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なぜ経営者は「個人商店」を卒業できないのか?組織化を阻む「6つの心理的壁」:いまのたかの組織ラジオ#264

 今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。

 今回は、第264回目「組織化できない経営者に共通の阻害要因」でした。前回のテーマである「組織の本質は再現性である」という定義を受け、今回は核心に迫る「なぜ、多くの経営者は個人商店から脱却し、組織化することができないのか」という問いに向き合っています。

 今野氏自身がかつて40名規模の組織を率いながらも、実質的には「個人商店」の域を出られず、組織化に失敗したという生々しい実体験に基づいた告白でした。教科書的な理論ではなく、痛みを伴う経験から紡ぎ出された言葉には、多くのベンチャー経営者やリーダーが直面する葛藤が凝縮されています。ここでは、対話の中で浮き彫りになった「6つの阻害要因」を中心にして考えてみます。

1. 「組織を使った経験」の欠如と、実感を伴わない抽象論

 最初の、そして最も根本的な阻害要因として挙げられたのが、経営者自身に「組織を使って成果を出した原体験」が不足しているケースです。

 大企業でのマネジメント経験がなく、個人事業主からそのまま法人化した経営者の場合、「組織」という言葉が単なる抽象名詞としてしか響かないことがあります。組織という「道具」を使いこなすことで、自分一人の限界を超えた大きな成果(再現性)を生み出せるという確信が持てないのです。

 理屈では「組織化したほうがいい」と分かっていても、肌感覚としてそのレバレッジの効き方を体感していないため、いざという時にアクセルを踏み込めません。これは「管理職経験がないと起業してはいけない」という意味ではなく、組織というメカニズムに対する「手触り感」の欠如が、見えない心理的ブレーキとして機能してしまうという指摘です。

2. 「創業時の成功体験」という強固な足かせ

 次は、皮肉にも会社を成長させた「創業時の成功体験」そのものです。創業初期には、創業者が先頭に立ち、自分のやり方で牽引することが正解であり、実際にそれが当たったからこそ今があります。

 しかし、組織化のフェーズにおいては、この「自分がやったほうが早い」「自分のやり方が一番正しい」という成功体験が最大のボトルネックとなります。過去に正解だった戦略が、組織の成長段階では「悪手」に変わるのです。経営者が「こうやればいいんだ」と過去の勝利の方程式を押し付け、それ以外の方法を否定してしまうと、社員は思考停止に陥ります。

 成功体験が強烈であればあるほど、そのやり方を手放すことへの恐怖心は強く、結果として組織の多様性や自律的な成長を阻害してしまうというパラドックスが生じます。

3. マイクロマネジメントと「視座」の低さ

 成功体験への固執は、必然的に3つ目の要因である「マイクロマネジメント」を引き起こします。これは無意識の依存とも言える状態です。

 「任せたら質が落ちる」「自分と同じようにはできない」という不安、さらには「裏切られるのではないか」という疑心暗鬼が、細部への過干渉を招きます。今野氏の回想にもあったように、建前では「お客様への価値提供のため」と言いつつ、本音では単に任せることが怖いだけというケースは少なくありません。

 ここで重要なキーワードとして出たのが「視野は広いが、視座が低い」という状態です。経営者として市場を見る「視野」は広くても、現場の実務レベルにこだわってしまう「視座」の低さが、現場社員の成長機会を奪います。任せることへの恐怖を乗り越えられない限り、組織は経営者の器以上に大きくなることはありません。

4. メリットを上回る「仕組み化の面倒くささ」

 4つ目は、より現実的かつ感情的なハードルです。組織化によって得られる将来の利益(拡大や再現性)よりも、目の前の「手間」が大きく見えてしまう問題です。

 組織化とは、属人的な業務を分解し、誰でもできるように標準化し、ルールを整備する作業です。これには膨大なエネルギーが必要です。しかも、いざ組織化を始めると、一時的にミスが増えたり、顧客トラブルが発生したり、できない社員が顕在化したりと、むしろ「トラブルが増える」現象が起きます。

 経営者はこの「産みの苦しみ」に直面した時、「こんなに大変なら、自分ができる範囲でやったほうがマシだ」と後戻りしたくなります。未来の果実を得るために、目前のトラブル処理と仕組み作りという泥臭い作業を耐え抜く意志を持てるかどうかが、分水嶺となります。

5. 「好調時」という落とし穴

 5つ目は、逆説的ですが「会社が儲かっていること」が阻害要因になるという点です。売上が伸び、利益が出ている時、経営者は強烈な全能感と手応えを感じています。自分が現場を回し、数字が上がっているのだから、組織化など必要ないと感じてしまうのです。

 しかし、対話の中では「うまくいっている時こそが最も危険であり、最も組織化すべきタイミングである」と強調されました。好調さは、組織内部の歪みや、将来の種まき不足、人材育成の遅れといった問題を覆い隠します。30〜40人の壁にぶつかる前、まだ余力があるうちに手を打たなければ、成長が止まった時に打つ手は限られてしまいます。この「見えない危機」を好調時に察知することの難しさが語られました。

6. 時間感覚の欠如と「自分がいなくなった未来」

 最後の要因は、時間軸に対する想像力の欠如です。組織化の究極の目的は、経営者自身がいなくなっても事業が継続・発展し続ける状態を作ることです。つまり「引き継ぎ」の発想です。

 自分が永遠に現場に立ち続けることは不可能です。それにもかかわらず、「自分がいなくなった未来」をリアルに想像できていないため、再現性の担保や権限委譲が先送りされます。組織とは、特定の個人の能力に依存せず、機能として回り続けるシステムであるという視点を持てるか。この時間感覚の有無が、個人商店のままで終わるか、永続する組織になるかを決定づけます。

人事の視点から紐解く、「組織化の壁」への伴走とアプローチ

 経営者が直面するこれらの「阻害要因」は、裏を返せば、人事としてどのように組織開発や経営支援に関わっていくべきかのヒントの宝庫でもありました。
 経営者を孤独な意思決定者として放置するのではなく、組織の成長痛を共に乗り越えるパートナーとしての視点を持つことで、いくつかの有効なアプローチが見えてきます。

経営者の「不安」を言語化し、翻訳する役割

 まず意識したいのは、経営者が抱える「任せることへの恐怖」や「品質低下への懸念」を、単なるワガママや性格の問題として片付けないことです。これらは、創業者が事業を大切に思うがゆえの防衛本能でもあるでしょう。

 人事ができる一つの手として、経営者の頭の中にある「暗黙知」や「成功の方程式」を、丁寧にヒアリングし、言語化・形式知化するサポートが考えられます。経営者が「自分でやったほうが早い」と感じるのは、自身のノウハウが他者に伝達可能な形になっていないからです。

 「社長が大切にしている品質の基準は、具体的にこのプロセスのどこにあるのでしょうか?」と問いかけ、感覚的なこだわりを評価基準や業務フロー、あるいはクレドのような形に翻訳していく。このプロセスを経ることで、経営者は「これなら他者に任せても大丈夫かもしれない」という安心感を得やすくなるのではないでしょうか。

「視座の転換」を促すフィードバックと環境づくり

 「視野は広いが視座が低い」という状態に対しては、経営者が現場業務から離れ、本来注力すべき「未来への投資」に時間を使えるような環境づくりが求められます。

 しかし、いきなり「現場から離れてください」と正論をぶつけても、逆効果になることがあります。むしろ、マイクロマネジメントが発生している現場の状況を、客観的なファクトとして伝えることが有効かもしれません。「社長が詳細な指示を出すことで、現場のメンバーが自ら考えることを止めてしまっている兆候があります」といった、組織診断的なフィードバックです。

 また、権限委譲を進める際には、失敗を許容する文化の醸成もセットで進めたいところです。任せた結果として起きる初期のトラブルを「組織化のための必要経費」や「成長痛」として捉え直すアナウンスメントを人事主導で行うことで、経営者が過度に失敗を恐れ、再び現場に介入してしまう揺り戻しを防ぐ一助となるでしょう。

「好調時の危機感」をデータで可視化する

 業績が好調な時に組織化の必要性を感じにくいという課題に対しては、財務諸表には表れない「組織の健康診断」の結果を突きつけることが有効です。

 売上は上がっていても、離職率の予兆が高まっていないか、特定のハイパフォーマーへの負荷が限界に達していないか、次世代リーダー層が育っているか。こうした「人と組織のデータ」を定点観測し、好調な数字の裏で進行している組織のリスクを可視化することは、人事ならではの機能です。

「今のメンバーの頑張りで数字は出ていますが、3年後にこの規模を維持・拡大するためのリーダー層が質・量ともに不足しています」といった、未来の時間軸に基づいた提言を行うことで、経営者の意識を「現在の好調」から「未来の存続」へとシフトさせるきっかけを作ることができるかもしれません。

組織化を「面倒な作業」から「資産づくり」へリフレームする

 仕組み作りやルール整備は、確かに面倒で地味な作業です。しかし、これを「管理のための拘束具」ではなく、「迷いを減らし、創造性を発揮するための土台」すなわち「資産」であると捉え直す支援も大切です。

 人事制度や評価基準を作る際も、単に型にはめるのではなく、「どうすれば社員が自走しやすくなるか」「どうすれば社長の想いがより純度高く伝わるか」という観点で設計すること。そして、その仕組みが機能し始めた時の小さな成功体験(例えば、社長が不在でもトラブルなくプロジェクトが完遂した事例など)を社内で共有し、称賛すること。

 こうした積み重ねによって、経営者自身に「組織を使うことのメリット」を実感してもらうことが、遠回りのようでいて、実は組織化を定着させる近道になるのではないかと考えられます。

 経営者の孤独な戦いに寄り添いながら、時に鏡となり、時に翻訳者となる。そうして組織のOSを「個人」から「仕組み」へとアップデートしていく過程こそが、人事にとっても大きな挑戦であり、醍醐味であるといえそうです。

【追伸】当番組の最後で、私のnoteについてご紹介いただきました。ありがとうございます。引き続き楽しませていただきます。


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