原書で読むゲーム・オブ・スローンズ、600ページ耐えたら手が止まらなくなった<ネタバレあり>
中世ヨーロッパ風の架空の大陸「ウェスタロス」を中心に、複数の貴族家が鉄の玉座を巡って権力争いを繰り広げるお話、それがゲーム・オブ・スローンズ。ドラマも大ヒットし、ブレイキングバッドと並んで2010年代を代表するアメリカのドラマになった。小説は全7巻になる予定で現在5巻まで出版されているが、作者の筆が非常に遅く、おそらく完結しないだろうと言われている。
本作の特徴(挫折しやすい理由)
まず本作の特徴として、登場人物や地名の多さゆえのとっつきにくさが挙げられる。次々と新キャラが現れ、特に詳細な説明もないので誰が誰かわからなくなりやすい。また1巻では主要キャラクター8人が次々と入れ替わりながらストーリーが展開していく。一つの章が終わると、次に登場するのは100ページ後になったりするので、何の話をしていたか忘れがちになる。
ページ数も、私が購入したバージョンで800ページ以上あり、例えるならばハリーポッターがいきなり『不死鳥の騎士団』から始まるぐらい、悪くいうと不親切で最初のハードルが高い。
単語は城や中世の鎧や剣に関する語彙が頻出し、見慣れない単語も多く、世界観も含めて慣れるまで500ページほどかかった。ドラマ版もそうだったが、世界観を広げている段階ではそれほど大きいイベントがあるわけではないので、最初の難しい、わからない時間をいかに耐えられるかが本作を読む上で重要になる。
最初は何度も「ゲームオブスローンズ つまらない」とか「ゲームオブスローンズ 飽きた」と検索していたが、「マーティン先生の、この素晴らしい作品を理解できないのは自分が悪い」と自分に言い聞かせることで乗り切った。そして600ページを過ぎた頃から物語が急激に動き出し、面白くなってくるのである。
魅力
登場人物全員が本当に生きているような臨場感がある。みんな何かしらのつらい境遇や劣等感を抱いているが、時代のうねりに飲み込まれながらも、もがきながら歩んでいく。
勧善懲悪のストーリーなら最終的には努力がよい結果につながることが多いが、本作の場合は全く先が読めない。罪のない人も運が悪ければ殺されるし、重要人物でも普通に死ぬ。このカオスさが物語をより緊迫した体験にしている。また、重要人物が死ぬ場面では、著者マーティンの描写が暗示的で、「kill」や「slay」のような単語を避けて死を表現している。
例えば、ドスラキ族の王のカール・ドロゴが紆余曲折あって植物状態になる。そこで妻のデナーリスが彼の最期を看取るのだが、その時の描写が
She knelt, kissed Drogo on the lips, and pressed the cushion down across his face.
で、「窒息死させた」とは書かずに「クッションを彼の顔に押し当てた」と表現している。蛮行の限りを尽くすドスラキ族。その王の最期がこんなに静かに終わるのか、そして最後の章で覚醒し、ドラゴンの母としての人生を歩み始めるデナーリス。この一文は、その対比というか、まさにデナーリスの物語にとってクッションのような一文になっていると感じた。この本には残虐な描写が多いのだが、あえて間接的な表現を用いることで、その一瞬だけ時が止まったような感覚になる。そしてその刹那が美しく、それだけでも原書を読む価値があったと思わせてくれる。
各家の家訓もカッコよくてついつい口ずさんでしまう。個人的にはラニスター家の「Hear Me Roar(我が咆哮を聞け)」が好きだ。私も少し考えてみたが、「Back pain(腰痛い)」ぐらいしか出てこなかった。
登場人物の成長という意味では、キャトリン・スタークも印象的だ。1巻では読んでいてキツい場面も多いキャラクターだが、2巻では親離れしようとする息子のロブと、「もう私は必要とされていないのね」と心のなかで葛藤するキャトリンの関係が面白い。ロブはウィンターフェルの王になったけど、キャトリンにとってはまだ15歳の息子なのだ。こういった人間的な葛藤が、本作を単なる権力争いの物語に留まらせない。
個人的にもっとも衝撃を受けたのが、主要キャラの一人であるエダード・スタークの処刑シーンだ。昔ドラマをシーズン3ぐらいまでは観たので、彼が反逆罪で首を落とされるのは知っていた。小説版の凄いところは、彼の処刑がエダード自身の章ではなく、別のキャラクターの章で描かれることだ。他のキャラの視点で俯瞰的に見ることで、実際に自分もその場に居合わせたかのような臨場感があった。ここはぜひ読んで頂きたいので詳細は語らないが、こんな表現方法があるのかと衝撃を受けた。その描写はとても暴力的で、そしてとても静かで、どこか美しさすら感じてしまう。
最初の600ページはしんどい時間も多かったが、残り200ページを切るとページをめくる手が止まらなくなる。
読み切るヒント
細部まで理解して読み切れたとはとても言えないが、最後までページをめくるためのヒントを3つ挙げると
デナーリスの章だけ先に全部読む
地名や名前はほとんど覚えなくていい
オーディブルを使う
1. デナーリスは唯一、他の主要キャラたちと直接絡むことがないので、先にデナーリスの章だけまとめて読んでしまうと、本全体の分量を約110ページ分短縮できる。
2. 理想は家系図、登場人物、地名を全て覚えることだが、ハードルが高すぎて余裕で挫折すると思う。ウィンターフェルが地図の北にあって、王都キングスランディングが地図の真ん中あたりにあることだけ覚えておけば大丈夫。
3. 登場人物が多いので、会話文でIが頻出すると誰のIか分からなくなる。オーディブルを使って声で判別しやすくしておくと多少楽になる。1巻を読み切るのに1倍速で34時間近くかかるので、よほど我慢強い人以外は再生速度を上げたほうがいいかもしれない。
おわりに
正直、途中までは何度も読むのをやめようと思った。それでも読み続けてよかったと、今は思う。完璧に理解できたわけでも、全ての登場人物を把握できたわけでもない。それでもあの処刑シーンの静けさと、ページをめくる手が止まらなくなったあの感覚は、他の本では味わえないものだった。しんどい序盤を乗り越えた先に、確実に得られる体験がある。2巻の A Clash of Kings もどうなっていくかが楽しみだ。
