『港区の銭湯で、やさしさに出会った夜』 ― “戦う大人たち”が、静かに再出発を思い出す場所 ―
― 走り続けたあとに、自分をほどく場所があった ―
疲れきって帰った夜、ふと立ち寄った銭湯で、思いがけず“静かなやさしさ”に出会った。
港区のとある銭湯。陸上休暇、1日目の夜。
近所だから、手ぶらでふらりと立ち寄った。
シャンプーと石鹸は中で買える。ただ、タオルを持ってくるのを忘れてしまい、仕方なくインナーで体を拭いた。ちょっとした失敗も、なぜか銭湯だと笑えてくる。
湯上がりに休憩所へ向かい、自販機でお茶を買う。血圧計があったので、なんとなく測ってみた。

もうすぐ45歳。健康管理にも、少しだけ気を使っている。
そのあとは、たまった洗濯物を洗濯機に放り込んだ。
浴場には、都会のざわめきとは無縁の、静かな時間が流れていた。
ロッカーで隣になった男は、背中一面に見事な刺青を入れていた。思わず、ほんの少しだけ身構える。
でもそのとき、不意に聞こえた。
「ごめんね、邪魔になって」
低く、やわらかい声だった。
ああ、きっとこの人も、どこかで戦ってきたんだろう。
でも今は、ただ“休みにきている”だけなんだ。
湯船につかると、体から力がふっと抜けた。ひんやりした外気と、あたたかい湯気。銭湯の高い天井をぼんやり眺めながら、心の中でつぶやく。
「そうか、いま、自分も“休暇中”なんだ」
走り続けてきた日々の中で、こんなふうに体も心もゆるむ時間を、きっとずっと求めていたのかもしれない。
乗船中はシャワーばかりだし、銭湯は格別だ。
港区の夜は、意外とやさしい。
見た目なんて、きっとどうでもいい。
誰もが、自分をほどくために、ここへ来ているのかもしれない。
湯気の奥には、言葉も肩書きもいらない“人間そのもの”が、ただ静かに揺れていた。
銭湯を出たあとは、近くのガードレールに腰を下ろした。
湯上がりの体に触れる夜風と、街の静けさを感じながら、しばらく余韻にひたった。GW期間中だからか、人も少ない。
それから、ゆっくりと部屋へ戻った。
―またひとつ、心がゆるんだ夜だった。
きっと誰もが、自分をほどく時間を必要としている。
あなたの中にも、そんな“港”がありますように。
【あとがき|やさしさに、ほどかれる夜】
…そういえば、この夜は静かな銭湯だったけれど、実は心のなかではずっと“戦っていた”のかもしれません。
銭湯だけに―ちょっとした“戦闘”でもあったんです、なんてね。
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