hitty旅ログ |#37――トバ湖へ―衝撃の道のり
バスが来ない。
宿にピックアップに来るはずのバスが、予定時刻を1時間過ぎても現れない。
現在時刻は19時。
宿の使い走りらしき兄ちゃんが確認しに行ってくれる。
「20時には来る」とのことだったが、そのまま待ち続けた21時ごろ。
「明日の朝になった」
そんな感じで、あっさり告げられた。
なんでやねん…!!!
同乗者が集まらなかったのか、何か別の理由があるのか。
結局、真相はよくわからない。
日本なら大問題になりそうなレベルのドタキャンだが、ここでは案外よくあることなのだろう。
まぁ、仕方ないが、もう一泊分の宿代は痛い。
そして、未だに私をツアーへ引きずり込みたいテンガロン親父の営業も鬱陶しい。
それでも、「これも旅か」と思えば、なんとか飲み込める。
次の目的地はトバ湖。
スマトラ島北部にある、世界最大級のカルデラ湖だ。
シンガポールがそのまま入るとも言われるほど広大らしい。
そこに暮らす人々の生活を見てみたい。
翌朝。
予定通り7時、ようやくバスがやって来た。
安堵した。
これでやっと出発できる。
客を取り逃した悔しさを滲ませるテンガロンを横目に、私はバスへ乗り込んだ。
乗ってみると、意外にも悪くない。
日本で言うなら、教習所の送迎バスみたいな雰囲気。
爆音の音楽と、相変わらず荒い運転を除けば、座席もちゃんと確保されている。
ここインドネシア基準で言えば、かなり快適である。
窓の外にはスマトラ島の雄大な自然。
深い緑。
うねる山道。
日本では見ない濃い景色が流れていく。
昼前ごろ、バスはぽつんと建つ小屋の前で停車した。
どうやら昼食休憩らしい。
中へ入ると、ズラッと並ぶパダン料理。
唐辛子の赤。
香辛料の匂い。
油の照り。
食欲を刺激してくる。
周囲は完全に地元民ばかり。
次々と慣れた様子で料理を注文していく。
私はシステムがわからず、料理の前で立ち尽くしていた。
すると若い兄ちゃんが、身振り手振りで教えてくれる。
なんてありがたい。
旅をしていて、本当に嬉しいのはこういう瞬間だ。
食べたいものを指差し、皿に盛ってもらう。
その兄ちゃんと同じテーブルに座り、一緒に飯を食う。
言葉は通じない。
でも、「うまい」という感覚は共有できる。
食べ終わり、再びバスへ戻ろうとした時だった。
運転手が、私の前に立ち塞がる。
「??」
何やら必死にジェスチャーしている。
そこへ少し英語ができる乗客が来て、一言。
「トランジット」
……トランジット?!
運転手が指を差した先を見る。
すると、ボロッボロのハイエースみたいな車がこちらへ向かってくる。
そして運転手は、
「ユー、ユー」
と、私とその車を交互に指差す。
……まさか。
トバ湖へ行く私は、あの車に乗り換えなのか。
一緒に飯を食った兄ちゃんも、どこか哀れむような顔でこちらを見ている。
どうやら、私だけが乗り換えらしい。
完全に諦めモードの私を見届けると、元のバスはそのまま出発していった。
そして代わりにやって来たバン。
降りてきた運転手のオヤジが、
「乗れ乗れ」
と手招きしている。
やれやれと思いながら近づき、車内を覗いた瞬間——絶句した。
席がない。
超満員である。
いや、超満員どころではない。
明らかに定員オーバー。
300%ぐらい乗っている。
通路まで人と荷物で埋まり、足の踏み場もない。
そして極めつけに、ニワトリまでいる。
……これに乗るのか??
オヤジは「早くしろ」と急かしてくる。
いや、乗れと言われても、どこにやねん。
戸惑う私に痺れを切らしたのか、オヤジが取り出したのは、小さなプラスチック椅子。
それを無理やり通路へねじ込み、
「ここ座れ」
と促す。
周囲の乗客も、そんな私を面白そうに見ている。
もう、ヤケだった。
半ば覚悟を決め、そのカオスな車内へ飛び込む。
同時に、バンは勢いよく走り出した。
ここからトバ湖までは、約15時間。
狭い。
暑い。
うるさい。
臭い。
そして、逃げ場がない。
……耐えられるのか、私は。
無事に辿り着けるのだろうか。
