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「誰かがやるだろう」と思ってしまうのは、あなたのせいじゃない。〜心理学でいう「傍観者効果」の話〜


会議で、

「質問はありますか?」

と聞かれた瞬間、部屋が静まり返る。

聞きたいことはある。

でも、

「誰かが聞くだろう。」

そう思って待っているうちに、

「それでは次へ進みます。」

と会議が終わってしまう。

そんな経験はありませんか。

あるいは、LINEグループで誰かが質問を投げかけたのに、既読だけが増えて返信がない。

電車で席を譲ろうか迷っているうちに、駅へ着いてしまった。

スーパーで商品が床に落ちているのを見かけたけれど、そのまま通り過ぎてしまった。

どれも、どこかで見たことのある光景です。

そして、多くの人は後になって少しだけモヤモヤします。

「あのとき、動けばよかったかな。」

でも、その場ではなぜか動けなかった。

実はこの現象には、ちゃんと名前があります。

心理学では「傍観者効果(Bystander Effect)」と呼ばれています。



「誰かがやるだろう」は、人間らしい反応


傍観者効果とは、困っている人や、何か行動したほうがよさそうな場面で、周りに人が多いほど

「誰かがやるだろう。」

と感じ、自分が行動しにくくなる心理現象です。

1960年代、社会心理学者のジョン・ダーリーとビブ・ラタネは、この現象を実験によって明らかにしました。

きっかけとなったのは、アメリカで起きたキティ・ジェノヴィーズ事件です。

*「多くの目撃者がいたのに誰も助けなかった」と報道された事件ですが、その後、この報道には誇張が含まれていたことも分かっています。

それでも、

「なぜ、人は他人がいると動けなくなるのか。」

という問いは、その後の社会心理学を大きく発展させました。

ここで大切なのは、

傍観者効果は、人が冷たいから起こるわけではない。

ということです。

人は昔から、集団の中で生きてきました。

危険かどうかを判断するときも、

安心していいかを判断するときも、

周りの様子を参考にしてきました。

森の中で物音がしたとき、

周りのみんなが平然としていれば、

「大丈夫なのかな。」

と思う。

逆に、みんなが一斉に逃げ出したら、自分も走り出す。

これは、人間の弱さではありません。

生き延びるために身につけてきた、とても合理的な能力です。

だから傍観者効果は、

人間の欠陥ではなく、人間らしさの一部なのです。

ただ、その優秀な仕組みが、現代では時々裏目に出てしまう。

それが傍観者効果です。



私たちの日常は、傍観者効果であふれている


そう考えると、私たちの日常には傍観者効果がたくさんあります。

職場でコピー用紙がなくなっても、

「次の人が補充するかな。」

と思ってしまう。

友人との旅行で、

「誰かが予約してくれていると思ってた。」

となる。

SNSで明らかな誤情報を見かけても、

「誰かが訂正するだろう。」

と思ってスクロールしてしまう。

どれも悪意があるわけではありません。

むしろ、多くの人は、

「誰かがやってくれる」と信じているだけなのです。

だから、

「あのとき動けなかった自分は冷たい人間だった。」

と責める必要はありません。

まずは、

「そういう心の仕組みがあるんだ。」

と知ることの方が大切です。



最初の一人が、空気を変える


面白いのは、この心理を私たちの身近なサービスも上手に利用していることです。

例えば、テレビ番組やイベント。

司会者はよく、

「拍手をお願いします。」

と声をかけます。

拍手くらい、好きなタイミングで始めてもよさそうなのに、わざわざ合図を出します。

なぜでしょう。

人は最初の一人が現れると、安心して行動できるからです。

バラエティ番組で笑い声が流れる「ラフトラック」も同じです。

「ここは笑っていい場面ですよ。」

という合図があるだけで、私たちは笑いやすくなります。

私たちは思っている以上に、

「周りがどうしているか」

を手がかりにして行動しています。

だから誰も拍手しなければ拍手しにくい。

誰も質問しなければ質問しにくい。

でも逆に言えば、

一人が動けば、その空気も変わり始めるということです。



心理学が教えてくれるのは、「責めること」ではない


だからといって、

「もっと積極的に動きましょう。」

と言いたいわけではありません。

人は誰でも、傍観者効果の影響を受けます。

僕もそうです。

あなたも、おそらく例外ではありません。

大切なのは、

「自分だけじゃなかった。」

と知ること。

そして、もし次に同じような場面が訪れたら、

ほんの少しだけ思い出してみることです。

「今、私は『誰かがやるだろう』と思っているのかもしれない。」

そう気づくだけで、

選択肢は一つ増えます。

電車で席を譲る。

会議で最初に質問する。

落ちている物を拾う。

誰かに「ありがとう」を最初に伝える。

どれも大きな勇気はいりません。

でも、その小さな一歩が、その場の空気を変えることがあります。

人は、動かない人にも影響されます。

それと同じくらい、

最初に動いた人にも影響されるのです。



おわりに


あのとき動けなかった自分を、

「勇気がない人間だった。」

そう責める必要はありません。

人間の心は、もともとそういうふうにできています。

でも、

「そういう仕組みなんだ。」

と知った人は、次に少し違う選択ができます。

心理学は、人を変える魔法ではありません。

けれど、自分の心を少し理解すると、選べる道が一つ増えます。

僕は、それだけでも十分大きな変化だと思っています。

もし次に、

「誰かがやるだろう。」

そう思う場面があったら、

ほんの少しだけ立ち止まってみてください。

そのあと動くかどうかは、あなたが選べます。

そして、その小さな一歩が、思っている以上に周りへ伝わっていくことがあります。

誰かが空気をつくるのを待つのではなく、

自分がその「最初の一人」になってみる。

そんな日が、一日くらいあってもいいのかもしれません。🌱


動けなかった自分を責め続けると、心は少しずつ削られていきます。自己肯定感を「上げる」前に考えたいことを書きました。


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