妻が亡くなる1年前から17 reading record from 2018 W.B.イェイツ 8 イェイツと詩3

その年の9月、僕の担当のニューヨークのプロジェクトに妻も誘う。
ひょっとしたら最後になるかもと・・・
テーマはNYアートブックフェアへのアーティストブックの出品。
会場はクイーンズのPS1
MoMA=ニューヨーク近代美術館の関連施設。
ほとんどノンプロフィットプロジェクトなので
マンハッタンのホテルは使えない。
そこでairbnbを利用。
会場に近いブルックリンのグリーンポイント。
短期宿泊で決めたアパートはギタリストの部屋だった。
インテリアもなかなかで、
なんとデビット・ボウイのバンドメンバーの部屋だった。
そこで近所のマーケットで食材を買い込んでキッチンで調理。
妻には新鮮な体験だったよう。

The Tower 『塔』(1928)
1910年以後、
イェイツの詩は
ケルトからアイルラン ドの現実と
自身へのいらだちと自虐に移行していたが
・・・そのジレンマから抜け出し・・・
"塔"では自らの老いを自虐しながらも・・・
最初の詩"ビザンチウムへ船出して"からはじまる詩は・・・
ケルト、ギリシア、ビザンチン、ペルシアなど。
プラトン、アリストテレス、ピタゴラス、ディオニソスと、
様々な時、場所、人物と現実との交叉により
新たな詩的創造を試みている。
20編の詩
この時期イエイツはアイルラソド の西部のゴールウェイのバリリイにある彼の庇護者グレゴリー夫人の所有していた古い小さな塔Thoor Ballylleを夏の住処として譲り受け、1918年53歳から、塔から四周の光景を眺めながら" 塔"以後の作詩に耽った。詩が最も容易に作れるのは此処だと・・・・この詩集のタイトル"The Tower 塔"はこの塔からとった。1910年以後のいらだちから脱し、深い思索にふけることが出来るこの場所を手に入れたことが晩年のイエイツの作品を支えたと思われる。
Sailing to Byzantium ビザンチウムへ船出して
That is no country for old men. The young
In one another's arms, birds in the trees
-Those dying generations-at their song,
The salmon falls, the mackerel-crowded seas,
Fish, flesh, or fowl, commend all summer long
Whatever is begotten, born, or dies.
Caught in that sensual music, all neglect
Monuments of unaging intellect.
An aged man is but a paltry thing,
A tattered coat upon a stick, unless
Soul clap its hands and sing, and louder sing
For every tatter in its mortal dress,
Nor is there singing school but studying
Monuments of its own magnificence;
And therefore I have sailed the seas and come
To the holy city of Byzantium.
O sages standing in God's holy fire
As in the gold mosaic of a wall,
Come from the holy fire, perne in a gyre,
And be the singing-masters of my soul.
Consume my heart away; sick with desire
And fastened to a dying animal
It knows not what it is; and gather me
Into the artifice of eternity.
Once out of nature I shall never take
My bodily form from any natural thing,
But such a form as Grecian goldsmiths make
Of hammered gold, and gold enameling
To keep a drowsy emperor awake;
Or set upon a golden bough to sing
To lords and ladies of Byzantium
Of what is past, or passing, or to come.
1
あれは老人の住めるような国ではない。 若者たちは腕をくみ、鳥たちは樹にとまって購っている。
あの死にかけていまを生きるものたちよ、
急流をかけ昇る鮭たち、海に群がる鯖たち
魚も鳥も人間も、孕まれて生まれ、そして死んでゆくものすべてを
夏のあいだずっと讃め称えている。
あの官能的な調べに囚われて誰もが
不易なる知性の記念碑を蔑ろにしている。
2
老人とはくだらぬものだ。
棒切れに吊された艦棲の上着ぐらいのものでしかない、
かりに魂が手を叩いて歌うのでなければ、
しかも肉体に纏った服が
艦棲になっていくたびに、いっそう声高に歌うのでなければ。
荘厳なる魂の記念碑を学ぶことはできても
歌う学校がない。
だから私は海を渡ってやって来たのだ、
ビザンチウムの聖なる都に。
3
黄金のモザイク壁に描かれたような
神の聖なる焔のなかに佇む賢者たちよ、
その始から螺旋のごとく渦を巻いて現れ出でよ。
そうして我が魂の歌の師匠になってくれ
我が心を焼き尽くしてくれ。心は欲望に懊悩し
死にかけた生きものに縛られたまま
自分が何であるのか分からずにいるのだ。この私を収斂せよ
永遠なる芸術のなかへ。
4
自然から脱け出したからには、決して私は自分の姿かたちを
自然界から取り入れたりはしまい。
眠たげな皇帝を目覚めさせておくために
ギリシアの金細工師たちが黄金を打ち延ばし
琺瑯引きにして造ったような姿、
ビザンチウムの貴族や貴婦人に向かって
起ったこと、起っていること、起るであろうことを
歌うべく黄金の枝に据えられた姿、そうした姿を私は纏うのだ。
一九二七年

訳 小堀隆司 「塔」思潮社より

The Winding Stair and Other Poems 『螺旋階段とその他の詩』 (1933)
「塔」はバリリー塔を表していたのに対し、
この螺旋階段は塔の内部の石造りの狭くうねる、
昇にくい螺旋階段らしい・・・
生が死に、死が生にうねり、
聖が俗に、俗が聖にうねり、
渦巻き、旋回し、螺旋状に解き放たれる。
自身の苦悶も軽やかにうねり、たゆたう。
イエイツ最後の詩集。
「ケルトの薄明」から始まった詩人イエイツが
ここまで来たことに驚きと感動を覚えた。
愛に引き裂かれた女達へも慈しみに満ちているが、
イエイツが激しく愛し、
何度も求婚しながら撥ね付けられつづけ、
おまけに粗野な男と結婚してしまって、
そのショックでしばらく詩が書けなくなってしまったという。
Maud Gonneモード・ゴンへの逆オマージュも・・・
30編の詩
イエイツはダブリンのアベイ劇場での演劇活動で観客に直接呼びかける演劇の言葉から、叙情詩から変化して行ったと言われているが、ここまで口語体、会話体による劇的言語を駆使して詩にしていく直接性と簡潔さを最後に手に入れてしまったのだなと・・・またロマンチシズムから始まった詩が、晩年最後の詩集でいったい何処にたどり着いてしまったのかと・・・死が迫っているイエイツのなんとエネルギーに満ちていることか・・・すべてか死に向かってのびやかに収斂されていくのか・・・
僕は特にこの中の「曲をつけるかもしれない詞」WORLDS FOR MUSIC PERHAPSの”気違いジェーン”のシリーズがなんとも好きだ・・・
Crazy Jane And The Bishop 気違いジェーンと司教
Bring me to the blasted oak
That I, midnight upon the stroke,
(All find safety in the tomb.)
May call down curses on his head
Because of my dear Jack that's dead.
Coxcomb was the least he said:
The solid man and the coxcomb.
Nor was he Bishop when his ban
Banished Jack the Journeyman,
(All find safety in the tomb.)
Nor so much as parish priest,
Yet he, an old book in his fist,
Cried that we lived like beast and beast:
The solid man and the coxcomb.
The Bishop has a skin, God knows,
Wrinkled like the foot of a goose,
(All find safety in the tomb.)
Nor can he hide in holy black
The heron's hunch upon his back,
But a birch-tree stood my Jack:
The solid man and the coxcomb.
Jack had my virginity,
And bids me to the oak, for he
(all find safety in the tomb.)
Wanders out into the night
And there is shelter under it,
But should that other come, I spit:
The solid man and the coxcomb.
亡くなったいとしいジャックのため
真夜中になったら (だれだって墓の中なら安全です)
あたしがあの男に天罰を下せるように
あたしを、雷に打たれたオークのところへ連れてってよ
気取り屋というは、彼の言った最低の言いぐさだったの-------
しっかり者と気取り屋
あいつの破門が職人ジャックを追放したとき
あいつは司教 でもなく
(だれだって墓の中なら安全です)
教区司祭ですらなかったのに
あいつったら、古びた本を手に持って
あたし達が獣同士みたいに生きてるって叫んだの
しっかり者と気取り屋--------
司教は、神のみぞ知るだわ
雁の脚みたいに肌に皺が寄り
(だれだって墓の中なら安全です)
聖なる黒衣を着ても
鷲みたいな猫背を隠せないの
でもあたしのジャックは樺の木みたいに突っ立っていたんです
しっかり者と気取り屋
ジャックはあたしを女にしてくれたの
あたしにオークのところへ来いって言うのよ
(だれだって墓の中なら安全です)
というのは、彼は夜の暗闇へさまよい出ても
その下なら隠れられるからなんだわ
でもあのもうひとりが万一やって来たら、唾吐きかけてやっからね------
しっかり者と気取り屋
(一九二九年三月二日)

訳 中林孝雄「螺旋階段とその他の詩」角川学芸出版より

From A FULL MOON IN MARCHI 『三月の満月』(1934)
1932年レイディ・グレゴリーが死に、
イェイツは心の支えを失い、
2年間一編の詩も浮かばなかった。
しかし
1934年再び創造意欲を蘇らせる。
その7編の詩。
A Prayer For Old Age 老齢への祈り
GOD guard me from those thoughts men think
In the mind alone;
He that sings a lasting song
Thinks in a marrow-bone;
From all that makes a wise old man
That can be praised of all;
O what am I that I should not seem
For the song's sake a fool?
I pray -- for word is out
And prayer comes round again --
That I may seem, though I die old,
A foolish, passionate man.
どうか神さまみんなが頭だけで考える
考えは私は持たなくてすみますように
いやしくも不易のうたをうたう者は
骨の髄でものを考えるのですから
とりわけ人さまからちやほやされる
賢い御老体にはならせないでください
せつかく歌をうたっても馬鹿な奴と
思われぬようではしようがありません
はやり
どうか神さまー流行の言葉は止めて
もう一度祈りをこめてお願いします
どうか老いて死ぬ身ですけど馬鹿な
多情な男と思われるようにしてください

訳 鈴木弘 「W.B.イェイツ全詩集」北星堂書店より

Last Poems 『最後の詩』(1936~1939)
"Last Poems"は
イェイツ死後(1939、享年73 歳)に発表されたに詩集です。
"ラピス・ラズリ"、
"サーカスの動物たちは逃げた"
など印象深い詩が含まれていますが、
一つだけ選ぶとすればなんと言っても
"Under Ben Bulben ベン・バルベンの下で"
になります。
イェイツは"Under Ben Bulben ベン・バルベンの下で"で最後を締めくくります。そして・・・詩人と彫刻家よ、自分の仕事をしろ。 当世ふうの流行画家も偉大な父祖の仕事から目をそらすな。 ・・・アイルランドの詩人よ、おまえたちの商売を学べ。 何にせよ巧みに作られたものを歌え。 当世育ちのやつらを軽蔑しろ、・・・と・・・なんと最後まで果敢てあることか ・・・そして以下を彼の墓に刻むことを指示して終わります。・・・・《生も、 死も、 冷たい目で見ろ。 騎馬の者よ、行け!》と・・・
Under Ben Bulben ベン・バルベンの下で
I
SWEAR by what the sages spoke
Round the Mareotic Lake
That the Witch of Atlas knew,
Spoke and set the cocks a-crow.
Swear by those horsemen, by those women
Complexion and form prove superhuman,
That pale, long-visaged company
That air in immortality
Completeness of their passions won;
Now they ride the wintry dawn
Where Ben Bulben sets the scene.
Here s the gist of what they mean.
II
Many times man lives and dies
Between his two eternities,
That of race and that of soul,
And ancient Ireland knew it all.
Whether man die in his bed
Or the rifle knocks him dead,
A brief parting from those dear
Is the worst man has to fear.
Though grave-diggers' toil is long,
Sharp their spades, their muscles strong.
They but thrust their buried men
Back in the human mind again.
III
You that Mitchel's prayer have heard,
"Send war in our time, O Lord!'
Know that when all words are said
And a man is fighting mad,
Something drops from eyes long blind,
He completes his partial mind,
For an instant stands at ease,
Laughs aloud, his heart at peace.
Even the wisest man grows tense
With some sort of violence
Before he can accomplish fate,
Know his work or choose his mate.
IV
Poet and sculptor, do the work,
Nor let the modish painter shirk
What his great forefathers did.
Bring the soul of man to God,
Make him fill the cradles right.
Measurement began our might:
Forms a stark Egyptian thought,
Forms that gentler phidias wrought.
Michael Angelo left a proof
On the Sistine Chapel roof,
Where but half-awakened Adam
Can disturb globe-trotting Madam
Till her bowels are in heat,
proof that there's a purpose set
Before the secret working mind:
Profane perfection of mankind.
Quattrocento put in paint
On backgrounds for a God or Saint
Gardens where a soul's at ease;
Where everything that meets the eye,
Flowers and grass and cloudless sky,
Resemble forms that are or seem
When sleepers wake and yet still dream.
And when it's vanished still declare,
With only bed and bedstead there,
That heavens had opened.
Gyres run on;
When that greater dream had gone
Calvert and Wilson, Blake and Claude,
Prepared a rest for the people of God,
Palmer's phrase, but after that
Confusion fell upon our thought.
V
Irish poets, earn your trade,
Sing whatever is well made,
Scorn the sort now growing up
All out of shape from toe to top,
Their unremembering hearts and heads
Base-born products of base beds.
Sing the peasantry, and then
Hard-riding country gentlemen,
The holiness of monks, and after
Porter-drinkers' randy laughter;
Sing the lords and ladies gay
That were beaten into the clay
Through seven heroic centuries;
Cast your mind on other days
That we in coming days may be
Still the indomitable Irishry.
VI
Under bare Ben Bulben's head
In Drumcliff churchyard Yeats is laid.
An ancestor was rector there
Long years ago, a church stands near,
By the road an ancient cross.
No marble, no conventional phrase;
On limestone quarried near the spot
By his command these words are cut:
Cast a cold eye
On life, on death.
Horseman, pass by!
I
アトラスの魔女も知るマレオティス湖の
周辺で、賢者たちが語った
言葉にかけて誓え、彼らが語り、
雄鶏を鳴かせた言葉にかけて誓え。
あの騎馬の男ら、あの女どもにかけて誓え、
肌の色合、姿かたちが超人の証だ、
情念の完結によって、不死の性を
かち得たあの空駆ける者ら
あの色青ざめた面ながの一群にかけて誓え。
ベン・バルベンが情景を定めるところ、
いま、冬の夜明けに、彼らは馬を駆る。
この者らが言おうとするところの要点はこうだ。
II
人は二つの永遠のあいだにあって、
種族の永遠と魂の永遠のあいだにあって、
何度も生き、何度も死ぬ。
古代のアイルランドはそれを知りぬいていた。
ベッドで死のうと、 ライフル銃で撃ち殺されようと、
恐ろしいといっても、たかだか、
一時のあいだ親しい者と別れるだけのこと。
墓掘り人がどんなに手間ひまかけようと、
彼らの鍬の刃が鋭くても、筋肉が逞しくとも、
結局は埋葬した者を、また、
人間の心のなかに押しもどすだけだ。
III
「おお、主よ、われらが時に戦いを与えたまえ!」
ミッチェルのこの祈りを聞いた者は知っている、
あらゆる言葉を言いつくして
男が死に物狂いで戦うときには、
長いあいだ盲いていた目から何かが剥落するのを、
おのれの精神の欠落を満たし、
一瞬のあいだ、楽々と立ちつくし、
心は安らぎ、高らかに失笑するのを。
どんなに賢明な男でも、
おのれの運命を成就する直前には、つまり、
自分の仕事を知覚するときや、妻を選ぶときには、
ある狂暴な感情に駆られて気を張るのだ。
IV
詩人と彫刻家よ、自分の仕事をしろ。
当世ふうの流行画家も
偉大な父祖の仕事から目をそらすな。
人間の魂を神のそばに連れて行ってやれ。
人間がきっちりと揺り籠にはいるようにしてやれ。
測定が私たちの力の根源にある。
表しいエジプト人の考案した形体や、
もっと穏やかなフェイディアスの造った形体がある。
ミケランジェロはシスティーナ礼拝堂の
大井に一つの証を残しておいた。
あの目覚めかけたアダムを見れば、
忙しない足で世界を見て回るマダムが慌てる
この内臓が火のようにかっかと燃える。
神秘を作りなす精神が、行く手に、
一つの目的を、世俗的な人間の完成という
目的を定めていた証拠だ。
十五世紀イタリアの絵描きは
神や聖人の像の背景に
魂の憩う庭園を描いておいた。
この庭園では、目に見えるものはどれも、
花も、草も、晴れわたった空も、
眠りから覚めてもまだ夢を見ているときに、
つまり、いっさいが跡かたもなく消え失せて、
ただ夜具と寝台があるだけなのに、なお、
天空が開いたと断言するときに、存在する形、
存在するかに見える形に似ている。
渦巻はなおも渦を巻く。
あの大いなる夢が消滅したときに、カルヴァートと
ウィルソンが、またブレイクとクロードが、
神の民に安息の場をととのえた、
というのがパーマーの言葉だ。だが、
そのあとは混乱がわれわれの思考に襲いかかった。
V
アイルランドの詩人よ、おまえたちの商売を学べ。
何にせよ巧みに作られたものを歌え。
当世育ちのやつらを軽蔑しろ、
爪先から天辺まで不様のかぎり、
何一つ覚えていないこういう心や頭脳は
卑しい寝床で種を受けた卑しい産物だ。
農民を歌え。それから
馬を乗りしごく田舎の郷士たちを歌え。
僧侶の神聖を歌え。そのあとは
荷運び人の喧しい哄笑を歌え。
七百年の英雄時代が過ぎ行くうちに
土と混じり合った 陽気な貴族や貴婦人を歌え。
過ぎにし日々に思いを馳せろ。
来る日々のわれわれが、なお、
不屈のアイルランド民族であるために。
VI
裸のベン・バルベンの頂の下、
ドラムクリフの教会墓地にイェイツは横たわる。
むかし祖先の一人がここの教区牧師をしていた。
近くに教会が立っている。
道路のそばに古い十字架がある。 大理石はいらない。きまり文句もいらない。
近くで切り出した石灰岩に、
彼の求めによって次の言葉が刻まれる。
《生も、 死も、
冷たい目で見ろ。
騎馬の者よ、行け!》
1938年9月4日

訳 高松雄一編「対訳 イェイツ詩集」岩波文庫より
