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ぼくものがたり【第32話】終戦、その日

昭和20年(1945年)8月15日。
雲一つない、晴れ渡った暑い日だった。
朝まで空襲が続いていたが、やがて警報の音も消え、急に静けさが訪れた。

連日連夜の空襲に疲労困憊しながら、人びとはがれき撤去や、隣組の勤労奉仕をしていた。
しかし、その日の午前中だけは、手を休めていた。

「お昼に重大な放送があるので、必ず聞くように」
と知らせが回った。

家には、家族と、集まった近所の人たち合わせて20人くらいが、
ラジオの前で正座をして待っていた。
親父を始め、男たちは国民服で身なりを整えていた。

事前に「天皇陛下がお言葉を述べられる」との知らせもあったからだ。

みんな、
「勝ったのか、負けたのか?」との話題でもちきりだった。

よく理解していなかったけれど、僕もかなり緊張していた。
今まで神様だと言われてた天皇陛下の話なんだから。

広島と長崎に新型の爆弾が落とされたことは、
誰もがラジオで聞いて知っていた。
ふつうの爆弾じゃないと何となく感じ取っていたけれど、
その正体はまったくわかっていなかった。

国吉おじさんは、
「もっと頑張れってお言葉かなぁ」とため息をついていた。

12時、放送が始まった。
初めて聞いた天皇陛下の声は、思っていたよりも高く、
震えるようだった。

けれど、僕には何を言っているのか、まったくわからなかった。

聞きながら泣いてる人もいれば、
目を閉じて、黙って聞き入る人もいた。

放送が終わったあと、しばらく誰も言葉を発さなかった。

お袋は、
「……いまの、どういうこと?」
親父は、
「陛下が、収拾するって……そうおっしゃったような……」

一緒に聞いていた八百屋のおじさんは、悔しそうに、
「負けたんだよ」と。

それを聞いた人たちは、ボソボソと話し始めた。
「でも、“負けた”とは言ってなかったよね?」
「でも、戦局は好転せず。堪え難きを耐えって…」

「そう。それは、降伏ってことだよ……たぶん」
「ああ……いずれにせよ、終わったんだね……」
「日本が負けるなんてねぇ」

全員、黙り込んでしまった。

でも、次第に、怒りも込み上げてきた。

「大本営は、勝つ勝つって言ってたじゃないか」
「斎藤さんの息子さん、特攻で亡くなったばかりだよ…」
「結局、何だったんだよ……この戦争は」

そして、今後の心配へと話は変わった。

「これからどうなるんだろう」
「占領されるんだろうねぇ」
「阿佐ヶ谷もアメリカになるのかねぇ」

希望の声もあった。

「もう、空襲はないんだよね」
「そうさ。もう空襲ないんだから、電気もつけてもいいんだよ」
「そうよ。明るくたって、怒られないのよ」

そんな会話をして、悲しいのか、安堵しているのか、
みんな、自分たちでもわからない、不思議な心境だった。

そしてそれぞれ、力が抜けたように、三々五々、帰って行った。

お袋は、
「良かったよ。もう安心して眠れるよ。
 功も、もう疎開に行かなくてもいいし、ふつうに学校にいけるよ」

親父は、ただ黙っていた。
「良かったよ」とは素直に喜べない様子だった。
親父は、たくさんの亡くなった人たちを、この目で見てきたから。
いろいろな思いが渦巻いていたんだと思う。

その夜は、思い切り家中を明るくして過ごした。
電気や窓の黒い布を取り払って、庭や玄関の明かりもつけて、
家族みんなで、その明かりを見上げ、うれしくて笑い合った。

どこの家も、いっせいに灯りをともしていた。
道に出てみると、久しぶりに近所の家々から、
明かりがもれているのが見えた。

お袋はそれを見て、思わず泣いていた。

多くの爪痕だけを残して、戦争は終わった。


だけど、終わったからといって、
すぐに日常が戻ってきたわけではなかった。


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