たつわれさんのキセキ
堅破山。たつわれさん、と読みます。
「…堅・破・山だから『けんぱさん』や
『かたやぶりさん』ではないんですか?」
いえ、たつわれさん、と読むんです。
これには理由がある。
ぜひ皆様も、この謎をお考えになりながら
本記事をお読み進めいただければ幸いです。

堅破山は、茨城県の日立市と
高萩市との市境付近にある山。
県の中でも北部の東寄りの山の中です。
この山の頂上の近くに、
何とも奇妙な石があるんですね。
そう、奇石、キセキです。
私も話には聞いたことがありましたが、
実際に見てみると驚きを隠せませんでした。
何と、直径7メートルほどの巨石が、
刃物で斬られたかのように
真っ二つ、真っ平らになって転がっている!
「これは…誰がやったの?
まさか『鬼滅の刃』の竈門炭治郎…!?」
確かに漫画『鬼滅の刃』の中では
主人公の炭治郎が修行の中で
巨石を剣で真っ二つにする場面がありますが、
言い伝えによれば彼ではありません。
炭治郎ではなく、八幡太郎です。
そう、八幡太郎こと源義家。
1039~1106年。平安時代中後期の武士。
彼は「後三年の役」と呼ばれる
東北地方を舞台にした戦いに赴きます。
その際に、この山を通ったらしいんです。
彼が山に登って戦勝を祈願したところ、
夢枕に現れた神様から
ひと振りの太刀を授けられた。
目覚めた義家がその太刀で巨石を斬りつけると、
真っ二つになって、一つが横倒しに倒れた…。
そういう言い伝えがある。

この伝説を知っていた徳川光圀、
水戸藩の第二代藩主、いわゆる水戸黄門様が、
この奇石のことを「太刀割石」と
名付けたそうなんです。
…さあ、これで山の名前の謎が解けましたか?
「たちわりいし。たつわれさん…。
なるほど! 太刀割石のある山だから、
『たちわり』から『たつわれ』になまって
堅破山=たつわれさんになったんですね!」
その通りです。この岩の他にも、
この山には奇石が本当にたくさんあります。
ごろごろっと転がっている…。
◆太刀割石、神楽石、甲石、舟石、
胎内石、畳石、烏帽子石
あと、滝もあるんですよ。
◆不動滝、剣滝、龍馬滝
これら七つの奇石と三つの滝を合わせて
『七奇石三瀑』と呼ぶそうです。
「この山は、どうやって登るんですか?」
頂上の近くの駐車場までは行けますが、
そこから以降は車では進めない。
車を降り、かなり傾斜の強い坂道を
ひたすら自分の足で登っていく必要があります。
私の感覚で言えば、ガチ登山と
ハイキングの中間くらいでしょうか…?
少なくとも運動靴でないと登るのが辛い感じ。
そもそも登山口の駐車場に着くまでが遠い。
でも、そのおかげで、
静寂の中で深い山を登る醍醐味が味わえます。
(私のスマホの電波は
当たり前のようにゼロになっていました)
「何だか秘境感のある山ですね…」
いえ、水戸黄門様も登ったくらいなので、
昔から知られた山です。
案内板もいくつか立てられていました。
登山道には階段もきちんとつけられている。
道なき道を行く…という感じではありません。
そもそも、この山の頂上付近には
「黒前神社(くろさきじんじゃ)」があり、
密教系の山岳信仰の場として
修験者たちが修行で登っていたそうです。
登る人は多かった。
七奇石の一つである「畳石」は、
その石の上に修験者たちが座って
修行をした…という故事から名付けられている。
なお、この黒前神社という名前は、
『黒坂命(くろさかのみこと)』が
祭神であるためにつけられた名前です。
黒坂命とは、奈良時代の地理書である
『常陸国風土記』に出てくる武人。
奥州の蝦夷(えみし)と戦うために
朝廷から派遣された人ですね。
茨のトゲを使って、茨城のあたりで
敵を滅ぼした…という伝説も残っている。
そう、茨城という地名の由来にも
関わっている人なんです。
しかし彼は東北を平定した帰りに、
このあたりで亡くなってしまった…。
そこで、その場所にあった
「角枯(つのかれ)山」のことを、
彼の名にちなんで
「黒前山」と呼ぶようになったそうです。
これが堅破山のことだ、と考えられています。
(ちなみに黒坂命は霞ヶ浦の南、
今の美浦村のあたりまで運ばれていき、
『黒坂命古墳』に葬られたと言われています)
時代が下がって、平安時代初期には、
征夷大将軍である坂上田村麻呂が
この黒前山に社殿を再興した。
源義家もそういうことがあったから、
わざわざ立ち寄ったんでしょう。
この神社は「日吉山山王権現」と
呼ばれていたそうですが、
江戸時代の第九代の水戸藩主、徳川斉昭が
「黒前神社」と改名させたそうです。
まとめると、以下の通りになります。
◆黒坂命:この辺りで亡くなって「黒前山」に
◆坂上田村麻呂:社殿を再興する
◆源義家:太刀割石などの伝説を残す
◆徳川光圀:太刀割石を名付け「たちわれさん」に
◆徳川斉昭:神社を「黒前神社」に改名

…ということで、太刀割石という奇石のある
『堅破山(たちわれさん)』と、
そこにある『黒前神社(くろさきじんじゃ)』が
現代にも残っているのです。
「東北にゆかりのある人たちや
水戸藩の藩主たちに関わる山なんですね!」
最後にまとめます。

本記事では太刀割石と堅破山を中心に、
その奇石や由来などを紹介してみました。
茨城県の北のほう、県北(けんぽく)地域では、
『常陸国ロングトレイル』と称して
茨城県北6市町に点在する
地域資源を巡る旅がオススメされています。
※コースは下部のリンクからぜひ。
もちろん、この堅破山もその一つ。
なお、黒前神社からさらに登ると
堅破山の頂上に着きます。標高658メートル。
そこには、何と巨大な展望塔が建っていた!

この塔の上から凄まじい美しさの絶景を
四方八方に見ることができ、
「神社を越えて、さらに頑張って
登ってきた甲斐があった…」と感じました。
何しろ山道は木々に囲まれており、
眺望がほとんど見えなかったので…。
それにしても、登っていくだけでも
へとへとになりそうな山の頂上に、
重い資材を使った
立派な展望塔が建っているのは凄い。
関係者の皆様のご尽力には
頭が下がる思いです。
…でも、いったいどうやって資材を運び、
どうやって作ったんでしょうか?
謎を解いたはずの私に、新たな謎が生まれた。
奇石の山の奇跡。
そうとしか言いようがないようにも思える。
そんな立派な展望塔まで味わえる山…。
その「軌跡」も含めまして、
ぜひ名前を覚えていただけますと幸いです。
複雑なことも多い世の中ですが、
割り切れるところは割り切って、
前向きに進んでいきましょう!
◆常陸国ロングトレイル『堅破山エリア』↓
◆竪破山展望台
茨城県高萩市中戸川
◆太刀割石
茨城県日立市十王町黒坂762
合わせてぜひどうぞ!
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