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【物語ライター】物語の人物風にあなたの"登場シーン"を書いてみる【企画】

もしもあなたが小説の登場人物だったら。
どんな登場シーンとなるのか、どんな描写となるのか?

以前Facebookで募集し、その後電子書籍化した、独断と偏見とインスピレーションのままに100文字で綴った物語をどうぞ。

*…物語の人物風にあなたの"登場シーン"を書いてみる…*


さざめくパーティ会場に、その人はただひとり、供もつけずにやってきた。
赤絨毯を進むその姿がまとう、重厚にして凛とした空気。
場を呑み込む存在感。
ふとその瞳が笑みに和らぐと、一拍置いて場内が歓声で沸き立った。



バースディソングが人々の口を伝い、次から次へと繋がっていく。
おめでとうの連鎖とテーブルを埋め尽くすケーキたちを前に、皆の視線が一点に向く。
長い黒髪をするりと結いあげて、彼女はひまわりのような笑顔を咲かせた。

月の焔がたちのぼり、宵闇に沈んだ森にその姿を突如現す。
絶体絶命の最中、降り立つ存在。
指先に挟まれたカードを見せつけるように示す、その魔術師のにこやかなカオに人々は安堵し、同時にひどく泣きたくなった。

林立する時計塔の鐘が時間でもないのに一斉にその音を響かせ、リンゴンと異変を知らしめる。
街中の警戒と威嚇を一身に浴びながら、霧と煤にけぶる空を見上げ、ふつりとつい笑みを浮かべてしまう。

変革はここから始まるのだ。

不安そうに揺れる老婆の小さな肩を、そっと優しくなでさする手があった。
誰もが視線を逸らし、遠巻きにしている中で、慈しむような眼差しとともに言葉を紡ぎ、寄り添う存在。
正しくありたいという願いを彼女は体現してみせる。

水晶窟の最奥にようやくたどり着けたーーそう思った矢先に足が止まったのは、そこにすでに人が立っていたからだ。
おだやかな笑みを讃える彼女の肩には鳥が、手には意匠を凝らした水晶鏡が。
全てを悟るのにそう時間はかからなかった。

雪羊の群れに溺れかけていたら、突然小気味良く手を打ち鳴らす音が響く。
とたんに雪羊は行儀を取り戻し、左右に割れて道を開ける。
やってきたのは、動物たちと戯れながら歩く黒服の女性。
彼女がその手をこちらに差し伸べてくれた。

闇を引き裂く悲鳴と落雷。
もう何度目ともつかない惨劇の予兆に、誰もが絶望に胸を掻きむしる。
だが、嵐の前より閉ざされたの書斎の扉が突如開かれて。
胡乱な眼差しで嘆息したその人は、無言のまま、指先をついと滑らせ犯人を捕らえた。

花びらと祝福の言葉が降り注ぐ教会の結婚式。
それを眺める少女の視界が、やわらかな手のひらで塞がれた。
『大丈夫、あなたは間違わなかった』
運命を紡ぎ直してくれた存在の、その優しい温度が少女の涙を誘う。

深い深い濃緑色の木々に飲まれた森の奥。
蔦が絡まり水に浸る祭壇に、ひそりと横たわる人ならざる彼女。
その瞳が、ヒトの訪れに開かれることはなく。
眠り続ける森の庇護者に、花を手向けては静かに祈りを捧げられる。

突き抜けるような群青の空に、一瞬、目も心も奪われて。
次の瞬間、軽やかなシャッター音で我に返った。
いつの間にそこにいたのだろう。
ファイダー越しに笑う朗らかさとともに、差し出された言葉が、痛む心に光を射し込む。

寄せては返す波のまにまに、近く遠くうみねこの鳴き声が聞こえる。
緩やかに水平線は太陽が沈み始める頃、彼女はひとり、ここへやってきた。
風に長い髪を遊ばせ、唇に歌を乗せて。
そろりと水際へ足先を浸した。

赤に青に黄色にと、とりどりの風船たちがまるで水玉模様のようにパレードで賑わう街の空を彩る。
「あのひとつひとつに、だれかの想い出が詰まっているんです」
微笑むその人の手から、またひとつ風船が生まれ、空へと飛んだ。

やわらかな春の風が庭園の花たちを撫でていく。
子供たちの無邪気な声が弾ける中、焼き菓子を並べたトレイとともに、主催の彼女がやってくる。
陽だまりのような笑みとともに供される甘やかな優しさが心地よい。

白いレースのカーテンが揺れるティールームで、互いに頬を寄せ合い笑いあう女性たち。
その輪の中、華やかな笑みを湛えた彼女は、友人たちへ向けて別れの言葉を紡ぐ。
これまでとこれからのために、これは必要な時間だと告げて。

見知らぬ街の見知らぬ場所を夕日が染め上げていく。
どうしようもなく寂寥感に立ち尽くす迷子の前に、ふと影が差す。
逆光の中、捉えた差し伸べられた手と穏やかな笑み。
それが未来の自分だと、気づかぬままにその手を握った。

まるで森の木々のごとく立ち並ぶガラスケースにはぎっしりと、小鳥や花たちの見る夢が宝石となって納められている。
郷愁に駆られたその時。
夢と同じほどに甘やかな香りをまとい、夢守りの彼女がガラスの向こうから微笑みかけてきた。

点と点をつなぐ、記憶と記憶をつなぐ、人と人をつなぐ。
夜空に鮮やか光の糸が走り、繊細な紋様を描き出していく。
柔らかな髪を靡かせ、時の針を操り、空を舞う姿を目にした者たちは、誰もが自身の胸に手を当て涙した。

所狭しと積み上げられ、場を埋め尽くす黒い箱、函、匣。
不安定ながらも崩れぬその前で途方に暮れれば、ふいと視界が拓けた。
安心感があふれる笑顔で、その人は軽やかに箱を整理し、光を取り込む。
この人は、自分を見つけてくれた。

伸びやかな歌に誘われて、思わず足を止めた。
太陽のように、あるいは青空のように、眩しい笑顔を振りまいて、海の見える公園で両手を広げる彼女に、今度は視線が釘付けになる。
沈んだ心が不意に弾んで、思わず一緒に歌を口ずさむ。

この町は、魂を呑み込む狂気の純白に染まったと聴いた。
だが、どうしたことだ。
生物の棲めない禁忌に堕ちたはずのそこに色が溢れている。
花に緑に動物たちにと、命の素となる色が絵筆を操るたった1人の女性によって描き出されていた。

極北の雪原で、どれほどこの時を待っていたのか。
カメラを構え、待機して。
いざその瞬間を捉えれば、瞬きも呼吸も忘れた。
波打つ髪に光を遊ばせ、オーロラカーテンの合間を踊る彼女の姿に、祝福の笑みを確かに見た。

肌を灼くほどに苛烈な害意が森に満ちる。
村から逃げてきた幼い兄妹に、森の意思が牙を向いたその瞬間。
ソレは無惨に引き裂かれ、塵と化す。
自分たちを背に庇い凛と立つ、かの人の黒く長い爪へと、兄妹はこの時確かに救いを見ていた。



マジックアワーの空を背景に、ガラスの壁に描き出されているのは、ひどく透明感のある花火を模した植物たち。
そんな景色の中、目を細めて佇む彼女からは、シャララと耳に心地よい音楽があふれていて。
魂が少し揺れたのを感じた。

土塊に埋もれ忘れ去られていた《輝きのカケラ》たちが、再び意味と意志を持って瞬き始める。
それは、彼女の存在ゆえ。
いつのまにか佇んでいた彼女が奏でる星々のオルゴール。
その音色が、歪む魂の目覚めを促していた。

駒鳥が切なげに泣いている。
その胸に抱くターコイズの卵はすべて割れ、割れたそこから災いの闇があふれ出す。
咎人を苛み呑まれる駒鳥の痛みに、けれど寄り添うものが現れた。
穏やかな言葉で抱き寄せて、卵に時戻しの魔法をかける。

祭りの夜、ランタンに月光のカケラを灯すのが慣わしだ。
けれど集められなかった子供はひとり、森の入り口で立ちすくむ。
落ちたその横顔に、すいと光が差し出された。
驚く子供に笑いかけたのが月の魔女だと、その時は知るよしもなく。



迷いながらも決意を胸に、扉をノックする。
歓迎の声ともに、目に飛び込んでくるのは明るい花々と楽しげな声にあふれるお茶会の席。
迎えてくれた彼女は、深く柔らかな瞳に強く惹きつけるような光を灯し、私の一歩踏み出す力をくれた。

必要とする者の前に現れるというこの宿で、嫋やかな佇まいの女将が自ら食事を供してくれた。
添えられた花のような笑顔に、鼻先をくすぐる、ほこほことあたたかな香り。
泣きたくなるほどの優しさを噛み締め、まだ生きようとそう思えた。

月の囁き、海の誘い、花の歌声、風の導き。
優しい指先が、まるでピアノを奏でるように、この素敵な存在をガラス細工の箱庭にそっと収めていく。
これがあなたの可能性だと、そっと箱庭を差し出す彼女の声が心地よく揺れる。

空に星と鯨が踊る夜。
窓枠で切り取られた景色の中に、きゅるりと弧を描いて影が飛び込んできた。
明るく楽しく伸びやかに、猫のように目を輝かせて鯨と跳ねる彼女から目が離せなくなる。
そこへいきたいと、願うほどに心惹かれた。

ふわりと花がほころぶように、届いた絵画に心を優しく満たす。
ほろりと涙がこぼれるように、触れた優しい人々の温もりを抱きしめる。
歌をつなぐように人と繋がりながら、彼女は笑顔で幸せの色を差し出し見せてくれた。

好きと告げ、愛してると囁いて、彼女は彼女の唯一の神に惜しみなくすべてを捧げる。
神狼の森でただひとり、献身の名の下に生きる姿はいっそ眩しいほどに好ましく。
村人は、自身を忘れがちな彼女のために料理を社に供えるのだといった。

見上げた空から、天使の梯子が降りてくる。
それは山岳に差し込まれたが、驚くことに、その梯子を伝い、この地へ渡る存在を見た。
霊獣とともにゆるゆると、まるで散歩のような気安さで光の中を進む姿は楽しげで。
誰もが頬を緩めていた。

裏庭がやけに賑やかしい。
窓から覗くが人影はなく、降り立ってみれば、不意に視界を横切る小さな影。
とっさに伸ばした手が捉えたのは、青や白や橙のフードを纏う小人たち。
いつから家は御伽の国になったのか。
首を傾げ、見つめ合う。

呼ばれた気がして、天を振り仰ぐ。
緑柱石に月光石を重ねた空模様が、もうじき時渡鳥の一団がくるのだと伝えていた。
空を海に、海を森に、森を空に衣替えする季節の訪れ。
その支度を頼まれたのだと、手の中に顕れた鍵で気づかされる。

静謐の森の奥深く、鏡の樹々に実る翠玉や蒼玉たちが、この世ならざる音色を奏でる。
迷えるものがやってきた。
囁く声に、主人たる彼女は頷き、応える。
森の光を纏った彼女の吐息は誘いと導の蝶へと変わり、来訪者に向かって羽ばたいた。

水銀色の雫を滴らせた月が燃え上がり、漆黒の空の中でゆるりと溶けていく。
そこはするりと手を伸ばす女性。
夜を纏う彼女は受けた雫をガラスの小瓶に閉じ込めて、コレは終末の楽園へ届けるのだと、内緒話のようにそう囁いた。

そっと手を握り、瞳の奥に潜む心へ言葉を届ける。
丁寧に心を重ねていく。
やがて彼女の重く澱んだ内側から、想いが、記憶が、過去が、小さな花びらとなってあふれ出して。
軽やかに変じていくその姿へ、祝福の光の訪れを確信した。

泉にあつらえた祭壇へと続くのは、敷き詰められた紫水晶。
夜を模した髪をなびかせ、巫女がその上を進む。
今宵運命を告げるのは、星の羅針盤か、焔の鏡か。
期待に満ちた視線の最中、口元に刷いた彼女の微笑は危ういほどに鮮烈だった。

そこに咲きほこるのは、瑠璃の芍薬、紅玉の牡丹、翡翠の百合に金銀の薔薇たち。
純然たる光の庭で、無色透明な闇をも迎え入れた彼女が優美に茶会の席を開く。
その唇が紡ぐ言の葉の音色に、いつしか魂までも引きこまれていた。

純真無垢な空間には木製の椅子が無秩序に、けれど確かに心を内包し、淡々と置かれている。
天色をした彼女はひとり、涼やかに凛とした仕草で椅子の間を巡っていく。
触れた先から閉じ込められた心は己を取り戻し、色を持って舞い上がった。

ビビットカラーのブロックが一瞬で広場を埋めつくし、次いで人形たちが次々と幻夢を具現化する。
指揮をするのは、鮮赤のドレスを纏う荊の女王だ。
あふれる熱情の赴くまま、惜しみなく注ぐ魔力とともに、唯一無二の世界は建国される。

草原の魔女が杖をかざした瞬間、見渡す限りに広がる紺碧の野に突如扉が生えた。
生まれたての白い扉は、蒼の世界で銀光を帯びて揺らぐ。
どこでもなくどこでもある場所へ。
誘いと繫がりを識る魔女は、嬉々として扉の向こうへ飛び込んだ。

神の社へ続く玉砂利が、カラコロシャランと聞いたことのない愛らしい音を立てる。
思わず振り返った人々は、そこに、光の狼やリス、鹿を引き連れた彼女を視る。
祝いと慈しみを称え、淡いの風と戯れ、彼女はしずと鳥居を潜っていった。

緑と青に囲まれた砦から。
彼女は今日も、めいいっぱいの想いを込めて、朝日を反射して遊色にきらめく海の向こう側へ声を届ける。
音の魔女たる彼女の言葉は、時を超え、距離を超え、風になって受け取るべきものの元へ飛び立っていった。

神の道が開かれる夜。
招ばれ、引き合い、海の泡から顕れた彼女は、ほこりと和らぐ空気をまとい、光の道をゆるりと進む。
海から続く真珠の森へ。
そうして、優雅に木々の合間を泳ぐ透明な魚たちとともに、彼女は島へ癒しをもたらすのだ。

星の欠片がさざめく宵の間で、天から地へ流れ落ちる時の砂を彼女は掌に掬い取る。
砂粒は蕩けてひとつの像を結び、過去を、未来を、可能性を告げる。
月の瞳を持つかの主人は、そこに汲むべき想いを詠むと、そっと優しくカードに綴じた。

ここはどこなのか。
好き勝手な場所を指す矢印看板の前で途方に暮れる旅人の前に、すいっと手が差し出された。
案内を買って出る彼女は明るい笑顔をあふれさせ、よく通る声で一言。
それだけで、看板が一斉にひとつの方向へ揃うのを見た。



ふわふわと優しいピンクのレースで彩られた花束を抱き、子供たちの無邪気な声を受けて。
彼女は聖堂からゆるりと笑みを湛えながら長い階段を降りてくる。
癒しと愛の言葉がその唇からもたらされるのを、子供は確かな信頼で待ち望む。

コンサート会場から外に出ると、思いのほかしとやかに雨が降っていた。
悔いはないと、心が頷く。
けぶる景色の美しさにほうっと溜息をついて、そうして、傘のないままに次のステップへ向けて足を踏み出した。

長く続いた銀の雨があがる。
透明度を増した薄氷色の空の上に、ひとつ、またひとつと、虹がかかっていく。
ーー彼女がくる。
祈るように見上げる人々の頭上より、いままさに、水晶の鐘の音を引き連れて、光の衣を纏う彼女が降り立った。

森を背にしたその神社には、くぐる者の運命によって色を変える鳥居があるという。
半信半疑で足を運び、そして、目を見張る。
先客であった彼女は、凛とした視線で空を仰ぎ、祈るではなく覚悟によって踏み出して。
噂の真実を知らしめた。



歓声が上がり、楽しげな歌が弾け、久方ぶりにやってきた祭りの時間に誰もからもが浮き足立った。
待ってた、会いたかった、良かった、好きだよ。
あふれんばかりの言葉と想いをもって、彼女は、輪の中心で人と人を繋いでいた。

机上に山積みとなった課題を前にベシャリとつぶれる同僚たち。
いっそ意識を手放したいと願う地獄絵図の最中、不意に清浄な空気が流れ込んでくる。
場の流れが変わり、淀みが晴れる。
圧倒的な安心と包容をもって、彼女が笑顔で帰還した。

まるで両翼を広げるように、心の内から外へと想いが大きく伸びあがっていく。
驚く変化は、彼女がもたらしてくれたもの。
たったいま縮こまった心を解放してくれた彼女の笑みは、哀しいくらいに優しくて、切ないくらいに力強かった。

誘われるまま鏡の間を覗き込んだ瞬間、息を呑む。
吸い込まれるような大きくまっすぐな瞳、キュッと引き上げられた艶のある唇、透明感のある佇まい。
なりたい自分になりたいと、そう願う私の心が映すその姿に、スッと胸を貫かれた。

不意のチャイムに、ハッと目を覚ます。
リビングに差し込む陽光は既に無く、部屋は夜に沈んでいた。
こんな時間に、と頭の片隅で思いながら夢現のままに玄関へ向かう。
無防備にドアを開けると、そこには月光華の匣が置かれていた。

宵闇に捧げられた神楽の舞に、赤い紅い緋い焔が弧を描き燃えあがった。
祀り神から賜るソレへと、白装束の彼女がすいと歩み寄る。
たおやかな白い指先が、赤と紅と緋の輪郭をなぞり。
優美なその動きの中で、焔は宝玉へと姿を変えた。

窓を開けると、金木犀の花の香りを乗せた風がふわりと頬を撫で。
ひらりと手のひらに、一枚のカードを残して去っていく。
そこに言葉はないけれど、綴るべき想いと文字は伝わるから。
だからそっと笑みを浮かべ、私は筆を手に取った。

もうどれほど歩いたのだろう。
遠くから呼び戻そうとする声には耳も貸さず、意識を現世から切り離し、幻惑の森を進む。
求めるのは、青銀の翅の蝶。
淡く燐光を纏うソレが導くその先に、魂を捧げるべき方がいると識っていた。

剣を打ち合い激しさを増す金属音と、舞い散る水飛沫。
揺れる枝葉の合間から、飛び出すひとつの影。
追いすがり、しかし躱され、無様に落ちる黒装束を樹上から艶然と見下ろすと。
彼女はその肢体をしならせ、大きく崖へと跳躍してみせた。

憧れて、求めて、掴めなくて、落ち込んで。
苦くよろめいていたところに、優しい声がかかる。
縋るように顔をあげれば、包み込むほどに柔らかな笑みの彼女がいた。
望みを諦めずともいいと、叶え方次第と告げる、その言葉に救われる。

誘われるように足を踏み入れた境内には、数多の紺碧なる蓮が静謐な光を孕み、世界を照らしていた。
竦む足、震える我が身を前に、かの方は夜を映した視線を流し、振り返る。
その双眸こそが、己が辿る運命の線をなぞりゆくのだと気づく。

呪符を織り込んだしめ縄が木々の間に張り巡らされ、禁足が絶対戒律と化した領域。
ただ彼女だけが、ひとり浄化に踏み込んでいく。
神と呪域により千変万化するその真姿は誰も知らず、ただ怜悧な佇まいだけが見るものの記憶に刻まれる。

突如、漆黒に塗りつぶされていた空間に光の線が交差する。
ソレは意思を持ち、すべてを呑み込む闇の中に色鮮やかな軌跡を描く。
目を見張る私の前で、光を操る彼の背が浮かび上がり。
肩越しに振り返る、その目が私の魂を直に捉えた。



天然木のキャビネットに飾った写真たてを、そっと指先でなぞる。
唇からこぼれるのは愛しさ。
切り取られ収められているのは、故郷から遠く離れた異国での時間。
大切な人に会うために訪れたあの場所が、ずっと私を呼んでいる。

彼女が目の前に差し出したカードに触れた瞬間、それまであった景色がぶわりと形を変えた。
木の上で踊る子供、コーヒーカップから生まれる雲、虹の空を泳ぐ魚たち。
心が解放されていく感覚に驚く私へ、慈しみと共に彼女は微笑んだ。

ふと不思議な香りがして振り返ったら、そこにはカメラを構えた背の高い男の人がいた。
彼は、空に、街に、ビルに、花にレンズを向ける。
その景色に中に笑む人がいる。
相手を捉えてシャッターを切るその人から、また楽しげな香りがあふれた。

窓を開けて、挨拶をかわす。
扉を開けて、ひとを招く。
森に佇むこの家の主人である彼女は、人と人を繋ぎ、新しい世界と新しい出来事を結ぶ手伝いをしているという。
快活な笑顔で告げられたその言葉に、こちらもつい誘われてしまった。

差し込む夕日によって赤く焼けた王立図書館のラウンジを、ゆるりと巡回する漆黒の司書。
流れるような所作で、白手袋を嵌めた指が蔵書たちの背を撫でていく。
彼女がこれから選ぶ本こそが明日起こる事件を予知するのだと知るものは少ない。

かつて白く殺風景だった部屋の中はいま、色も柄も鮮やかな布たちで埋め尽くされ、さながら森のようだ。
そこで少し待っていて。
戸惑うこちらへ声がかかる。
願いを形にすると言う、布の魔女が布の森からひょいと顔をのぞかせ笑った。

突き抜ける青空に、寄せて返す海の波。
歓声をあげて駆け回る子供たちに、ほうっと息をつき、視線を巡らせる。
傷ついた子供たちを集め、守り、長い旅を続けた果て。
辿り着いたここを安息の地へと変えるために、まずは何から始めようか。

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