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社員の「化ける」瞬間を創り出すー今野誠一氏に学ぶ、個人の「変」を組織の力に変える人事戦略:いまのたかの組織ラジオ#246

 今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。今回のテーマは、第246回「今野誠一はどうアップデートしてきたのか」です。内容を確認・考察したいと思います。

 今回は、先週の高野慎一氏に続き、今野誠一氏の自己アップデート術です。単なるスキルアップや知識習得のテクニックに留まらず、人生そのものを豊かにするための哲学に基づいています。その根幹には「人生企画書」という独自のフレームワークがあり、そこから知識・スキル・マインドの各側面における具体的なアップデート手法が枝分かれしています。

人生の基盤となる「人生企画書」というアップデートの土台

 今野氏の自己アップデートは、40歳で独立した時から作り続けている「人生企画書」が全てのベースになっています。これは、キャリアプランや仕事の計画書といった限定的なものではなく、仕事はもちろん、家族やプライベートを含めた人生全体をどのように歩んでいきたいかを設計したものです。この企画書は一度作って終わりではなく、これまで十数回にわたりリニューアル、つまりアップデートを繰り返してきました。

 特に大きな変化があったのは、会社のステージが変わる時や、リーマンショックのような苦境に立たされた時です。外部環境や自身の状況の変化に応じて、人生企画書そのものを見直し、書き換えることで、自分自身の進むべき方向を再定義してきました。

 最近のアップデートでは、年齢を重ねたことから、具体的な年表形式ではなく、「80歳の時にどういう状態でいたいか」という「状態目標」を設定する形に変わりました。そして、その状態目標を達成するために、「自分バリュー)」という15個の具体的な行動指針を定めています。この「人生企画書」と「自分バリュー」を毎朝確認することで、日々の行動が人生全体の大きな目標とぶれないように調整しているのです。

 このアプローチの素晴らしい点は、仕事が人生の一部として明確に位置づけられていることです。仕事に邁進することは尊い一方で、「仕事オンリー」の人生ではなく、豊かな人生を送る中の一つの役割として仕事がある、というスタンスです。このような広い視野を持つことが、特に管理職や経営層といった上の立場に立つ人間にとって、人間的な魅力を深め、結果として仕事にも良い影響を与えるという考え方が示されています。

知識のアップデート:「多読」ではなく「多度読」で本質を掴む

 組織コンサルタントという職業柄、知識のアップデートは不可欠です。クライアントである経営者や人事部長は非常によく勉強しており、彼らと対等以上に渡り合うためには、常に知識を吸収し続ける必要があります。

 その中心的な手法は「読書」ですが、今野氏が提唱するのは、多くの本を手当たり次第に読む「多読」ではなく、重要な本を何度も繰り返し読む「多度読(たどく)」です。同じ本を2度、3度と読むことで、初回では気づかなかった本質的なメッセージや、著者の深い意図を読み取ることができます。

 この「多度読」の目的は、単に本の内容を暗記することではありません。繰り返し読む中で、自身がコンサルティングで関わる企業の具体的な事象と、本に書かれている理論や概念とを結びつけることにあります。「あのクライアント先で起きていた問題は、この理論で説明できるな」というように、現実と理論を接続させ、経験則を体系化していくのです。このプロセスを経て初めて、知識は単なる情報から、実践で役立つ「使える知識」へと昇華されます。

 また、読書だけでなく、最近では「グロービス学び放題」のような動画学習サービスも積極的に活用しています。これは、体系的にまとめられた質の高い知識を効率的にインプットできる有効な手段として評価しており、自らも体験することで、その価値を確かめ、アップデートに役立てています。これらの活動は、使える知識を深掘りし、自らのコンサルティングの説得力を高めるための、地道でしかし不可欠な努力でしょう。
 実は、私ひでまる自身も同サービスを有効に活用しています。別に深掘りも必要ですが、一定程度体系的な知識も必要と思います。

スキルのアップデート:「プロへの投資」と「毎日の鍛錬」

 スキル面でのアップデートにおいては、大きく二つの柱があります。一つは「プロに学ぶ」こと、もう一つは「毎日の地道な鍛錬」です。

 今野氏は、コーチング、スピーチ、さらには若い頃のコンプレックスだった滑舌を克服するためのボイストレーニングなど、その道のプロフェッショナルに直接教えを請うことを実践してきました。これらは、時間もお金もかかる投資ですが、自己流で試行錯誤するよりも、本質を早く正確に掴むことができ、結果的に「急がば回れ」の最も効果的な近道であると考えています。自分自身に投資し、根本的な部分を磨くという姿勢は、スキルを確固たるものにする上で非常に重要です。

 そしてもう一つの柱が、日々の継続的な鍛錬です。象徴的に「1日5分」と表現されていますが、どんなに忙しくても、発声練習や読書など、自分で決めたトレーニングを毎日欠かさず続けることを習慣にしています。これは、スティーブン・R・コヴィー博士の『7つの習慣』の「刃を研ぐ」という考え方を実践するものであり、ご自身の趣味である落語の稽古においても同様のアプローチを取っています。

 この「毎日続ける」という地道な実践こそが、アップデートの本質である「変化」を生み出します。今野氏が師匠から教わったという「変」と「化」の話は、このプロセスを非常によく表しています。「変」とは、毎日の少しずつの、目には見えにくい変化の積み重ねです。そして「化」とは、その「変」を積み重ねた結果、ある日突然、まるで別人のようにステージが上がる「化ける」瞬間を指します。アップデートとは、劇的な跳躍ではなく、日々の小さな「変」をコツコツと継続した先にある「化」を目指す、息の長いプロセスなのです。

マインドのアップデート:行動指針としての「自分バリュー」

 マインドのアップデートは、精神論や抽象的な心構えではありません。それは、先に述べた「自分バリュー」という具体的な行動指針を毎日確認し、実践することに集約されます。

 「自分はこう行動する」という具体的な行動レベルの指針(バリュー)を定めることで、それに伴ってマインドも形成され、アップデートされていく、というアプローチです。抽象的な目標を掲げるだけでは行動は変わりにくいですが、具体的な行動を定義し、それを日々意識することで、思考や価値観、つまりマインドも自然と変化していきます。

 これもまた、非常に地味な実践です。しかし、この地道な繰り返しこそが、人生企画書で描いた大きな目標に向かうための、ブレない軸を作り上げ、マインドを常にアップデートし続けるための根幹となっているのです。知識、スキル、そしてマインドのアップデートは、全て「人生企画書」という大きな設計図の下で有機的に繋がり、日々の地道な実践によって支えられている、というのが今野氏のアップデート術の全体像です。

【人事視点】個人の「変」を組織の「化」へ繋げる人材育成・組織開発

 今野氏が実践されている自己アップデート術は、一個人の成長戦略として非常に示唆に富むものですが、これを企業人事の視点から見ると、これからの時代に求められる人材育成や組織開発のあり方について、数多くの重要なヒントが見えてきます。社員一人ひとりの自律的な成長を促し、それを組織全体の力へと昇華させるための具体的な施策として、どのように活かせるかを考察します。

キャリア自律を本質的に促す「人生企画書」の思想

 多くの企業が「キャリア自律」を掲げ、研修やキャリア面談制度を導入していますが、その中身が「会社の中でのキャリアパスをどう描くか」という視点に終始してしまうケースは少なくありません。しかし、今野氏の「人生企画書」は、仕事はあくまで人生の一部であるという、より根源的で広い視野に基づいています。

 人事としてこの思想を応用するならば、社員に対して「あなたの人生において、この会社で働くこと、この仕事はどのような意味を持ちますか?」という問いを投げかけ、内省を促す機会を提供することが考えられます。具体的には、キャリアデザイン研修のプログラムに、「ライフプランニング」の要素を組み込み、短期的な業務目標だけでなく、5年後、10年後、あるいはそれ以降の人生全体を俯瞰して考えるワークショップを実施します。

 また、1on1ミーティングの場でも、上司は部下の業務進捗やスキルアップだけでなく、その人が人生で何を大切にしたいのか(バリュー)、どのような状態でありたいのか(状態目標)といった、よりパーソナルな側面に寄り添う対話が求められます。

 このようなアプローチは、社員が「会社にやらされるキャリア開発」ではなく、「自分の人生を豊かにするための一環として、仕事に主体的に取り組む」という真のキャリア自律を促します。結果として、エンゲージメントの向上や、自身の価値観と会社のビジョンが合致しているかを見極めた上での健全な人材定着に繋がり、ミスマッチによる早期離職の防止にも貢献するでしょう。

「学び方」をアップデートし、「使える知識」を組織の資産にする

 知識習得の重要性は言うまでもありません。一方で、eラーニングの導入や資格取得奨励制度を設けるだけでは、知識が「知っているだけ」で終わってしまう危険性があります。今野氏の「多度読」の考え方は、「学びの質」をいかに高めるかという点で、人事にとって大きなヒントとなります。

 これを組織的に展開するためには、インプットした知識をアウトプットし、対話し、実践と結びつける「場」を意図的に作ることが重要です。例えば、特定のビジネス書や専門書を課題図書とした「読書会」や「勉強会」を部署単位や有志で定期的に開催します。そこでは、本の内容を要約するだけでなく、「この理論を我々のビジネスに当てはめるとどうなるか」「Aさんの担当業務では、このフレームワークをどう活かせるか」といった、自社のコンテクストに引き寄せたディスカッションを促します。

 また、「プロに学ぶ」という姿勢を組織として支援することも有効です。社内の専門知識を持つ社員を「マイスター」として認定し、メンターとして後進の指導にあたってもらう制度や、外部の専門家を招いたクローズドなワークショップを企画し、特定のスキルを集中的に磨く機会を提供します。これは、単に外部研修に行かせるだけでなく、組織として「本物のスキル」を追求する文化を醸成することに繋がります。

 これらの施策は、社員一人ひとりの知識を「使える知識」へと転換させ、個人のスキルアップに留まらず、組織全体の知的資産を豊かにしていくための重要なエンジンとなります。

継続的な成長を支えるマネジメントと「変」を待つ文化

 「1日5分」の鍛錬や、「変」を積み重ねて「化」に至るというプロセスは、人材育成が短期的な視点で行われるべきではないことを強く示唆しています。研修を受けさせればすぐに成果が出る、という考え方は現実的ではありません。人事としては、この「継続的な努力」と「長期的な成長」を支援し、評価する仕組みと文化を構築する必要があります。

 マネジメント層には、部下の劇的な「化」ばかりを期待するのではなく、日々の地道な「変」の努力に目を向け、それを承認し、励ます役割が求められます。1on1ミーティングでは、「先週よりもプレゼンの話し方がスムーズになったね」「毎日コツコツとデータ分析を続けているのが、レポートの質に表れているよ」といった、具体的な行動レベルでのフィードバック(Recognize)が重要になります。

 また、評価制度においても、期末の成果(結果)だけで判断するのではなく、目標達成に向けたプロセスや、日々の学習・改善活動といった「成長に向けた行動」を評価項目に加えることが考えられます。OKR(Objectives and Key Results)のような目標管理手法を用いるのであれば、成果目標(Objective)だけでなく、個人の成長や能力開発に関する挑戦的な目標を設定させ、そのプロセスを評価の対象とすることも有効でしょう。

 このような文化と仕組みは、社員が安心して挑戦し、失敗から学び、地道な努力を続けることを可能にします。すぐに結果が出なくても、組織が自分の成長プロセスを見守ってくれているという安心感が、やがて大きな「化」へと繋がる土壌となるのです。

管理職自身が「人生企画書」を持つことの重要性

 最後に、これらの施策を機能させる上で最も重要なのは、管理職自身の姿勢です。管理職が仕事一辺倒で疲弊しているようでは、部下に「人生を豊かに」と説いても説得力がありません。管理職自身が、今野氏のように仕事とプライベートを含めた「人生企画書」を持ち、自己のアップデートに努め、充実した人生を送っている姿を見せることこそが、最も効果的な部下育成と言えるかもしれません。

 人事としては、新任管理職研修や既存の管理職向けのプログラムにおいて、マネジメントスキルだけでなく、「管理職自身のキャリアとライフを考える」セッションを設けるべきです。自らの「自分バリュー」を言語化し、部下と共有することで、単なる業務上の上司・部下という関係性を超えた、人間的な信頼関係を築くきっかけにもなります。

 部下の人生に寄り添い、その成長を長期的な視点で支援できる管理職を育成すること。それこそが、社員一人ひとりの「変」を促し、組織全体の持続的な「化」を実現するための、人事部門が果たすべき最も重要な役割の一つといえるのではないでしょうか。今回も改めて、大きなヒントを得られました。


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