『春のプロトタイプ』|第13話
最初に変化したのは、空気の匂いだった。
この駅には、季節がない。
温度は変わる。
風向きも変わる。
でも、“季節が進んでいる感覚”だけが存在しない。
だから私は、すぐに違和感に気づいた。
花の匂いがする。
どこにも花なんてない。
ホームにも、改札にも、線路の向こうにも。
それなのに、確かに“春の匂い”だけが漂っている。
私は端末を開く。
環境ログ。
温度正常。
湿度正常。
異常なし。
異常なし。
最近、その表示だけが、この場所でいちばん信用できない。
風が吹く。
その瞬間、ホームの端に何かが見えた。
淡い色。
桜の花びらみたいなものが、一枚だけ空中を流れていく。
でも、次の瞬間には消えている。
まるで、存在が安定していないみたいに。
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