『天使行動(1987)』—— 80年代香港レディ・アクションの金字塔と、画面を焼き尽くす「過剰な火薬」の熱量
香港アクション映画の黄金期である80年代、スクリーンで火花を散らしたのは男たちだけではない。可憐なルックスの女優たちが、男顔負けの過激なスタントとノースタントの格闘に挑んだ「レディ・アクション」という一大ジャンルが存在した。
その決定打となったのが、1987年公開の『天使行動(英題:Iron Angels)』だ。
国内では長らく幻の作品扱いだったが、まさかの奇跡的に国内版DVDが発売された。……いや、まずはリリースしてくれたことに心から感謝したい。感謝したいのだが、ファンとしてどうしても言わせてほしい。
「なんで1作目だけやねん!!!」
できれば全3作を網羅した豪華Blu-ray BOXで出してほしかったし、なんなら同じくムーン・リー主演の傑作『殺手天使(1989)』までセットにしてコンプリートしてほしかったのが本音である。
とはいえ、この1作目だけでも手軽に観られるようになったのは間違いなく偉業だ。単なるアイドル映画の枠を完全に踏み越えた、80年代香港の「熱気と無茶」が凝縮された本作の魅力を語っていきたい。
■ あらすじ
国際的な巨大麻薬組織を壊滅させるため、民間組織の精鋭エージェントチーム「天使行動(アイアン・エンジェル)」が立ち上がる。しかし、組織の残忍なボスと、その側近である冷酷な女殺手(大島由加里)の凄まじい反撃により、チームは追い詰められていく——。
■ 見どころ①:ムーン・リーの「戦うヒロイン」への完全覚醒
主演のムーン・リー(李賽鳳)は、もともと可憐なアイドル女優としてキャリアをスタートさせた。しかし本作において、彼女の秘められた高い身体能力が一気に開花する。
小柄な体をフルに使ったキレキレの飛翔キック、容赦のない打撃、そして銃撃戦。後年の香港映画界を牽引することになる「最強のカンフー女優」としての覚醒の瞬間が、このフィルムには鮮明に刻まれている。
■ 見どころ②:西城秀樹と大島由加里、豪華すぎる日本勢の躍動
本作を語る上で外せないのが、日本から参加したキャスト陣の圧倒的な存在感だ。
悪役として登場する大島由加里の存在感はとにかく恐ろしい。ジャパン・アクション・クラブ(JAC)仕込みの圧倒的な脚技と鋭い殺陣は本物そのもの。ムーン・リーとのラストのタイマン勝負は、キャットファイトなどという甘い言葉では片付けられない、本物の格闘家同士の「肉体のぶつかり合い」として映画史に残る名シーンとなっている。
そして特別出演の西城秀樹は、香港エージェントの一人としてハードなアクションに挑戦。日本のトップスターでありながら体を張った本格的な演技を見せ現地でも大きな話題となったが、一説にはあまりに危険すぎるノースタントの爆破現場に「本気で命の危険を感じ、続編の出演を断った」とも囁かれている。日本の常識が一切通用しない、当時の香港現場の異次元すぎる狂気を物語る象徴的なエピソードだ。
■ 裏一筆:画面を焼き尽くす「過剰な火薬」と、その先にある影
『天使行動』を今観て最も驚かされるのは、クライマックスにおける凄まじい火薬量だ。
画面の端で本物の巨大な爆炎が上がり、吹き飛ばされるスタントマンたちの目と鼻の先で黒煙が上がる。現代の安全基準やCG演出に見慣れた目からすると、「これ、演者は本当に無事なのか?」と画面越しにヒヤヒヤさせられる。
実際、この時代のアクション撮影は文字通り命がけだった。 過剰な爆発演出と「本物の迫力」を追求し続けた香港映画界の現場環境は、このわずか2年後、1989年の『群狼大戦(Devil Hunters)』撮影現場における、ムーン・リー全身大やけどというあまりにも痛ましい事故へと繋がってしまう。
『天使行動』で見せる爆炎の美しさと熱量は、観客を熱狂させた香港アクションの「光」であると同時に、危険と隣り合わせだった「影」の歴史を如実に物語っている。
■ まとめ
CGも安全網もない時代、肉体一つと本物の火薬だけで観客を熱狂させようとした映画人たちの狂気と執念。
『天使行動』は、ムーン・リーという稀代のアクション女優の輝きとともに、二度と作ることができない80年代香港映画の破天荒さを今に伝える至高の1本だ。
いつか『天使行動2』『3』、そして(※タイトルが似ているだけで実はシリーズとは全く無関係な)『殺手天使』まで含めた「ムーン・リー無双・レディ・アクション完全補完Blu-ray BOX」が拝める日を夢見つつ、まずはこの1作目の圧倒的な熱量を体感してほしい。
