「メネラウスの定理?だからどうした。」と思っていた。でも、その一言の裏には数学2000年の進化があった。
「メネラウスの定理。」
初めて見たときの感想は、正直これだった。
だからどうした。
三角形の辺の比を三つ掛けると1になる。
それで何がうれしいのか。
高校数学でもほとんど出番はないし、受験が終われば忘れてしまう人も多いだろう。
私も長い間、「地味な定理」という印象しか持っていなかった。
しかし最近になって、この定理は「定理そのもの」が重要なのではなく、その発想が重要なのだと気付いた。
図形を計算に翻訳する
メネラウスの定理が扱っているのは、
「三点が一直線上にあるかどうか」
という、いかにも図形らしい性質である。
本来なら、図を見たり、角度を追ったりして考える世界だ。
ところがメネラウスは、それを
「辺の長さの比を三つ掛けると1になる。」
という計算に置き換えてしまった。
つまり、
幾何学を代数へ翻訳した。
これが、この定理の本質だったのである。
昔の数学者は、三角形を本気で研究していた
現代人から見ると、
「昔の数学者って、三角形ばかり研究していたの?」
と思うかもしれない。
しかし、それには理由がある。
三角形は、あらゆる図形の基本単位だからだ。
多角形は三角形に分けられる。
測量も建築も天文学も航海も、三角形なしでは始まらない。
だから、
ピタゴラスの定理
ヘロンの公式
正弦定理
余弦定理
メネラウスの定理
チェバの定理
と、三角形に関する定理が大量に生まれた。
当時の数学の最前線は、まさに三角形だったのである。
そして数学は方向転換する
17世紀。デカルトが解析幾何を生み出す。
ここで数学は、大きく姿を変えた。
それまでは、
図形を研究する学問
だった。
しかし解析幾何によって、
図形は数式で表せる
という発想が生まれる。
円は方程式になる。
直線は方程式になる。
交点は連立方程式になる。
図形と計算は、同じものを違う言葉で表しただけになった。
メネラウスの定理は、この大きな流れの入り口に立っている。
図形を計算へ翻訳する。
その第一歩だったのかもしれない。
現代では、図形は数式から生まれる
そして現代。ここで発想は、さらに逆転する。
昔は、
図形を見て、数式を考えた。
今は違う。
数式から図形を生み出している。
CADで設計される部品。
ゲームの3DCG。
映画のCG。
流体解析。
応力解析。
設計者は線を一本一本描いているわけではない。
寸法や拘束条件、曲面の式を入力すると、コンピュータが図形を計算して表示してくれる。
つまり、
図形が数式を生み出す時代から、数式が図形を生み出す時代へ。
私たちは、そんな世界で仕事をしている。
「だからどうした」が、「なるほど」に変わる瞬間
メネラウスの定理だけで、何かが劇的に変わるわけではない。
でも、その背景には数学2000年の流れがある。
図形を観察する時代。
図形を計算で表す時代。
そして、数式から図形を創る時代。
一見すると地味な三角形の定理。
しかし、その一つひとつが積み重なった先に、今のCADも、CGも、シミュレーションもある。
そう思うと、
「メネラウスの定理?だからどうした。」
と思っていた私も、
「数学って、ちゃんと今につながっているんだな。」
と、少しだけ見え方が変わった。
