から聞きはじめたっていいんですよ。つかビートルズこそベストで入るべきバンドだと思ったりするわけなんですが。それはさておきなんですが。


 なので、『ペットサウンズの下敷きになってる音楽』そのものに馴染みがないと、ペットもいきなりは楽しみづらいかもねという話でした。
みんなが褒めてる名盤ではあるものの、その実、かなりブッ飛んだ個性的な味になってます。

なので、いきなりペットで挫折したとしてもまったく変なことではないです。あんまし気にせず、もっかい聞いてみるか、ひとまず他の曲で楽しみましょう。
その後で戻ってくると、1回目とはちがう聞こえ方になっているはず。



③「本物」がモノラルってマジか問題


 そして、いきなり「モノラル」とか「ステレオ」って言われてもピンとこないですね。

ステレオは、『両方のスピーカーやイヤフォンから、別々の音が出ている状態』、
モノラルは、『両方のスピーカーやイヤフォンから、まったく同じ音が出ている状態』のこと。

なんでいきなりオーディオクイズ大会開催してんだよって感じですが、とくに1970年代までのロック音楽を理解するのにはぜったい必要な知識なんですよコレが。


 「なんかビーチボーイズって同じ曲が2種類サブスクにない?」と思われた方もいると思いますが、実は2種類あるんですよね。ステレオ版とモノラル版。

今からそれを解説します。しなくていい方は全部飛ばしてシャボンディ諸島でお待ちしてます。


 ものすごく雑にたとえると、
ステレオは映画でいうフルカラー
モノラルは映画でいうモノクロの状態だと思ってください。

フルカラーは、ふだん我々が見ている映像ほぼそのものなので馴染みがありますが、
モノクロ映画だと、普段はあまり馴染みなく、古さこそ感じるものの、それはそれで独特の味や迫力がある。という感じ。

ステレオモノラルもそれとまったく同じものだと思ってください。
音楽には、モノラルだからこそ出せる迫力ってのがあるんですね。


 ブライアンは幼少期から右耳があまり聞こえず、デビュー当時に「最新のテクノロジー」として出回り始めていた、ステレオでの作業は困難でした。

なので、片耳さえ聞こえていれば作業できる、モノラルのほうをブライアンは主戦場としていました。
1960年前後まではラジオもレコードも、全世界的にモノラルが圧倒的主流だったため、これはブライアン的にも好都合(オールオッケー)。

いっぽうのステレオ版はよっぽどのマニアしか聴いていなかったので、ミュージシャンはステレオ版の仕上がりなんかほとんど誰も気にしていませんでした。


 そのため、ビーチボーイズやブライアンのみならず、ひいてはビートルズや他のロックバンドも、モノラルのほうに力を注ぎ
ステレオは「ああ、まあ…テキトーにやっといて」というやっつけ仕事。
くわえて、そもそもステレオは当時の最新技術なので「しっかり作ろうにもノウハウがない」という事情もあり。

このへんが、ロックファンが「ロック聴くなら本物はモノラルだよ!!」と言っている理由です。
なんならビートルズ第5のメンバー、George Martinも「モノラル盤で聞かんとサージェントペパー聞いたことにならんぞい」みたいなことを言ってます。

(実際、ブライアンの耳の問題もあり、1966年のあのペットサウンズすら、ステレオ盤のレコードは正規のステレオ音源ではなく、
ブライアンが監修したモノラル音源をもとに、「チョチョッとステレオにさせてもらいやしたぜダンナ」という、擬似ステレオ音源で当時販売されています)


 ところがどっこい、その後、1970年ごろから一気に世界中がステレオを主流とし始めます。
ビートルズのアルバムも、69年のLet It Be、70年のAbbey Roadは、世界的にもステレオでの販売のみ。
モノラル盤は販売していません(※ただし南米1、2ヶ国のみで販売され、そこそこレア)。

単純に、『両耳で同じ音が鳴るモノラル』と『両耳で違う音が鳴るステレオ』だと、ステレオのほうが倍の音情報を収録できることになるので、これは音楽が進化していくうえで必要な変化でした。

(一方そのころビーチボーイズは、未完となった『Smile』で心身ともにボロボロのブライアンが制作現場からフェードアウトしつつあったので、悲しいかなステレオへの移行もスムース)


 そういうわけなので、時は2025年(オザケン)。ふだん我々が聴いている音楽も、99%ステレオ音源です。
現代でモノラル楽曲を聴く機会といえば、AMラジオを聴くときか、レトロゲーム機で遊んでいるときぐらいじゃないでしょうか。

なので、60年代当時にブライアンが力を入れて作った、「これが本物!!」とされているモノラル音源、これも我々には馴染みが限りなく薄い!!!!
これがビーチボーイズの敷居の高さをつくっている、最後の要因ではないかと。

そして、定期的に「そろそろ新しいステレオ音源作るか~」されているビートルズとの差ですね。

『本物』が持っていた60年代の熱気を、できるだけそのままに保ちつつ、現代のリスナー向けにアップデートし続けるビートルズと、
現代のリスナーに「そら本物だ!!!」と、60年代当時の音源ほぼそのものをブン投げるビーチボーイズ

めちゃくちゃ雑な例えですが、悲しいかなこういう人気格差による事情があります。あるのよ…


 なので、もちろんビーチボーイズにも現代むけにアップデートされている音源もあるんですが、
運悪く耳馴染みのまったくない『60年代当時の音源ほぼそのもの』で聴いて、「なんだこれ!?」になってしまった人も多数いるかと思います。
こういうところが、ビーチボーイズの、そしてペットサウンズ入門のしづらさなんじゃないでしょうか。


 というわけでまとめると、いま世の中にはザックリ3種類くらいの形態でビーチボーイズの曲が出回っているので、この中から好きな音源、聴きやすい音源を選ぶことになります。
これをあらかじめ知っておくと、「なんでこんなに同じ曲あんの??」と混乱せずに済むかもしれません。したらスイマセン。

①モノラル
youtube.com/watch?v=BuBaz0RMOvE
②ステレオ
youtube.com/watch?v=Xlcr04CB4jM
③超ナウい進化版ステレオ (2021 Stereo Mix)


 ①②は基本的に、60年代にブライアンたちが作っていたものです。これに、時代ごとにちょいちょい手を加えたものがCDや配信で売り出されてきました。

 基本的にはこの①②のどちらかを選んで聴くことになります。
「モノラルってあんま馴染みないけど、ブライアンが作ったならコレか」とか、「ステレオのほうが聞きやすいからコッチかな?」みたいな。
ハマればゆくゆくは両方聴くことになるので、ファーストチョイスは好きな方で大丈夫です。

1993mixとか、2001mixとか、2009mixとか、手を加えた年ごとにいろいろ書かれてはいますが、ここは一度無視しておき、
サブスクなどで聞く場合は、細かいところは気にせず、「これはモノラル版なのか、ステレオ版なのか?」というところにだけ注目すればOKです。

年に関してはマジで微妙な差しかない曲も少なくないので、「超絶ハマってから気にする」で大丈夫。


 ただというそこそこ問題児もいて、
「ハァ? もともとの音源が古くさいんだから、もっと大幅にアップデートしねーとダメだろォ!? 俺に任せな!!」みたいなノリで、めちゃくちゃ現代的に、現代的にっつーかなんかEDMみたいなスゴい音像になった最新のビーチボーイズです。

人によっては、「なんならモノラルより聞きづらいわ」ぐらいのリアクションもあるかもしれませんが、「いや、コレこそ最高だろ!!!」という人もいるかもしれません。あなたのための音源です。

ただコレの難点は、ビーチボーイズの全曲に③ミックスの音源があるわけではなく、現段階だと、このベスト盤に入ってる29曲+αでしか聴けないところ。


正直あまりにハデすぎてそれほど好きなミックスではないんですが、ロック殿堂入りの名曲、Good Vibrationsだけは絶対この③ミックスで聞いた方がいいです。

この曲だけは、「1966年の段階でこのミックスをイメージして作ったのでは?」ってぐらい上手くハマってて最高。
②ステレオ①モノラルと聴き比べてみてください。
③ 2021mixミックスのフリーダムさが、この曲の良さを最大限に活かしていると思います。


 というわけで、「なんかビーチボーイズ音悪いし、いっぱいあるし訳わからん」問題については、これでザックリは解決したんじゃないでしょうか。

ブライアンが当時力を注いだのはモノラル版ですが、モノラル聞こうとすると、まず『モノラルに慣れる』ところから始まるので、最初はステレオでも2021mixでもいいんです。

いずれのミックスもぜんぶ公式なので、
「モノじゃないとダメ」とか「2021mixは邪道」とか言わず、好きな音源で楽しめたらイイと思います。
Good Vibrationsみたいに、「そのミックスで聞いたからこそ新しい発見ができた」みたいなことも少なくないので。
とにかく曲を楽しんだもん勝ち。


 そしてさらなる最終奥義として、「中古レコード屋に行って、オリジナル盤を買って聴く」という手もあるんですが、
これはあまりに即効性が高すぎて手段として強すぎるうえに、一緒にコストまでアホみたいに強すぎるのと、なんかレコ屋の回し者めくので、番外編としてちょっとだけFANBOXで書きました。

ビーチボーイズは1曲だけの特集というのもあり、「オリジナル盤の音ってどんなの?」とどーーーーーーーしても気になって昼も眠れない人だけ買って読んでみてください。

 オリジナル盤は、よくも悪くもCDや配信とはぜんぜん違う音が出るので、フィレスもビーチボーイズもビートルズも、オリジナル盤で聴いてやっとわかったところが個人的には大きく、
やはり1980年代あたりまでの、アナログレコードで発表することを前提に制作された音楽は、アナログ盤で聴いたほうがピンと来ることが多いのではないかと思います。

とはいえ、「ターンテーブルに、針に、フォノイコにスピーカーに…」と、聴くためにかかるコストがあまりにデカいので気軽にオススメできないのが難点。あと「蒐集するうえであんまライバルが増えても困る」という終わってる思惑もあり。おいおい…


ビーチ・ボーイズ、もっと知るための4冊


 というわけで、もともとココだけを書くつもりで書き始めた本稿ですが、なぜか前置きに15,000字も使っちまいました。大変お待たせいたしました。俺がいちばん待たされてる(※ここまで5日くらいかかった)のでご容赦ください。

ここからは、「もっと詳しくビーチボーイズについて知りたい!」という方のための、書籍紹介コーナー。
ひとまず4冊を紹介していますが、

なんと4冊ともで「ブライアンがはじめて『Rubber Soul』を聴いたときのシチュエーション」や、先述の「ブライアンの片耳が聞こえない原因」など、音楽史的にも超重要なターニングポイントの記述がぜんぶバラバラだったりします。
ウッソだ~~って感じですが、案外マジなんですよコレが。

そんな様相なので、まず最初に「これだけは!」というオススメの1冊を最初にご紹介し、
あとは「さらに知りたい人むけ」ってな流れで進んでいくことにします。スタコラサッサ。


これだけ読めばOKすぎる、『ビーチ・ボーイズとカリフォルニア文化』


 というわけで、ビーチボーイズを深く知る上で「これだけは!」な1冊。
P-Vine Booksから出ている『ビーチ・ボーイズとカリフォルニア文化 はるかな場所の一番近いところ』、これがダントツおすすめ。

タイトル通り、『ビーチボーイズを軸に、当時のカリフォルニア、ひいてはアメリカンカルチャーを論ずる』みたいな本なので、純粋にボーイズの伝記パートだけを目当てに読むと「脱線多いな…」となるかもしれませんが、

この本はボーイズ関連もそれ以外も取材量が圧倒的、というかもはや「常軌を逸している」と言ってもいいレベル。
なので記述の正確性という面では、ほかのビーチボーイズ本よりかなり信頼できると思っています。


 とくに、「ブライアンら3兄弟は、父から日常的な虐待を受けていた」というのは今日では誰もが知る事実ですが、
徹底した取材と調査によって、広大な歴史の一端からウィルソン一家のルーツをすくい上げていくことで、その虐待の連鎖がどこから、どのようにして始まったのかを解明しています。

この問題は、ビーチボーイズの歴史、ひいてはブライアンが『Smile』『SMiLE』を創作するうえで絶対に外せないファクターだと考えられますが、ほかの伝記本では一切見られない記述です。

スマイルって『いち国家たるアメリカ建国史と、いち個人(の身体)史を掛け合わせる』という、児戯にも等しい荒唐無稽なアイデアを完遂してしまったとんでもない作品だとずっと思っているので(コレ本で読んだのか自分で思ったことだったのか思い出せないんですが)、なおのこと。

なので、ちょい長い本ですが、このウィルソン家の来歴をたどる冒頭の記述だけでも読んでおくと、ペットサウンズや両スマイルの聞き方も変わってくると思います。


 あと、『ビーチボーイズ本』って基本的にリーダーのブライアンを主役にしたものがどうしても多いですが、そうした本で悪役にされがちな、
ブライアン一家と親戚関係にある、ボーカルのMike Love一家の周縁のできごともちゃんと描写していて、偏りがないのがとてもいいですネ。

ブライアンのディープな作曲と、マイクのチャラい歌詞世界が融合して起きるのが初期ビーチボーイズのマジックだと思いますし、
「ブライアンとマイク、両名ともが家父長制やマチズモ、ひいては戦争の間接的な犠牲者である」という客観的な事実をしっかり描いているのが、この本のとても素晴らしい部分のひとつです。

※とはいえ共和党支持は批判されてしかるべきである!!!! 太字太字。


 記述の正確性の件もあり、この本は伝記/自伝本読んでいくならマスト。最初の1冊としてオススメします。
この本の唯一のデメリットは、原著が94年に出てるのでほかの本よりエンディングが早いところ。ファンからすると「こっから面白くなってくのにーーー‼️」ってとこで終わります。


深く掘りたい人におすすめ、Domenic Priore 『SMiLE』


 次いでオススメなのは、ドミニクプライアによる『SMiLE』本。
同名アルバムはもちろんのこと、同名のDVDとかも出てるんですが、そのSMiLEプロジェクトの一環で書かれた、ブライアン公式の伝記本です。

この本は、1968年にブライアンが未完のまま制作中止とした『Smile』を、2004年に完成させる前後まで、つまり、上の『ビーチ・ボーイズとカリフォルニア文化』ラストの10年後までを、時系列順で描いています。

村上春樹が訳したジムフジーリの『Pet Sounds』とかもそうなんですが、この本もタイトルに偽りなく、1967年と2004年の両『スマイル』の描写が多め。


 また、著者のドミニクはもともとビーチボーイズ、というかブライアンのけっこうなマニアらしく、ほかの本には載っていない濃い情報が載っており、

とくに「スマイル制作中のブライアンの『奇行』の、本人による背景解説」だとか、
「スマイル制作末期にのめり込んでいたというオカルティックな占いを、ブライアン本人に仕込んだのは誰か?」とか、
「そもそもスマイル制作中止の直接的な原因は?」とか、
「みんな知りたかったっしょーコレ?」というめちゃくちゃ重要なことがツルっと書いてあり、かーーーーーなり面白い。

よく「出ない名作より出る駄作」とは言いますが、スマイルは「出てしまった神作」なので、制作中のエピソードもガチガチに面白いです。


 特に『スマイル』に深い興味があるなら、こっちを最初に読んでもいいかも。
ただまあやむを得ないんですが、反面マイクラヴ陣営にはけっこう当たり強めなので、そのへんは織り込んだうえでどうぞ。

別にマイクも尊大な人間ってわけでは一切ない(むしろ逆)ので批判自体はドンドンとされてしかるべきなんですが。でも、世間一般的には「みっともない大人たち」の集まりだったからこそビーチボーイズ好きなんですよね。


本人監修だけどだいぶファン向け、『ブライアン・ウィルソン自伝』


 いわゆる新自伝(※俺しか言ってません)。
ブライアンの自伝は、1991年の共著『Wouldn't It Be Nice: My Own Story (邦題:ビーチ・ボーイズ 光と影)』と、
こちらの2016年、おなじく共著『I Am Brian Wilson (邦題:ブライアン・ウィルソン自伝)』の2冊が出ています。

いるのですが、91年版のほうはあらゆる意味で問題しかなく、今日では「むしろ問題のない部分など存在しないのでは?」ぐらいの勢いなので(詳細は後述)、資料的な価値はこの新自伝のほうに集中しています。


 いるのですが、が。おそらくブライアンへのインタビューを、録音したそのままの順で文字起こしして収録しているので、
「1967年の話をしていたそばからいきなり82年の話にジャンプする」みたいなことが頻発しており、非常に読みづらくはあります。

これは推敲してどうにかならんかったんか? とちょっとは思わないでもないですが、
「幼少期からのストレスの蓄積で、精神的にも肉体的にもかなりボロボロのブライアンが、こうして懸命に記憶をたどって自分の人生を他人に打ち明けている。その勇気ある行動を目の前で体験している」
………模様をいちファンである我々も擬似体験できる、と思えば、このような構成になっている理由もわかります。

とはいえ、他の自伝/伝記本は、ほぼ完全に時系列順に沿って書かれているので、どーーーしても読みづらいは読みづらい。

また、そんな構成なので、ブライアンやボーイズの歴史の流れをある程度知っている人じゃないとかなり話を追いづらく、そのあたりが本人が関わった書籍なのに、しょっぱなにオススメはできない理由です。


 また、センシティヴな問題なので詳述は避けますが、「ブライアンの記憶が書き換わっている可能性はないか?」と思える記述も存在することで、本書全体の内容への信憑性もやや揺らいでおり、そこもいきなりはオススメしづらい要因。

ただし、中期の名曲『Sail On, Sailor』の複雑な作曲経緯についての本人からの説明や(先ほどのRubber Soulの件と同じく、これもすべての本で記述が異なる)、

シットコムドラマの名作、『Full House』などでも使用されている名曲『You Are So Beautiful』が、クレジットこそされていなかったものの弟デニスの作曲だと明言する箇所をはじめ、
見逃せない記述はめーーーーーーーーちゃめちゃに多いので、映画や伝記本で基本的なトピックをおさえた後であれば、かなり面白い本になっています。


度を越えたヲタク以外は捨てろ、『ブライアン・ウイルソン自叙伝』


 いわゆる旧自伝(※もちろん俺しか言ってません)。
本邦では細野晴臣によるオビ文で有名ですが、
現代では「自伝と冠されているが、ブライアン本人は一切関わっていない」とか「ブライアンは1ページも開いたことがない」とか言われている、非常に取り扱いに困る1冊。


 この本の出版当時にブライアンの精神科医を務めていた、Eugene Landyなる人物。
この人は、『メンタルヘルスに問題を抱えたセレブを虐待でコントロールし、その資産までもを自らのコントロール下に置こうとする』という法外のカス野郎で、

当時支配下に置き、周囲から孤立させていたブライアンを、肉親をふくむビーチボーイズの側に奪われないよう、自分たちに有利な裁判の証拠を作るためにゴーストライターと手を組んでこの本を出版させたという話もあり、

取り扱いに困るというより、もはや呪いの書とかのが近いのでは? という感想すら浮かんでくる1冊。


 そんな1冊なのに内容までけっこう救いようがなく、父マリーによる陰惨な虐待描写や、ペットサウンズの1曲目、『Wouldn’t It Be Nice』誕生のあまりにビックリな秘話(はじめて読んだときは「マジかよーーーーー!!!」の声出た)など、なにかとショッキングな話題がひたすら続き、

とくにメンタルに余裕がない状態で読むと確実に転移移入グロッキーになることは確実なので、もういっそ「読まないほうがいい」まで言える本でもあります(菊地成孔がChet Bakerの伝記本に言ってたのと同じ)。


 ただ、これら4冊には『ほかの本ではまったくされていない記述が異様に光り輝いている』という不思議な共通点があり、
この旧自伝においては、それは『母が運転する車の中ではじめて聞いたフォー・フレッシュメンに感動するブライアン』の描写なんですが、こーーれがマジですごい。

タイムマシンに乗って、その現場を見てきたかのようなムッッッチャクチャに活き活きとした感動的な描写で、読んでるこっちまで泣きそうになるぐらい。
ここがあまりにライブ感に満ちているので、「さすがにちょっとぐらいブライアンへ取材した内容も混ざっているのでは?」と思わされ、陰鬱な描写が多い旧自伝のなかで、ここだけが圧倒的に光り輝いてます。

(と思わせるほどいい文ってことは、逆に完全なホラ…もとい創作話なのかもしれませんが。
余談ですが、『ビーチ・ボーイズとカリフォルニア文化』のほうで光り輝いているのは、一家5人で完成したばかりのディズニーランドへ遊びに行く描写で、「この一家にも、ちゃんと楽しい時間があったんだよなァ…」とすげえしみじみしてしまう名記述)


 というわけで、『ランディ医師が捏造した記述ばかり』とか、『ゴーストライターが全部書いた』とされ、
「こんな本にはもはや価値はない」という意見がほとんどだとは思うんですが、念のため、それっぽいところぐらいは可能な範囲で事実関係の確認を行ってみてもバチは当たらない気もします。

じゃないと、「細野さんがオビに書いた『アメリカの闇』って、この本そのもののことなんじゃないスかあ…?」と言わざるを得ない、ヒジョーに危なっかしいだけの本ってことになっちまいますからね………………………マジでなんで出回ったんだコレ?

本人が亡くなってしまった以上かなり困難だとは思いますが、この本にどれだけの資料的価値があるのかの検証は、今後のビーチボーイズ研究の課題のひとつと言えなくもないのではないでしょうか。


 読むならまずはこの3冊。最後の自伝はオススメというより注意喚起
とはいえ、ディープな視点だと「この記述ってブートで出回ってるあのセッションのことか…?」みたいな面白い記述もあるので、入門には向いてなさすぎるだけで、旧自伝もまあまあ面白いところもそれなりに。

ここで紹介しきれていない本だと、文中にも出てきた村上春樹訳の『ペット・サウンズ』とか、『ペット・サウンズ・ストーリー』なんてのも。
これはペットサウンズに焦点をあてているので、ペットについてくわしく知りたい方には超オススメ。この2冊も内容ちょっと違ったりしてます。
あと『ブライアン・ウィルソン&ザ・ビーチ・ボーイズ』は1回読んだはずなんですが中身ほとんど覚えてないので、スキを見つけて読み返してみます。

で、ものすごい公式本ヅラしてる『ビーチ・ビーイズ リアル・ストーリー』はカスの暴露本なので、存在価値としては「旧自伝以下」という最強の存在。封殺していきましょう。


 そして最後に、伝記映画の『Love & Mercy』というのもあるんですよねーーーーー(今思い出した)。

これも、基本的なトピックを多少は押さえてないとついてけない系映画なので、『無』で飛び込める映画ではないのが残念。

でも多少わかってるともんんん~~~~……………のすげえいい映画なのでオススメです。さっきの『ポップ・ロック・レヴォリューション』さえ見ていれば余裕でついていけるので大丈夫。
ポールダノが超がんばってます。『スイス・アーミー・マン』でダニエルラドクリフを操縦して無人島を脱出した人。




 本文はこんな感じでしょうか。愛で2万字駆け抜けました。

リーダー名義作の少ないロジャニコはさておき(それでも全仕事聞こうとするとメチャクチャ大変)、
スライもブライアンもキャリアが長く、かつ代表作とされる作品がかなり個性的なので、入門にはちょっと苦戦するミュージシャンかもしれません。
この文章がちょっとでもお役に立ちましたら幸いです。


 というわけで今現在、ひとりで作詞/作曲/歌/演奏/打ち込みしてるデビューアルバム、『あたらしい音楽の誕生(と没落)』という作品を作ってます。

「細野晴臣と大滝詠一から星野源まで続いている邦楽の系譜」の中から、とくに『90年代渋谷系~00年代J-POP』に射程を絞って、つまり意図せずRoger Nichols、Sly Stone、Brian Wilsonへ圧倒的なリスペクトを捧げた1作になりました。

『ビーチボーイズの、いちばんいいアルバムといちばんダメなアルバムから同時にサンプリングしつつ、全体的にはEW&F直系な祝祭ディスコ』という曲もあり、
YouTube/サブスク以降の感覚で作る、ムチャクチャなヘッド博士みたいな内容になってます。全体的なトーンは犬キャラ、ネタの傾向はLIFEみたいなアルバム。

今年の秋、遅くとも年内リリース予定です。サブスクにも出す予定なので、出たらちょっとつまむ程度にでも聞いていただけたら嬉しいです。


 というわけで!! スライ、ロジャニコ、ビーチボーイズ、いずれもいい曲たくさんあるので、ぜひ1曲でも多くみなさんのお好きな曲が見つかるようにお祈りしております。

肉体は消えても、録音物に込めた魂だけは残るから音楽っていいですね。そしてAdd Some Music To Your Dayとは素晴らしい言葉(次のThis Whole  Worldもメチャクチャないい曲)。


いいなと思ったら応援しよう!