シカゴで一か八か

「シカゴで一か八か、勝負しないか?」

そう言われたとき、私は一瞬、カジノの話だと思った。

目の前にいる男は、黒いスーツにサングラス。どう見ても怪しい。

「賭けるのは金ですか?」
「いや」
「じゃあ、命?」
「もっと大事なものだ」

私は逃げようとした。
しかし男は、スマホを取り出した。
画面には地図が表示されていた。

「ここがシカゴだ」
「はい」
「そして、ここにボタンがある」

画面の中央には、大きな赤いボタン。
その下にはこう書かれていた。

『押せば、あなたはシカゴへ行ける。ただし帰れる確率は二分の一』

「一か八か、ですね」
「そういうことだ」

私は考えた。
仕事も、貯金も、特に不満はない。
でも最近、毎日が同じだった。
起きて、働いて、帰って、寝る。
何かを変えたいと思いながら、何も変えていなかった。

風もないのに、画面の向こうから摩天楼の喧騒が聞こえた気がした。

私は赤いボタンを押した。

次の瞬間。
目の前が真っ暗になった。

そして目を開けると――。
私は自宅のソファに座っていた。

「……失敗か」

するとスマホが震えた。
画面には通知。

『シカゴへの移動に失敗しました』

やっぱりか、とため息をついた。
その直後、もう一つ通知が届いた。

『移動先が確保できなかったため、代わりにあなたの"帰る場所"をシカゴへ送りました』

意味がわからないまま、私は眠りについた。

翌朝。
会社へ行くと、私の席がなかった。
上司も同僚も、私のことを知らなかった。

家に戻ると、鍵が合わなかった。
表札には、見知らぬ名前がかかっていた。

私はようやく理解した。
一か八かの勝負で失ったのは、命でも金でもない。
――帰る場所だった。

そしてスマホには、航空券の予約画面が表示されていた。

片道。行き先、シカゴ。


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