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もし地震で工場が2か月止まったら、あなたの会社はいくら損しますか。

表題の質問に、金額で答えられるでしょうか。

多くの企業が「大変なことになる」「考えたくない」で終わってしまうのではないかと思いますし、正確な金額は起こってみないとわからないので致し方ないのかもしれません。

ただ、金額が出ないうちはBCP(事業継続計画)を作る気にはなれないと思います。いくら損をするか分からないものに、対策費は出せません。私が逆の立場でもそうです。

そこで今回は、実際に被災した会社がいくら失ったのかを書きます。取り上げるのは新潟、石川、福島の会社です。


「規模が小さいから被害も小さい」は成り立ちません

現場でよく伺うのが、これです。

「うちのような小さい会社は、被害もたかが知れているでしょう」

そうはなりません。

2016年の熊本地震で被災した中小企業が、実際にいくら分の資産を失ったか。中小企業白書に載っている調査結果です。

・1,000万円以上を失った会社が、2社に1社
・3,000万円以上を失った会社が、3社に1社
・1億円以上を失った会社が、8社に1社

回答した会社の約半数は、従業員1〜4人の会社です。大企業の数字ではありません。

壊れるのは建物と機械であって、売上ではないからです。年商5,000万円の会社でも、工場と機械があれば1億円分が壊れます。


損失は3つに分かれます

地震の損失は、性質のちがう3つに分かれます。ここを一緒くたにすると金額が見えなくなります。

① 壊れた資産を直す費用

建物、機械、在庫。修理や買い直しにかかるお金です。補助金の対象になります。

② 止まっている間に出ていく費用

工場が止まっても給与は払います。家賃も、リース料も、借入金の返済も止まりません。売上はゼロなのに資金だけ出ていく。その差額です。

補助金は出ません。

③ 戻ってこない取引先

止まっている間に他社へ切り替えられます。再開しても発注は戻りません。

これも補助金は出ません。

家計に置き換えると、①は自宅が壊れて修理代がかかること、②はその間に出勤できず給与が入らないのに家賃と食費は出ていくこと、③は休んでいる間に自分の担当が他の人に移ってしまうことです。

行き詰まるのは①ではなく、②と③です。


止まっている間に消える金額

②を年商別に出しました。粗利率50%、つまり売上の半分が利益として残るという前提です。

・年商1億円 8日で111万円、2か月で833万円
・年商2億円 8日で222万円、2か月で1,667万円
・年商3億円 8日で333万円、2か月で2,500万円
・年商5億円 8日で556万円、2か月で4,167万円

ご自身の年商に近いところをご覧ください。

年商3億円なら、8日で再開できれば333万円、2か月止まれば2,500万円。差は2,167万円です


取引先は戻ってきません

中小企業白書の調査です。

工場が1か月止まると、3社に1社が取引先を減らしています。半年止まると3社に2社。

そして減らした会社の4社に1社は、調査の時点でも売上が元の水準に戻っていません。

製造業はこれがきついです。東日本大震災で被災した製造業は、1年経った時点でも1社あたり月262万円の減収が続いていました。全業種の平均は127万円ですから、倍です。

納入が止まれば、取引先は別のところに頼みます。工場が再開しても、その発注は戻ってきません。


補助金は後払いです

設備や建物の復旧には補助金が使えます。補助率は4分の3。制度としては手厚いほうです。

ただ、お金の流れがこうなっています。

発災 → 罹災証明 → 計画の認定 → 交付申請 → 交付決定
→ 発注 → 工事 → 完了 → 実績報告 → 検査 → 精算払い(ここで入金)

先に全額を自社で立て替えます。

3,000万円の復旧なら、まず3,000万円を用意して、工事を終えて、報告して、検査を受けて、そのあとに2,250万円が戻ってきます。

能登半島地震では、2024年1月1日の発災から第1回の交付決定まで約3か月かかりました。そして2026年8月の今も、毎月70件前後のペースで交付決定が続いています。2年半経っても、まだ終わっていません。


再開までの日数は、3日から3か月まで開きました

ここからは実際に被災した会社の記録です。国が公表している資料から4社を紹介します。

3日で再開(新潟県・従業員175名)

新潟県中越地震。工場は倒壊せず、製造機械がずれ、天井の配管から漏れた水がパソコンにかかった程度の被害でした。

地震の3日後に製造を再開しています。製造機械の一部を自社で設計・製作していたので、自分たちで直せました。

ただ、自動倉庫が傾いて動かなくなり、出荷が止まりました。作れることと出せることは別だった、ということです。

8日で再開(石川県中能登町・従業員85名)

能登半島地震、震度6弱。

被害を確認したあと、この会社は復旧作業をあえて1週間後に設定しました。余震が続いていて、家族を心配している従業員が多かったからです。

その休みの間に、現場をよく知る取締役が復旧の手順書を作りました。

1月7日、実際の復旧作業は1日で終わり、翌8日から操業しています。

休んでいた6日間は段取りの時間でした。

14日で再開(石川県輪島市の工場・従業員4名)

能登半島地震、震度6強。本社は愛知県安城市にある会社です。

輪島の工場は従業員4名。棚が倒れ、外壁が壊れて、その工場はもう使えなくなりました。

助かった点が2つあります。ひとつは1〜2日分の製品在庫を常に持っていたこと。おかげで停止中も納品が途切れませんでした。

もうひとつは、現地の4名が自分たちで代わりの工場を見つけて、その日のうちに契約したこと。普段から現場に判断を任せていたそうです。

発災から14日後、仮工場で再開しました。

3か月かかった(福島県須賀川市・震度6強)

東日本大震災です。ここは規模が違います。

本社工場の約3分の2が倒壊。火災でコンピューターが全焼し、図面も受発注の記録も消えました。被害総額は約20億円です。

6km離れた遊休工場を借りることにしたものの、運送業者が確保できませんでした。地元の業者はがれきの運搬で手一杯だったからです。

そこで出勤できる従業員でチームを組み、余震の続くなか、機械約300台を1台ずつ運び出しています。

3か月で生産は再開しました。工場を元の場所に建て直せたのは約2年後。原子力発電所の事故による風評被害で、売上は3割減っています。

4社を並べて分かること

日数を分けたのは被害額ではありませんでした。

代わりに使える場所があったか。手順が決まっていたか。自社で直せたか。在庫があったか。この4つです。


ご自身の地域の想定を、一度ご覧ください

ここまでは全国の話です。地域の想定をどう読むか、私の活動地域である愛知県を例に書きます。

2026年6月2日、愛知県が南海トラフ地震の新しい被害想定を公表しました。

震度6強以上と想定されているのは26市町村。愛知県は全部で54市町村ですので、ちょうど半分です。

経済的な損失については、工場や店舗が止まることによる損失が県全体で3兆4,000億円、そのうち製造業だけで1兆3,100億円と見込まれています。全体の約4割、2番目に多いサービス業の倍です。県内でいちばん損失が大きい業種は製造業だと、県自身が想定しているわけです。

同じような資料は各都道府県が出しています。「(都道府県名) 地震 被害想定」で検索すれば見つかります。

見ていただきたいのは2つだけです。自社の所在地が震度いくつか。自社の業種の損失がいくらと見込まれているか。

これを知ると、地震が「いつか起きるかもしれないこと」から「自社に起きること」に変わります。


何から始めればよいか

先に手をつけていただきたいのは、自社の建物・機械・在庫が今いくらするかを書き出すことです。

帳簿の金額ではありません。

減価償却が終わって帳簿上は1円になっている機械でも、同じものをもう一度買えば1,000万円かかります。地震で壊れたときに要るのは、1円ではなく1,000万円のほうです。

帳簿で考えると、被害額を何十分の一にも見誤ります。

実際に書き出してみると、多くの社長が「思っていたより桁が大きい」とおっしゃいます。


分散した先が、先に被災した

最後にもう1社。

愛知県安城市に、金属の熱処理をしている会社があります。

この会社は南海トラフ地震のリスクを分散するために、石川県に新しい工場を建てました。2021年に動き出したばかりの工場です。

その工場が、2024年1月に震度7を記録しました。

機械はアンカーボルトで固定してありました。それでもアンカーが抜けています。現地での早期再開は諦め、愛知の本社工場で代わりに生産することにしました。

ここで壁になったのは、建物でも機械でもなく、取引先の認証でした。

熱処理の業界では、取引先が製造ラインごとに認証を出しています。被災したラインの代わりに別のラインで作るには、認証を取り直さなければなりません。半年以上かかることも珍しくないそうです。

この会社は取引先(海外の企業でした)に事情を説明して、数日で許可をもらっています。社長は「極めて異例のこと」と言っています。

許可が下りた理由として挙げているのが、平時から本社工場に何度も視察に来てもらい、信頼関係を作っていたことでした。

拠点を分けるのも機械を固定するのも、正しい対策です。私も勧めます。

ただ、分散した先が先に被災することもありますし、固定していてもアンカーは抜けます。

最後にものを言ったのは書類ではなく、普段からの取引先とのつきあいでした。

BCPは作って棚に置く書類ではない、という話だと思っています。日ごろの取引先訪問、在庫の持ち方、現場への任せ方。そういう平時の仕事のほうが効きます。


自社の場合はいくらになるのか。気になった方は、建物・機械・在庫の「今の値段」を書き出すところから始めてみてください。

ご相談も承っております。


本記事で使用したデータの出典

  • 愛知県「南海トラフ地震被害予測調査結果」(2026年6月2日公表)

  • 中小企業庁「2019年版 中小企業白書」

  • 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」

  • 日本政策金融公庫総合研究所「中小企業における自然災害の被害と備えの実態」(2021年5月)

  • 日本政策金融公庫総合研究所「被災経験をばねに進化する中小企業」(2025年6月)

  • 中部経済産業局「企業の復旧事例集 〜令和6年能登半島地震の実例から学ぶ〜」(2025年3月)

  • 石川県「なりわい再建支援補助金の交付決定について」

※金額の試算は、粗利率50%など一定の前提を置いた概算です。実際の被害額は、地盤・建築年・構造・立地によって大きく変わります。

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