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隣人

「もしもし、すみません」
数日前から隣人に話しかけてる。隣人はいつも怪訝な声で返事をしてくる。
「何ですか」
「これといって何もないですが」
「何もないなら話しかけてこないでください」
「そうは言ってもね」
暇すぎるのでと言いかけたとき、テレビの電源が勝手についた。電気がきたんだ。よっしゃ。壁の向こうからは子どものはしゃぎ声と喜ぶ女の声が聞こえる。低めの犬の鳴き声も。家族のいるやつはいいよな。
チャンネルを回す。ニュースを見たいがやってないか。時間帯かな。おれが肩を落としたと同時にバツンとテレビの電源も落ちた。クッソ。
隣人に話しかける。
「今、一瞬だけ電気きましたね」
「だから何です」
取りつく島もないな。さすがにムッときて黙った。
火を起こして湯を沸かす。水はある。コーヒーの粉がもうないんだよな。マグカップにいつもの半量だけ粉を入れた。薄いけどまあ白湯よりましだ。

なんとなく違和感がある。ソファに寝そべり壁を眺めて考えた。
ああ、ピンときた。
犬の鳴き声が聞こえないんだ。さっそく声をかける。
「もしもし、すみません」
「なんだ」
弱々しい声が聞こえる。
「わんちゃん元気ですか?」
沈黙。おれがもう一度口を開きかけたとき、「ああ、問題ない」と返事があった。
おれは小さく息を吐く。
「よかった。やっぱり散歩とか行けないと元気なくなるんですね」
言い終えて気付いた。そういや子どもの声も聞こえてこないな。

珍しく隣人から話しかけてきた。
「食料はまだあるか」
「まあ。それなりに」
答えたあとにドスンと部屋が揺れる。何度も壁が強く叩かれた。おれがしばらく亀のように縮こまっていたら音は勝手に止まったが、なんなんだ。
「大丈夫でしたか」
隣人に問いかける。返事はない。

湯を沸かす。そろそろ水がなくなる。白湯を飲みつつ戸棚を開けた。食料もなくなるな。
一応、隣人に声をかける。
「もしもし、すみません」
今日もやっぱり返事はない。おれもそろそろだ。


#拝啓文芸部

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