「裸の王様」にならないために。組織の中に健全な「鏡」を設置する人事の具体策:いまのたかの組織ラジオ#294
今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。
今回は、第294回目「役職がつくとなぜ偉そうになるのか」でした。
役職が人を「偉そう」にさせる背景とその心理的メカニズム
組織の中で一定の役職に就いた途端、それまでとは態度が一変し、周囲に対して高圧的になったり偉そうな振る舞いを始めたりする人物を見かけることは少なくありません(私もそうかも)。この現象について、日経ビジネス氏に掲載されたある寺院の住職へのインタビュー記事を基に議論が展開されています。
まず前提として、立場や役職というものは、その人の内面を新しく作り変えるのではなく、もともとその人が持っていた潜在的な傾向や内面を「拡大」する効果を持っています。たとえば、小さな軽自動車に乗っていた人が大きな高級SUVに乗り換えた途端、自分が大きくなったような錯覚に陥り、運転が荒くなってしまう現象と似ています。役職という外的な条件が変わることで、その人が本来抱えていた考え方や傲慢さが、より顕著に表面化してくるのです。
しかし、人が偉そうになる原因は、単にその人の性格が悪いからという一言だけで片付けられるものではありません。その背景には、役職者が直面する特有の「不安」と「責任」の裏返しが存在しています。特に新しく管理職に登用されたばかりの新任課長などの場合、自分の守備範囲が広がり、多くの部下をマネジメントしなければならないという急激な環境の変化に直面します。それと同時に、「絶対に失敗してはならない」という強いプレッシャーや緊張、恐れといった強い不安を抱え込むことになります。人間はこのような強い不安や心理的危機に直面したとき、最も手っ取り早い解決策として、与えられた権力を使って周囲を支配しようとしたり、高圧的な態度でコントロールしようとしたりする防衛本能が働きやすくなります。
つまり、偉そうな態度というのは、内面の余裕のなさや恐怖を隠すための必死の鎧であるといえるでしょう。
仏教的視点から見る「我執」と「生児現成」の教え
番組中では、この心理状態を仏教の言葉を用いてさらに深く解き明かしています。上司という立場になったのだから部下を従わせなければならない、というように自分の立場に強くしがみつき、支配的になってしまう心の働きを、仏教では「我執(がしゅう)」と呼びます。この執着から離れるためには、役職という役割を通じて、自分自身が「学ばせていただいている」という、いわば修行の姿勢を持つことが求められます。
さらに、住職が紹介した言葉に「生児現成(しょうにげんじょう)」という仏教由来の概念があります。これは、子供が生まれて初めて、親も親としての生き方を学び、親として育てられていくという意味を持っています。この考え方をビジネスの組織に当てはめると、最初から完璧に完成された部長や課長など存在しない、ということになります。
部下ができて初めて上司という立場が成立するのであり、上司もまた、その役割の中での戸惑いや失敗を経て、部下と共に少しずつ育てられていく存在なのです。完成された存在として振る舞おうとする過剰な役割意識こそが、周囲に対して傲慢な態度を取らせる原因になってしまいます。
役職者が陥りやすい3つの罠
役職者が「偉そう」になってしまうプロセスには、具体的な3つの罠が存在すると分析されています。
1つ目は、「役割と人格の混同」です。課長や部長、取締役といった役職は、組織を円滑に運営するために用意された単なる「機能」や「記号」にすぎません。しかし、周囲から日常的に役職名で呼ばれ、決裁権を行使しているうちに、自分の人格そのものが偉くなったと錯覚し始めてしまいます。これが我執の正体であり、役割と人格を切り離して考えられないことが傲慢さを生む原因となります。
2つ目は、「恐怖をコントロールで解決しようとする防衛本能」です。成果を出さなければならないというプレッシャーや、部下が思い通りに動かないことへの焦り、さらに上層部からの厳しい視線に晒される中で、リーダーは孤立しやすくなります。この不安を解消するために、最も簡単な手段である「権力の行使」を選び、力づくで部下を従わせようとします。特にマネジメントのスキルをまだ十分に持ち合わせていない新任マネージャーほど、この罠に嵌まりやすい傾向があります。
3つ目は、「フィードバックの消滅」、いわゆる「裸の王様」状態化です。役職が上がれば上がるほど、周囲のメンバーや部下は上司に対して忖度をするようになり、耳の痛いアドバイスや本当の意見を言ってくれなくなります。人間が自分の振る舞いを修正するためには、自分を映し出す「鏡」が必要不可欠ですが、役職につくことでその鏡が失われ、組織の自浄作用が働かなくなります。その結果、本人が無自覚のうちに傲慢さが加速していくという悪循環に陥ってしまうのです。
偉そうな態度を排除し、真に生きたリーダーシップを確立するために
これらの罠を回避し、周囲から本当に信頼されるリーダーになるためには、先ほどの罠を裏返したアプローチを実践していく必要があります。
まず何よりも、役職とは単なる「役割であり機能である」という定義を徹底することが重要です。人間としての上下関係ではなく、あくまで役割が異なるだけで対等な存在であるという基本原則を行動規範に落とし込むことが求められます。
そして、最も効果的な対策となるのが、リーダー自身の「自己開示」です。完璧な上司として振る舞おうとする呪縛を捨て、自分の弱さや、現在の正直な状況を周囲にオープンに伝えることです。
たとえば、新しく役職に就いた際に「この役職は初めてなので、的外れな指示を出してしまうこともあるかもしれない。気づいたことがあれば遠慮なく教えてほしい」とメンバーに最初に宣言してしまう手法です。
自分の弱みを見せ、自己開示ができるリーダーは、部下から隠れて見透かされることなく、逆に「応援したい、助けたい」と思われる存在になり、チームの共感を獲得できるようになります。試されるのはマネジメントの能力そのものというよりも、自分の弱さとどのように向き合っているかという人間力であるといえるでしょう。


人事の現場における役職と人格の切り離しへのアプローチ
ここからは、企業の持続的な成長と健全な組織文化を醸成するためのアプローチについて考察してみます。組織内で役職者が傲慢化していく問題は、個人の資質だけに帰結させるのではなく、組織の仕組みや運用の工夫によって予防、解決していく視点が重要になると思います。
まず取り組みたいのが、社内における「役職と人格の切り離し」を仕組みとして定着させる一手です。番組内でも言及されていたように、日常の呼称を役職名ではなく、全社一律で「さん付け」に統一する運用は非常に有効なアプローチであると考えられます。毎日数十回と「〇〇部長」「〇〇課長」と呼ばれ続ける環境は、本人が意識せずとも、自分の人格そのものが特別であるという錯覚を強固にしてしまうリスクを孕んでいます。呼称をフラットにすることで、役職はあくまで組織における「担当業務の機能」にすぎないという認識を、本人にも周囲にも自然に浸透させることができます。
同時に、役職の定義書や職務記述書において、その役職が果たすべき「機能」を明確に言語化し、人格的な優位性を意味するものではないことを、評価制度や研修の場を通じて繰り返し発信していく工夫が求められます。
新任管理職の不安を和らげる自己開示のシチュエーション作り
次に注目したいのが、新任管理職が直面する「プレッシャーと恐怖」へのケアです。多くの組織において、新しく管理職になった社員に対して「優秀なプレイヤーであり、完璧な上司でなければならない」という無言の圧力がかかりがちです。この過剰な役割意識が不安を生み、部下を力づくでコントロールしようとする高圧的な態度につながっていきます。
これを防ぐために、人事の関わり方として、新任管理職が安心して「弱音を吐ける」あるいは「自己開示のスキルを学ぶ」ためのシチュエーションや研修機会を設けることが考えられます。管理職自身の現在進行形の試行錯誤や戸惑いを、部下に正直に伝える「自己開示のマネジメント手法」をインストールしてもらうアプローチです。新任マネージャーが「最初から完璧な上司などおらず、部下に助けられながら一緒に育っていくものだ」という「生児現成」の視点を持てるようになれば、権力で周囲を威圧する必要性はなくなります。自身の弱みや課題を素直に共有し、周囲の知恵を借りながら進めるチームビルディングの手法を推奨することで、恐怖による支配ではなく、共感による巻き込み型のリーダーシップへの転換を促すことができるでしょう。
孤立を防ぎ「鏡」を取り戻すためのフィードバックの仕組み化
役職者が陥る最も深刻な課題の一つが、周囲からの意見が遮断される「裸の王様」状態です。どれほど謙虚な人物であっても、立場が上がるにつれて周囲が忖度を始め、耳の痛いフィードバックが届かなくなるのは組織の構造的な必然であるといえます。
したがって、上司が自分自身の振る舞いを客観的に修正するための「鏡」を、人事主導、あるいは組織の仕組みとして意図的に設置していくことが不可欠感じます。
具体的な施策としては、全社的な360度評価の導入はもちろんのこと、より日常的な運用として、各部署内で自発的に行える匿名形式の簡易的なフィードバックアンケートの実施をサポートすることが挙げられます。また、1対1の定期面談である「1on1」の運用において、上司から部下に対して評価を伝えるだけでなく、面談の最後に「今日の面談で話しにくかった部分はなかったか」「自分の指示や態度で、威圧的に感じた瞬間はなかったか」を上司側から質問することをガイドラインとして推奨する一手も考えられます。上司が常に「周囲からのフィードバックを求めている」という姿勢を行動で示し続けることにより、部下側の心理的安全性も高まり、組織内の風通しが劇的に改善される可能性が高まるでしょう。
多角的な視点を提供する社外リソースの活用とサポーティブな環境づくり
さらに、管理職層の視野の狭窄や孤立を防ぐために、社内の利害関係から完全に独立した外部リソースを活用することも有意義な選択肢です。社内の上司や人事には打ち明けにくいマネジメント上の悩みや、自身の振る舞いに対する不安を安心して吐き出せる場として、外部のビジネスコーチやメンターをマッチングする施策が検討できます。
利害関係のない第三者との定期的な対話を通じて、自分自身のマネジメントスタイルを客観的に見つめ直し、無意識のうちに「役職の鎧」を着込んで偉そうな態度になっていないかを振り返る貴重な機会を提供できます。
人事として目指したいのは、管理職を厳しく監視して管理することではなく、彼らが抱える孤独や不安に寄り添い、鎧を脱いでも成果を出せるようなサポーティブな環境を整えることです。誠実さや正直さ、そして周囲を安心させる機嫌の良さをベースとした、メンバーと同じ目線で並走できる次世代のリーダーシップが社内に溢れるよう、中長期的な視点で組織開発の仕組みを構築していきたいところです。

