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🎧針を落とせば、いつかの風景 Pt. 62〜フリートウッド・マックと聖なる鳥の行方

ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。


フリートウッド・マック 『聖なる鳥(The Pious Bird of Good Omen)』(1969年)


ブルースの翼を広げて

アミ「マスター、今日のレコードはこれですか? 『聖なる鳥』って、不思議なタイトルですね。」
カズヒコ「これはフリートウッド・マックのコンピレーション・アルバムだよ。原題は『The Pious Bird of Good Omen』。直訳すると“良い前兆を運ぶ敬虔な鳥”って意味だな。1969年にリリースされたんだ。」
ユキヒロ「ブルース・ロックとして出発したフリートウッド・マックの初期の代表曲を集めた一枚だ。ピーター・グリーンがバンドの中心だった時代の空気が詰まってる。」
アミ「ピーター・グリーンって名前、最近よく聞きます。そんなにすごい人なんですか?」
カズヒコ「技巧派というより、“泣きのギター”って呼ばれるほど感情表現に長けてた。」
ユキヒロ「マックと言えば『Albatross』だな。これが入ってるのも大きい。この曲のおかげで彼らは一躍有名になった。」
アミ「『Albatross』って、インストですよね? 静かで、波の音みたいなギター……この前マスターがかけてました。」
カズヒコ「そうそう。1968年にUKチャート1位を取った。あのゆらゆらした浮遊感は、他のブルースバンドにはなかった個性だな。」
ユキヒロ「それだけじゃない。『Black Magic Woman』も入ってる。後にサンタナがカバーして世界的に知られるようになったけど、あの原曲はグリーンの作。サンタナのバージョンと聴き比べると面白いよ。」

若きブルースマンの夢と翳り

アミ「ブルースってもっと重たくて渋いイメージだったけど、マックの曲ってどこか優しい感じがします。」
カズヒコ「それがピーター・グリーンの魅力だよ。泥臭さはあるけど、決して押し付けがましくない。例えば『Need Your Love So Bad』を聴くといい。ギターがまるで歌ってるみたいだから。」
ユキヒロ「あの曲のギターは本当に泣いてるみたいだよな。言葉より雄弁だ。ブルースって感情を音で吐き出すものだけど、グリーンはそれを美しく昇華できた。」
アミ「ピーター・グリーンはずっとマックにいたんですか?」
カズヒコ「いや、このアルバムが出た翌年には脱退してしまったんだ。精神的に不安定になってしまって……。」
ユキヒロ「ツアー中に宗教に目覚めたり、ギターを捨てようとしたり、逸話は多い。でも才能は本物だった。だからこの『聖なる鳥』は、グリーン時代のマックの“魂の記録”だと思ってる。」
アミ「“コンピレーション”ってただのベスト盤みたいだけど、なんだか特別なんですね。」
カズヒコ「そうだな。ただの寄せ集めじゃない。『Jigsaw Puzzle Blues』みたいな遊び心ある曲もあれば、『Albatross』のような夢のような曲もあって……一枚でマックの初期の幅の広さがわかるんだ。」
ユキヒロ「あと、B.B.キングばりの渋いブルースと、イギリスの若者の感性が混じり合ってるのも面白い。彼らのブルースは、単なる真似事じゃないんだよ。」
アミ「私もブルースって渋いおじさんの世界だと思ってましたけど……フリートウッド・マックなら聴けそうです。」
カズヒコ「アミにそう言ってもらえると嬉しいな。グリーンが今も評価されるのは、誰でも聴けば感じるものがあるからだよ。」
ユキヒロ「この後のマックはメンバーチェンジを重ねて、あの『Rumours』の頃のポップ路線に行くけど、根っこにはこのブルースがあるんだ。」
アミ「同じバンドなのに、全然違うんですね。」
カズヒコ「そういう変遷を知っておくと、もっと面白いだろ? 今日はこの『聖なる鳥』を家で流しながら、銅版画の構図でも考えてみな。」
アミ「はい、マスター。なんだか静かな夜が似合いそうです。」


次回作・・・

フリートウッド・マック 『Fleetwood Mac』(1968)

■登場人物

  • カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。

  • アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。

  • ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。

※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
 

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