人と組織のポテンシャルを引き出す「成長の3原則」と実践のアプローチー今野誠一の“組織のテレビ”第2回
今野誠一氏のYouTube「今野誠一の組織のテレビ」の第2回「成長のために大切なこと」を拝聴しました。
成長を促す環境づくりとチャレンジングな仕事の付与
個人の成長において最も重要な要素は実践経験であり、人が育たない組織の典型的な要因は仕事を任せないことにあります。ベンチャーやスタートアップのように、人手不足の中で能力以上の仕事を任され、試行錯誤しながら完遂するプロセスこそが急速な成長を生み出します。
一方で、組織に余裕が生まれると「経験が浅い」「高度な業務だから」といった理由で年功的な発想に陥り、安心感を優先して若手に挑戦機会を与えなくなる傾向が見られます。現代のビジネス環境においては、過去の経験値だけでは対応できない変化が多いため、少し背伸びが必要な難易度の高い仕事を次々と与え、数回の失敗を経て成功へと導く機会提供が欠かせません。

少数精鋭の維持と社会的手抜きの防止
組織を率いる立場として強く意識したいとして、あえて「少人数の状態を維持する」ことが挙げられます。現場からの安易な増員要請に応じて人員を増やしすぎると、個人の成長機会を奪うだけでなく、心理学でいう「リンゲルマン効果(社会的手抜き)」が発生しやすくなります。人数が増えるほど「誰かがやるだろう」という当事者意識の希薄化や同調が生じ、1人あたりの発揮エネルギーが低下してしまいます。そのため、可能な限り少人数の体制を保ち、各自の役割と責任を明確にした緊張感のある環境の中で、一人ひとりに少し頑張れば達成できる適切な難易度の仕事を任せることが有効です。
経験学習モデルによる振り返りと概念化の重要性
経験を単なるやりっぱなしで終わらせず、自らの糧とするためには「振り返り(リフレクション)」が不可欠です。組織行動学者デイビッド・コルブが提唱した「経験学習モデル」では、具体的経験、内省、概念化、実践という4つのサイクルを回すことが示されています。
特に重要なのが「概念化」であり、うまくいった要因や失敗した理由を自身の言葉で言語化し、独自の法則(マイセオリー)として引き出しにストックしておくことです。これにより、次に同様の状況に直面した際にその知識を再現性高く活用できるようになります。また、この内省と概念化は現場のメンバーだけでなく、リーダー層自身が過去の成功体験に頼らず自らの仕事術を体系化するためにこそ必要とされます。
自律的にフィードバックを求める「フィードバックシーカー」の育成
従来の受け身になりがちな評価面談の枠組みを超え、自ら能動的に周囲へ意見を求めに行く「フィードバックシーカー」を組織内に増やすことが、成長スピードを加速させます。自発的に改善点を引き出すための技術として、業務終了後ではなく事前に着目してほしいポイントを伝えておく「事前予告」、大雑把に尋ねるのではなく点数などを活用して具体的に改善点を探る「限定質問」、そして助言を受けたら速やかに実行して結果を報告する「お礼と報告」の3つが挙げられます。さらに、リーダー自身が上長や顧客に対して楽しそうにフィードバックを求めに行く姿を見せることで、組織全体に自律的な成長文化が定着していきます。

人事視点から捉える実践と組織への活かし方
挑戦機会を最大化する配置と組織設計の工夫
社員の急速な成長を後押しするためには、業務の割り振りと人員配置の設計において、あえて少しストレッチが求められる環境を整えることが一手として考えられます。現場から増員や業務軽減の要望が出た際、単に人員を増やすのではなく、現在の業務プロセスを見直した上で、各メンバーが一段上の役割に挑戦できる余地がないかを検討したいところです。あらかじめ役割と責任の所在を明確にしておくことで、当事者意識の低下を防ぎ、一人ひとりが主体的に業務を推進する緊張感と充実感を両立させることが期待できます。
若手の早期抜擢と心理的安全性の担保
「まだ経験が足りないから」という固定観念にとらわれず、意図的に若手を重要プロジェクトや難易度の高い役割へ抜擢する仕組みづくりも有効なアプローチといえるでしょう。変化の激しい時代においては、過去の経験年数よりも柔軟な思考力や適応力が成果を左右する場面が少なくありません。初期の段階で失敗を過度に恐れさせないよう、周囲のフォロー体制やリカバリー可能なセーフティネットを設計しつつ、挑戦を称賛する評価基準を取り入れることで、失敗を糧に成長していける組織風土の醸成につながると考えられます。
経験を学びに変えるリフレクションの仕組み化
日々の忙しさの中で経験が消費されてしまわないよう、内省と概念化を習慣づけるフレームワークを社内に浸透させることも有益です。日報や定期的な1on1ミーティングの場を単なる業務進捗の確認にとどめず、「なぜうまくいったのか」「自分なりの成功パターンはどう言語化できるか」を深掘りする対話の場として位置づけ直すことが考えられます。個人の中に眠る知見を「マイセオリー」として可視化し、社内共有会などでナレッジとして循環させることで、組織全体の学習能力を高める一手となり得ます。
管理職自身の内省とアンラーニングの支援
現場のメンバーに振り返りを促すだけでなく、管理職やリーダー層が自身のマネジメントや業務の進め方を客観的に見つめ直す機会を設けることも大切にしたいポイントです。長年の経験に頼った指導から脱却し、自らのノウハウを言葉にして体系的に伝える力を養うための研修やワークショップを企画することが考えられます。リーダーが自らの行動をアップデートし続ける姿勢を示すことが、メンバーに対する最も説得力のある育成支援となり、組織全体の健全な新陳代謝を促すといえるでしょう。
フィードバックを能動的に引き出すスキルの浸透
人事評価や面談の機会を「評価される側と評価する側」という固定的な関係から、「自律的な成長のための対話」へと進化させるために、フィードバックを求める側のスキルを高めるアプローチが考えられます。新入社員研修やキャリア研修のカリキュラムに、事前予告や限定質問といった具体的な質問技法を盛り込むことで、若手自身が上司や周囲から効果的なアドバイスを引き出せるようサポートすることが期待できます。双方向のコミュニケーションが自然に生まれることで、日常的なOJTの質が一段と高まるでしょう。
リーダーが模範となるフィードバック文化の醸成
自発的にフィードバックを求める文化を根付かせるためには、経営層や管理職が率先して周囲からの意見を歓迎する姿勢を社内に発信していくことが望まれます。上司が自らの課題や受け取ったアドバイスをオープンに語り、ポジティブに改善に取り組む姿を共有することで、現場のメンバーも心理的な抵抗なく助言を求められるようになります。こうしたオープンな対話が日常化するよう、社内報でのエピソード紹介や好事例の共有などを通じて、全社的な文化づくりを後押ししていきたいところです。
