イチョウかモミジかクビアカか…地方工場の小さな世界で 〜本日も曲者あり〜
その人の名、来火(クビ)あかね。
もっとも私は別の名前で呼んでいる。
通称、クビアカ。
通称とは言うものの、使用しているのは私(波瀾ミチ)だけ。
もっと言えば、私(波瀾ミチ)の心の中でだけ。
面と向かって言えるわけもないから、心の内で毒づいているだけ。
つまり、私(波瀾ミチ)の器が小さいだけ、ということになる。
尚、クビアカは彼女の名前を縮めてできた愛称ではない。
この呼び名は、時折“彼女の首が赤くなる”という現象から進呈したものであって、彼女の首がいつも赤いという訳ではないのだ。
人の年齢が首や手に現れやすいことは、割とよく知られている。
いつまでも時を止めたままのように見える麗しき人の首にも、時に年輪は垣間見える。顔に比べて、首はきっと噓をつかない。
私(波瀾ミチ)はそれなりの時間を紙川工業㈱で過ごしたので、クビアカにお世話になったのはもう随分と前のことになる。
面長の直線的な顔立ち。
一文字眉の上で真っすぐに切り揃えられた前髪。
背中まで伸びた髪はオレンジ色に近い明るい色に染められ、
全体に細かめのパーマがかかっている。
肩幅が広いのはずっと続けているという球技のせいか。
筋肉質の身体つきに、どうやら海外営業部伝統の猫背と前傾姿勢(…?)が備わってもいる。
初めましての場面ではPUFFYを思い出した。
背景に流れる音楽は“アジアの純真”ではなく、運動会で流れる“剣の舞”だったのだけれど。
クビアカの髪形にはポリシーがあった。
子供が三人いて、フルタイムで働いていること。
協力的な夫君も仕事で忙しいこと。
削れる時間はとことん削りたいこと。
明るい髪色なら白髪は目立たないし、
細かいパーマは伸びても気にならない。(異論反論?お受けしかねます)
合理性を追求することで、時代を超えたPUFFYは誕生した…らしい。
そうなのですね?
とにかく行動が速い。
早口早歩きで仕事をテキパキと進めていく。
甲高いハスキーボイスで毒を吐くのも忘れない。
「私、できるんでぇ~。」
大門未知子が頭をかすめ、語尾を伸ばす話し方に気を取られながらも、
一緒に働いていた短い期間、私は彼女のデキル発言を信じていた。
出戻リエさんが紙川工業㈱を去ってすぐに人事異動があり、
リエさんと犬猿の仲だった部長は他部署へと異動になった。
新たに部長となったのは元々副部長だった減田(ゲンダ)さんである。
彼は一見当たりが柔らかく穏やかな印象なのだが、これまた癖ツヨな人物だった。(減田さんのエピソードだけで何文字書けることだろう…今回がクビアカのお話であるのは非常に残念!)
減田さんはとにかく事なかれ主義なのだ。
部長であるはずなのだけれど、思考回路はどうやら上役のソレではない。
そういうわけで、クビアカと減田さんの相性は最悪だった。
自分が仕上げた仕事に減田さんの印鑑をもらって、早く自らの責任を手放したいクビアカと、可能な限りの確認と責任をクビアカ自身にさせるまで印鑑を押したくはない減田部長。
二人の言い争い、というよりクビアカのハスキーボイスはどんどん大きくなるばかり。
周囲は聞こえないふりを決め込む、というより日常茶飯事として受け入れている様子だった。
そんな口論!議論が起こるたび、いや…その前段階でも気分が高まっていると、クビアカの首は赤くなった。
リトマス紙が酸性を示すように、しっかりと赤くなった。
日焼け止めやファンデーションを重ねるせいで、顔は変化を起こさなくなるのだろうか。一方で、彼女の首はとても正直だった。
私(波瀾ミチ)の発見。
クビアカの感情バロメーターを体得したのは、自身でそのような状況を何回も!作り出したからに他ならない。
ダイエット失敗を誇る猛者の皆さま、
紙川工業㈱には食欲不振企画の在庫が膨れ上がっているのですが、
転職をお勧めすることはできません。
悪しからずお含みおきください。
