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8月11日の誕生花『サンビタリア』――小さな黄色い花が教えてくれたこと

朝、ベランダに出ると、昨日まで気づかなかった小さな黄色い花が咲いていた。
丸い花びらがいくつも重なり、真ん中には濃い色の花芯がある。

大きな花ではない。遠くから見れば、見落としてしまうくらい小さい。
けれど、朝の光を浴びているその花は、不思議なくらい鮮やかだった。

「いつ咲いたんだろう」

私はしゃがみ込み、しばらく眺めていた。
植物を育てることが趣味というわけではない。水をやるのを忘れることもあるし、鉢の周りに枯れ葉が落ちていても、すぐには片づけない。

それでも、こうして花が咲くと嬉しくなる。不思議なものだと思った。
昨日と何も変わらない朝なのに、一輪の花があるだけで、景色が少し違って見える。

過ぎ去る時間と、見つけた名前その日は、朝から特別な予定がなかった。

いつものように顔を洗い、簡単に朝食を済ませる。掃除をして、洗濯物を干す。そんなことを繰り返しているうちに、時計の針は午前十時を過ぎていた。

窓から外を見る。夏の日差しが強い。道路を歩いている人も、どこか急ぎ足に見えた。

私は冷たいお茶を一杯入れて、椅子に座った。
最近、何をしていても時間が早く過ぎていく。

子どもの頃は、一日が終わることが不思議なくらい遠く感じたものだ。今は気がつけば一週間が終わり、一か月が過ぎ、季節まで変わっていく。そんなことを考えていると、またベランダの黄色い花が目に入った。

午後になって、買い物へ出た。
日陰を選びながら歩いていると、道端の植え込みに、朝ベランダで見た花とよく似た花が咲いているのが見えた。

「あれ……」

帰宅してから調べてみると、それは**「サンビタリア」**という花だった。
名前を知っただけなのに、少し親しくなったような気がした。

今まで名前も知らなかった花。けれど、名前を知ると、急に存在がはっきりする。
人も同じなのかもしれない。ただすれ違うだけだった人の名前を知り、好きなものを知る。それだけで、その人の存在が少し近くなる。

「何者か」にならなくてもいい

夕方、昔の写真を整理することにした。
スマートフォンの中には、何年も前に撮った写真がたくさん残っている。

一枚ずつ見ていると、忘れていた記憶が次々と出てきた。その中に、今よりずっと若い自分が写っている写真があった。

「あの頃は、あんなことを考えていたんだな」

若い頃は、何かを成し遂げなければならないと思っていた。人より先に進まなければいけない。何かを持っていなければいけない。そんな焦りが、いつもどこかにあった。

けれど、今になって思う。
人生は、そんなに大きなものだけでできているわけではない。

朝、カーテンを開けること。お茶を飲むこと。洗濯物を干すこと。道端の花に気づくこと。
そういう小さなことも、ちゃんと一日の一部なのだ。そして、その一つ一つが積み重なって、自分の人生になっている。

小さな希望の灯り

夜になる前に、私はもう一度ベランダへ出た。
サンビタリアは、夕方になっても黄色い花を咲かせていた。

鉢の周りを片づけ、水をやる。すると、葉の間から新しいつぼみがいくつも見えた。
「まだ咲くんだ」

一輪咲いたと思ったら、また次のつぼみがある。そのことが、妙に嬉しかった。
人生も、きっとそうなのだろう。今日何もできなかったとしても、明日には何か一つできるかもしれない。昨日まで気づかなかったものに、明日は気づくかもしれない。

しばらくして、友人から「暑いね。元気にしてる?」とメッセージが届いた。
いつもなら一言で返すところだが、その日はサンビタリアの写真を撮って送ってみた。

「かわいいね。なんか元気になる」

返ってきた言葉を見て、少し笑った。
たった一枚の写真と数行のやり取り。それだけで、心の中に小さな灯りがともったような気がした。

それだけの一日

夜、窓を閉める前にもう一度花を見た。
明日の朝になれば、また光を浴びて、あの黄色が戻ってくる。

人も、ずっと明るくいなくていいのだ。
疲れる日があっていい。何もしたくない日があっていい。
「明日も少しだけやってみよう」と思えるくらいの、小さな希望があればいい。

サンビタリアのように。
大きくなくてもいい。目立たなくてもいい。ただ、自分の場所で静かに咲いていればいい。

特別なことは何もない一日だった。
朝、黄色い花を見つけた。その名前を知った。昔の写真を見た。友人と少しだけ話をした。
それだけ。でも、それでいい。

人生というものは、きっとそういう「それだけ」の積み重ねなのだ。

翌朝、カーテンを開けると、昨日より一つ多く花が咲いていた。「おはよう」
小さな花に向かって、そう声をかけた。

あとがき

今回の物語では、**8月11日の誕生花「サンビタリア」**をテーマに描きました。

  • サンビタリアとは
    キク科の植物で、小さなヒマワリのような黄色い花を次々と咲かせます。

  • 花言葉
    「私を見つめて」「愛の始まり」「切なる喜び」

人生には、誰かに話したくなるような大きな出来事ばかりがあるわけではありません。
けれど、朝起きて花を見つけるような何気ない瞬間の中にこそ、幸せがあるのかもしれません。

サンビタリアの小さな黄色い花が、あなたの今日を少しだけ明るくしてくれる。そんな物語になっていれば幸いです。


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