「2:6:2の法則」について
組織を運営するリーダーたちがしばしば直面する不可解な現象があります。それは「極めて優秀な人材ばかりを厳選して集めたはずなのに、しばらく経つとなぜかパッとしない層が一定数生まれてしまう」という悩みです。
この現象を説明する際、まことしやかに語られるのが「2:6:2の法則」です。集団は必ず「優秀な2割」「普通の6割」「パッとしない2割」に分かれるというこの説は、ビジネス界では半ば常識です。しかし、果たしてこれは抗いようのない「科学的な真実」なのでしょうか? それとも、人間心理が生み出した「都合の良い解釈」に過ぎないのでしょうか?
ざっとネットで調べた程度ですが、この法則に普遍的な科学的根拠はありません。「どんな組織でも必ずこの比率になる」と証明した信頼性の高い理論は存在しないのです。どこかにあるのかな?
「働きアリ」の観察記録で「一生懸命働くアリが2割、普通のアリが6割、サボるアリが2割存在し、働くアリだけを集めても再び2:6:2に分かれる」という話も聞きますが、これが本当だとしてもそのまま人間組織に当てはめるのもどうかと感じます。そもそも「優秀」や「ダメ」という定義が極めて主観的で、文脈によって動的に変化します。
営業組織、研究機関、軍隊、あるいは学校。
導入されている評価制度や、その時々のプロジェクトの性質。
管理職個人の価値観や、部下との相性。
これらが異なれば評価の尺度は根本から揺らぎます。あらゆる組織において機械的に同じ比率が適用されるはずはありません。出典不明のまま広まったこの法則は、科学的というより現場の感覚を強引に数値化した「経験則」という感じでしょう。
科学的根拠が乏しいにもかかわらず、なぜこの法則はこれほどまでに信じられているかというと、背景には正規分布の概念と人間の認知特性があるのではないでしょうか。
人間集団には、能力、成果、さらには「モチベーション」や「貢献度」において必ず「分散」「ばらつき」が生じます。統計的には多くの人は平均値付近に集まり、極端に高い、あるいは低い層は少数派になります。
さらに、人間には複雑な現実を「良い・普通・悪い」という3つのカテゴリーに分類することで認知負荷を下げようとする傾向があると思います。
中央が厚く両端が薄いという直感的なイメージが、2:6:2という覚えやすく語りやすい数字に当てはまったとき、そこに「法則」という名の意味を見出してしまうのでしょう。
また「下位2割を排除しても、再び2割のパッとしない層が現れる」という現象の正体は、個人の能力の問題ではなく評価の相対性ということでしょう。
例えば、日本最高峰の知性が集まる東京大学の中にも成績下位の学生は必ず存在します。しかし、彼らを社会全体という広い枠組みで見れば、極めて優秀な層であることは明白です。集団という閉鎖的な枠内で評価を下す限り、上位と中間と下位は数学的に不可避に定義されてしまいます。絶対的にダメな人がいるのではなく、比較の中で下位層が生まれるだけです。
「2:6:2の法則」を語る際、しばしば「パレートの法則(80:20の法則)」や「ABC分析」と混同されることがあります。しかし、これらには決定的な違いがあります。
パレートの法則(80:20): 「売上の80%は20%の要因(顧客や商品)から生まれる」という「成果の偏り」に注目した経験則。
2:6:2の法則: 成果ではなく人材構成そのものの分布。
在庫管理などに用いられる「ABC分析(重要度によるランク付け)」の手法を、そのまま人間に適用してしまうのも危険だと思います。商品を「売れないCランク」として整理するような分析を人間にあてはめることは、マネジメントにおける重大なカテゴリーエラーです。人間は物ではありません。環境や動機付けによってその価値を劇的に変化させる存在です。
この法則を「下位2割は不要だ」という切り捨ての口実にする管理職は、自らの職務を放棄していると言わざるを得ません。低評価の原因を個人の資質だけに求めるのは短絡的です。そこには必ずと言っていいほど以下のような「構造的な問題」が潜んでいます。
能力を発揮できない場所への「配置ミスマッチ」
失敗を許容しない文化による「心理的安全性の不足」
適切なフィードバックが行われない「育成の不備」
特定の評価基準に偏った「評価システムの硬直化」
ある部署で「下位2割」のレッテルを貼られた人物が、部署異動や上司の交代をきっかけにエース級の活躍を見せるなんて事例はけっして珍しくありません。低評価を個人の責任に帰結させることは、組織が抱える構造的欠陥から目を逸らすことに他なりません。
「2:6:2」という数字は、集団には必ずばらつきがあることを理解するための「便利な比喩」としては有益かもしれません。「全員が同じ成果を出し同じ熱量で働くはずだ」という幻想を抱くよりは、管理者に現実的な視点を与えてくれるでしょう。
しかし、この数字を「不変の法則」として盲信するのはどうかと思います。形式的な比率に一喜一憂するのではなく、なぜそこに「差」が生まれているのか、その背景にある環境や構造を洞察することが大切でしょう。
あなたの隣にいる「パッとしない誰か」は、現在の環境がその才能を眠らせているだけかもしれません😊
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