下ネタの話
菊池ひろみ
「菊池さん、ブラジャーのヒモ触ってもいいですか?」
――これが、笑えない下ネタだ。
以前の職場は、年齢層の幅が広かった。
だから、施設はセクハラ講習にかなり力を入れていた。
女性が多い職場だからか、軽い下ネタは結構飛び交っていた。
それらの多くは笑えるものだった。
「ああ、今日、私は絶対事故遭ったらだめだ。」
「え?なんで?」
「今日の下着、おばさん丸出しのデカパンなのよ。事故に遭って、消防士
の人に見られたくない。」
下ネタと言っても、それらには条件がある。
誰も傷つかない、具体的ではない、その場の空気に乗っている。
「今日、かわいい下着を着ているんです。」
若い職員が嬉しそうに話す。
「え?ちょっと見せて?」
おばさんたちのチェックが入る。
「でも、可愛い下着って着たら結構痛くない?」
私も参戦する。
「は?菊池さん、なんで可愛い下着持ってるの?何のため?(笑)」
「前提として、私が可愛い下着を持っていてもいいでしょう。さらに、着
ていて誰に迷惑かけるんですか?」
負けじと返す。
これが下ネタなのかは分からないが、公には話せないギリギリのラインだ
と思う。
そして、どれもが笑えて場が和む。
でも、たまに踏み込んだ下ネタを会話に入れてくる人がいる。
「菊池さん、今彼氏いないんでしょ?じゃ夜は寂しいね?どうしてる
の?」
きっしょー。
「男が感じるのって、一番は声らしいよ?」
やめろ。
話す人間を前に、想像してしまう。
距離が近すぎる。
何より、私の同意を無視するな。
その話をしてきた女性職員が、30代の看護師(男性)にお尻を触られてい
た。
「なにしてるん?」
私は目を疑った。
「アハハ!俺達ってこういう仲なんですよ?」
「……やめて。気持ち悪い。」
「菊池さん、下ネタダメなんですか?」
「ダメじゃないけど、それはちょっとあかんと思う。」
「菊池さん、ブラジャーのヒモ触ってもいいですか?」
数週間後、大問題となり、この看護師は異動となった。
下ネタは、ときに会話のスパイスになる。
だが、入れ過ぎると会話が会話でなくなる。
年齢や育ってきた環境もあるのかもしれない。
でも、一つだけ言えることがある。
不快でないこと。
今の職場は、女性ばかりで中高年が多いので下ネタはほとんどない。
あるとすれば、便秘か生理の話くらい。
しかし、これだって男性の前ではNGかもしれない。
今一度、セクハラ講習を受け直さねば。
そういいながら、パンツを上に引っ張った。
