答え合わせの続き…結婚はしないと言ったあなたへ
「今日私は、答え合わせをしている気分です。」
覚えているかしら。
これは、先月末のあなたの結婚式で私が話し出した一文です。
あ、正確には二文めになるのかな。
プランナーさんの最初の質問は、
「○○さんの(娘の名前)花嫁姿を見て、お母様はどう思われましたか?」
だったから。
私ね、この質問に何て答えたのかはしっかりと覚えているのよ。
「ごめんなさい、親バカ発言をどうかお許しください。『我が娘ながらどうしてこんなにキレイなんだろう』と思いました。」
そうそう、それから。
私はこの時、次の質問が飛んでくると思ってはいなかったのね。
だって私がマイクを向けられたのは、新郎のお父様が立派なご挨拶をされた後のこと、スプレー菊や薄いピンクの大輪のガーベラにグリーンや名前の分からない可憐な花が添えられ、清楚で淡いトーンにまとめられた大きな花束を抱えて、私はすでに結婚式を終えた花嫁の母と化していたのだから。
「○○さん(娘の名前)のために遠くからお集まりいただいたゲストの皆さんに向けて、お母様からも一言お願いします。」
あらあらそうなの、そうなのね?
「聞いてないよぉ…」は通用しそうにないわよね。
なんとかしなくては、と悟った脳細胞がカチャカチャと音を立てているかのように感じられました。(頑張れ、シナプス! 語れ、花嫁の母!)
「今日私は、答え合わせをしている気分です。娘からいつも皆さんのことを聞いていたので、既視感があって、初めてお会いした気がしません。」
緊張していないつもりだったけれど、そこそこあがっていたのかな。
挨拶の記憶は、曖昧というよりほぼゼロでした。
それゆえこちらは、動画から起こした言葉達なのです。
おしゃれなスーツに身を包んだ我が家の黒一点、女子力強めな長男がポロポロ涙しながら撮ってくれた動画を、顔から火が出るような思いで視聴し文字を起こしてみました。
「○○(娘の名前)が帰省して現在の住処に戻るとき、私はとっても寂しいのですが辛いと思うことはないのです。それは○○さん(夫クンの名前)や○○家(新郎側苗字)の皆さんが娘を大切にしてくださっているのがよく分かっているからです。」
ほうほう確かに、こんなことを話した記憶がかすかに残っています。
(それにしても、人前で話している自分の姿を見るのは苦行ですね…)
「○○(娘の名前)が○○さん(夫クンの名前)に巡り会えたこと、皆さんと出会えたこと、その幸運とこれまでの彼女の努力を讃えたいと思います。」
式場となったレストランには、幼少時から現在に至るまでの写真が、ゲストや家族とのコメントを絡めてたくさん飾られていました。
幼い頃より娘の風貌はあまり変わっていません。
恐ろしく小さな顔に大きな目がキョロキョロ、スッとした鼻筋にご愛敬のモンチッチ耳。私との共通点はなく同じなのはなぜか血液型だけ(苦笑)…親バカが過ぎるのは承知のうえですが、なかなかどうして!目を引く子ではありました。
幼稚園では、「お友達が一周走ってバテる運動場を、五周走ってもまだ体力が残っているようです。」と先生に褒められ?ました。
好奇心の赴くままに、やってみたいことは全部やる!納得できるまでやる!そのためには努力も厭わない!
体力と行動力にあふれた娘の長所は、多分に父親より受け継がれたものなのでしょう。しかしながら、彼女はそのことを受け入れられませんでした。
外では完璧な父親が、母親を執拗に痛めつける別の顔を持つ人物だということに、気が付いていたからです。
三人兄弟の長女として母を思いやりながら成長していく過程で、彼女が口にするようになったことがありました。
「私は結婚しないと思う。」
ごめんね。
結婚はしてもしなくても良いけれど、そんな思いに至った彼女の痛みが悲しくて申し訳なくて、謝っては彼女に叱られました。
そして、時は流れます。
夢のために浪人し、一人暮らしを始めて新しい出来事や心を許せる人達に出会い、資格を取って働くようになった彼女は“宣言”を取り消すこととなったのです。
「また、いつも深い愛情で私達家族を守り、支えてくれている私の両親と妹家族に心から感謝しています。」
シングルマザーとなって両親の住む地域で新しい生活を始め、16年のブランクを経て働き始めた私は数多の厳しさに直面しました。以前のように子供達との時間を取ることはできず、時代ゆえの風当たりも経験しました。でも、私達は決して孤独ではなかった…いつも温かい眼差しに支えられていたのです。
「もう一つ、最愛の子供達へ。私をこんなにも幸せな気持ちにさせてくれてありがとう。○○さん(夫クンの名前)娘をよろしくお願いします。」
見た目は少々チャラいけれど、真夏のストーブのような熱量(熱さ?暑さ?)をもつ弟と、シルバニアファミリーの匂いをまといつつも我が家のブレーン的存在である年の離れた妹。そして、努力家で行動力があって華もある長女のあなた。お礼は自然に口をつきました。
私の脳細胞よ、即興によく付き合ってくれました。
カチャカチャ音に感謝。
部屋に飾ってある花束のせいでしょうか。
私はまだ、あの素敵な結婚式の余韻に浸っています。
桜色の大きなガーベラを見ていて思い出したことがあるのですよ。
「チレーねぇ~。」
道端の小さな花を見つけては私の顔を覗き込み、得意そうな表情を浮かべる愛らしいあなたのこと。
「○○(娘の名前)はキレイなものを見つけるのが上手だねぇ。」
と返したが最後、水たまりや光っていた缶のフタ(もしやカラスか?)にまで“チレー発言”は繰り返されたのでした。
花束から始まった結婚式後の答え合わせ。
「ありがとう。」
