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次が読みたくなる物語5

【これは95%の物語です。その後の結末は、
         皆様で考えてみて下さい】

第五話 今回のお客様「35歳大学研究員」

深夜二時。

『占いの館』に客はいなかった。

こんな夜には、マスターは店に掲げられた写真を見ながら、一人で飲む。

グラスに氷を入れ、酒を注ぐ。

シェーカーを振る。

静かな店内に、氷のぶつかる音だけが響いた。

そしてマスターは、出来上がったカクテルを手に、壁に掛けられた写真を眺めた。

そこには、一人の男性と――

若い女の子が写っていた。

写真には、1枚の手紙が添えられていた
手紙には、こう書かれていた。



『マスター。

昔、この店で飲んでいたのが懐かしいです。

しばらくはお伺いできないと思いますが、またいずれ、そちらで飲みたいと思っています。』





十年前。この店には、カップルで飲みに来る常連客がいた。

男性客の

名前は若木。

大学院で研究を続けている研究者だった。

真面目で、不器用で、酒に弱い。

そして、彼には恋人がいた。

銀座のキャバクラで働くゆうこだった。

若木は、そのゆうこを心から愛していた。

毎週欠かさずキャバクラへ通い、アフターでは必ずこの店へ来た。

そして、時々一人でも訪れた。

「マスター」

「はい」

「また、十年後を見せてほしいんだ」

「彼女との未来ですか?」

「そう」

若木は苦笑した。

「何度もプロポーズしてるんだけど、なかなか返事をしてくれないんだ」

「そうですか」

「僕は今、まだ大した男じゃない。でも研究がうまくいけば、大学でも、それなりの地位につけると思う」

若木はグラスを握った。

「絶対に彼女を幸せにするって、言ってるんだけどな」

そして、催眠術占いを受ける。

未来へ進む。

十年後。

そこに、彼女はいなかった。

若木は目を覚ますと、いつも納得しなかった。

「おかしいな……」

「彼女は僕のことが好きなんだよ」

「絶対に好きなんだ」

「これは間違いないんだ」

周囲の人間は笑っていた。

「キャバ嬢に騙されてる」

「金を使わされてるだけだ」

「そんな女と結婚できるわけない」

それでも若木は、彼女を信じていた。

「僕には分かるんだ」

「絶対、分かるんだ」

そう言いながら、いつも最後には酔いつぶれる。

マスターはそんな若木を起こし、タクシーを呼んで帰した。

それが何度も続いた。



ある夜。

いつも若木と一緒に来ていた、キャバ嬢のゆうこが、一人で店に入ってきた。

「いらっしゃいませ」

「……マスター」

彼女はカウンターに座った。

「今日は、お一人ですか?」

「そう」

少しだけ笑った。

「マスター……」

「はい」

「私、この街を出ようと思ってるの」

マスターは黙って彼女を見る。

「何度も何度も彼にはプロポーズされている。でも私結婚するつもりはないの。」

「彼には告げずに」

「明日、この街を出る」

「そうですか」

「最後に、この店で飲んでおこうと思って」

彼女はグラスを見つめた。

「いつも彼が占ってもらってるでしょ?」

「はい」

「だから私も、一度だけ占ってもらいたい」

「何を見ましょう?」

彼女は少し迷った。

そして、静かに口を開いた。

「……もし」

「はい」

「もし私が、彼と結婚したら、どんな未来になるのかな」

マスターは何も言わなかった。

「私ね……病気なの」

彼女は笑おうとした。

けれど、うまく笑えなかった。

「お医者様から言われてるの。治らない病気だって」

「あと数年だって」

店内が静かになる。

「彼には言ってない」

「どうしてですか?」

「言ったら、きっと彼は私を一人にしないから」

彼女は俯いた。

「私が死ぬまで、ずっとそばにいると思う」

「だから……」

しばらく沈黙した。

「そんな人生を、彼に背負わせたくないの」

マスターはグラスを磨いていた。

「でも……」

彼女の声が震えた。

「本当はね」

「彼と結婚したい」

「彼と家庭を作りたい」

「彼から何度もプロポーズされて……私だって何度も考えた」

彼女は涙をこらえた。

「もし病気じゃなかったら」


「一度だけ見てみたい」

「彼と暮らす未来を」

マスターは静かに頷いた。

「承知しました」

照明が少し暗くなる。

「では――未来へ参りましょう」

彼女はカクテルを一口飲んだ。

瞼が重くなる。

そして、意識がゆっくりと遠ざかっていった。




「……お客様」

遠くから声が聞こえる。

「お客様」

彼女はゆっくりと目を開けた。

そこには、いつもの『占いの館』があった。

目の前には、飲みかけのカクテル。

「……」

「そろそろ閉店のお時間です」

彼女は何も言わなかった。

そして財布を取り出した。

会計を済ませる。

立ち上がる。

「……ありがとうございました」

マスターは静かに頭を下げた。

「こちらこそ」

彼女は扉の前で振り返った。

何か言おうとした。

けれど、何も言わなかった。

そのまま店を出ていった。

マスターは、しばらく扉を見つめていた。

そして気づいた。

彼女の頬には――

涙の跡が残っていた。




十年後。

届いた手紙には続きがあった。

『僕は今、とても幸せな日々を送っています』

『毎日、成長していく娘を見るのが好きです』

『子育てが終わり、彼女がもう少し大きくなったら、またマスターのお店で飲みたいです』


そして写真の女の子を見つめた。

「……お母さんに、そっくりですね」

もちろん、返事はない。

そこには亡くなったお母さんにそっくりな、9歳の女の子と若木が幸せそうに写っていた

店の中には、マスター一人。



そして、誰に言うでもなく、静かに呟いた。

「未来をお決めになるのは――」


「あなた自身です。」

店の灯りが、静かに消えた。

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