🎧針を落とせば、いつかの風景 Pt. 48〜ルー・リードの置き手紙『ローデッド』
ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンド 『ローデッド』 (1970年)
もっとポップに、もっと自由に
アミ「このジャケット、いつも気になってたんです。地下鉄の“Loaded”って、どういう意味なんですか?」
カズヒコ「“Loaded with hits”って意味もかけてるらしいよ。つまり“ヒット曲満載”。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが、ある意味、いちばん“売れること”を意識したアルバムだったんだな。」
ユキヒロ「レコード会社の要請があったんだよ。もっとラジオでかかるような曲を、って。ルー・リードも、だから敢えてポップな方向へ振り切った。“Sweet Jane”と“Rock & Roll”の2曲を聴けば、それがよく分かる。」
アミ「あれ? あの“ロックンロールって音楽が人生を変えてくれた”って歌詞の曲、これだったんですか?」
カズヒコ「そう。アミちゃんの好きな言葉が詰まってるアルバムだよ。」
ユキヒロ「ただ、皮肉なのは、アルバムの完成前にルー・リードがバンドを脱退してるってこと。クレジット上は在籍してるけど、実質的にはもう不在だった。でも、彼の痕跡は濃い。あの独特な語り口とメロディラインは、ルーにしか書けない。」
アミ「それって……いわば“置き手紙”みたいなアルバムなんですね。」
カズヒコ「うまいこと言うな。地下室から階段を上って、表通りに出ていく感じだ。『ローデッド』ってタイトルは、ただの“積荷”じゃなくて、いろんな意味が詰まってる気がする。」

地上に出たヴェルヴェット
ユキヒロ「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドっていうと、初期のノイズっぽい実験精神とか、アンディ・ウォーホルとの絡みが有名だけど、このアルバムではもう少し“人間くささ”が前に出てきてる。」
アミ「“I Found a Reason”とか、すごく優しい曲ですよね。“君を見つけた理由が、いま分かった”って……まるでラブレターみたい。」
カズヒコ「うん。でもどこか孤独で、諦めも混じってる。そういう複雑な情感をルー・リードはうまく歌にするんだ。」
ユキヒロ「ちなみに、このアルバムにはモーリン・タッカー(女性ドラマー)は参加していない。体調不良で休養中だったんだけど、彼女のいないヴェルヴェットはやっぱりちょっと雰囲気が違う。軽やかで、どこか都会的なんだ。」
アミ「でも、それが逆に聴きやすくて、わたしにはちょうどいいかも……。この前マスターが貸してくれた1stの“ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート”は、ちょっと頭がグラグラしました……」
カズヒコ「そりゃ強烈だからな(笑)。でも『ローデッド』は、朝でも夜でもかけられる。名刺代わりの一枚としておすすめできるヴェルヴェットって、実はこれかもしれないな。」
ユキヒロ「地下で生まれて、地上で消えていったバンド。その終わり際に放った、光のような作品。そこが美しいんだよな。」
アミ「“終わり際の光”……いいですね、それ。ちょっと版画にしたい気分です。」
次回作・・・
■登場人物
カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。
アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。
ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。
※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
