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ジョーズをBGMにキングコングは正面衝突を選ぶ…地方工場の小さな世界で 〜本日も曲者あり〜

Ms. 出不精具レイ。(ミズ. でぶすぐ レイ)

風貌キングコングにしてテーマソングはジョーズである。
いささか年代物ではあるが、お伝えしたいのはその威圧感…とにかく、近づけば分かる。

大地を踏み締める立派なおみ足には高めのヒール、光り物好きが窺える肩のバッグ。高彩度の口はへの字の癖がつき、漆黒のラインに縁どられた目は一層大きく見える。不機嫌でたぶん不摂生でもあるふくよかボディは炎や冷気を放出するので、すれ違い際には細心の注意が必要だ。

自分の記憶を疑いたい、そんな出来事がある。すれ違いとは名ばかりの、接触のない正面衝突。

一番遠い工場からの帰り道、前方にMs. 出不精具レイの姿をキャッチした。高鳴る鼓動。しかしそこは、工場間の社用車も走る一本道、逃げ場はなくともスペースはある! 私(波瀾ミチ)はできるだけ端の方に寄ってやり過ごす作戦に出た。

「おつかれさまです」と頭を下げている間に任務は滞りなく完了する予測ゆえ、不測の事態などは想定していない。だってタダのすれ違いなのだから。なのに? なぜだろう、Ms. 出不精具レイがこちらに近づいて来るような気がした? いや、まさかね? 私(波瀾ミチ)ド近眼だし、錯覚?

ピーカンな昼下がり、頼りになる工場の長老達の姿は見えない。「誰か来て?」 今ならバカ殿様の真似だって歓迎する。でも実際は、暑過ぎて虫一匹飛んでいなかった。害虫を手で払って逃げる策も尽きた者に迫り来るのは風貌キングコングもとい、Ms. 出不精具レイ。なぜ近寄って来る? 余白は明白なのに? 自然、歩くペースが落ちていく。そんな自分に嫌気を感じながら、どうか幻覚であって欲しいと願ってしまった。

でもやはり、気のせいではなく、彼女は真っすぐこちらに向かって来て、至近距離で止まった。驚きが過ぎて声が出ない。目を見開いて息を止めた時間にして数秒、でも感想としてはちょっと長め。ひょっとして殴られるのかもしれない、と思ったが、Ms. 出不精具レイはしばし無表情で舐め回すようにあちらこちらをジロジロと見やった後、ドスンドスンと去っていった。有り得ない有り得ない有り得ない…事実なのに証人がいない、目撃者はゼロだ。意味不明、目的も不明? いや、誰も見ていないことを確信しての実行だったのだろう。彼女にしても愉快ではなかったはずなのに、一瞬のニヤリが顔に浮かんでいた。

名誉のために付け加えると、Ms. 出不精具レイのビックリ行動はある特定の人物にのみ行われていた訳ではない。好き嫌いの激しさで振り分けられてはいるものの、基本、女性、その他、敵と認識した人。自分と同世代には特に憎悪が沸く構造のようだった。あちゃぁ、全てに当てはまる。


度重なるMs. 出不精具レイの暴挙に対して、老若諸先輩方は言ったものだ。
「もっと強く出りゃえぇ!」

そしてこうも言った。
「波瀾ミチに反論は不可能!」

工場やその他面々の優しい過小評価は耳に届いていたが、こちとて海千山千を越えて来た身である。明らかな仕事妨害を前に、実はやっつけ可能なのでは?と密かに考えてもいた。さては一戦を交えるか…しかし、争ったところでお互いが傷を負うだけ、気持ちが晴れることもないだろう。起こった出来事はその近辺でサクッと流す努力をしたほうがよい。行うは難しを認識しつつ、カメ子の甲羅は厚いのである。

常時携帯の不機嫌を手放して、人的差別及び好き嫌いの抑制に努め、少しリップを抑えれば、Ms. 出不精具レイとて、ここまでゴージャスに周囲を威圧したりはしない気がする。引き算すれば良いのに、彼女は事故を起こし過ぎていた。


紙川工業㈱では始業のチャイムの後、それぞれがラジオ体操を始める。
そんななか聞こえてくるのはハイヒールの悲鳴、そして現れるMs. 出不精具レイだ。駐車場近くにある工場の入り口で、始業直前に打刻しているから遅刻にはならない。ラジオ体操は業務ではない、という解釈なのだろう。ただ果たして、課の朝礼には間に合うのだろうか?


誰も何も言わず、言うを放棄している。
日々の積み重なり、増長は増長を呼びMs. 出不精具レイはアラフィフにして今もまさかの成長期。自分ファーストで、自らを窮屈に追いやっている。

終業のチャイムが鳴ると同時に席を立ち、鳴り終わる前に事務所から消え、帰路も好きな場所を選んで歩いていく。

一方私(波瀾ミチ)は、今日も道の端の方を歩いていく。だってその方が平和で安全だから。猛獣の足音に耳を澄ませながら、足元はスニーカー一択である。

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