🍷 【濡れ美食】浴衣DAY③ーー密会と秘密の交換
プロローグ
彼女が、俺の隣を歩いていた。
ほんの数時間前まで、彼女は居酒屋の店員だった。
俺は、その店を訪れた客の一人。
それだけの関係だったはずだ。
なのに今。
夏祭りの喧騒を背にして、俺たちは同じ方向へ歩いている。
「落ち着いて話せる場所がある」
そう言った時、彼女は一度だけ俺を見た。
そして、少し考えるような間を置いてから聞いた。
「……ホテル?」
思わず、俺は苦笑した。
「いや。落ち着いて話せる、雰囲気のいいバーがあるんだ」
彼女は、俺の顔をじっと見つめていた。
俺の言葉を信じるのか。
それとも、まだ俺を試しているのか。
やがて彼女は、小さく笑った。
「じゃあ……行ってみます」
その瞬間。
俺たちはもう、客と店員ではなくなっていた。
けれど。
男と女になったとも、まだ言えない。
お互いの名前すら知らない二人。
それなのに、俺たちはホテルの入口をくぐった。
この夜がどこへ向かうのか。
まだ、誰にも分からなかった。
🍷 第三幕 密会と秘密の交換
ホテルの重い自動ドアをくぐり、1階奥にあるバーへ向かうエントランス。
静まり返ったロビーの空気に包まれた瞬間、隣を歩いていたDが、くすっと悪戯っぽく笑って俺の顔を覗き込んできた。
「……ねえ。落ち着いて話せる場所って、ホテルじゃないって言ったじゃないですか(笑)」
「いや……ここは1階にバーがあるんだよ」
「ふーん(笑)。まあ、いいですけど」
そんなやり取りを交わしながら足を踏み入れたバーは、さっきまでいた居酒屋とはまったくの別世界だった。

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