【たった1冊だけ。声が出なくなった絵本】10年で涙がこぼれたのは、この1冊だけでした。
読み聞かせといえば、
笑ったり、ほっこりしたり──
そんなあたたかな時間だと思っていた。
けれど、10年読み聞かせを続けてきて、たった1冊だけ。
読んでいて、声が出なくなった本がある。
その本は、図書館で偶然、手に取った。
背表紙には『二平方メートルの世界で』いう文字。
「ずいぶん狭い世界だな」と思い、何かひっかかって、手に取った。
表紙を見た瞬間、ピンときた。ベッドに立つ女の子の姿。
これは、入院や病気の話かもしれない。
これまでそういう本は、避けていた。絶対にあの辛い時期を思い出すから。
でもその日、私はなぜか借りていた。
息子にも入院していた記憶はあるみたいだから、
「過去を知ってほしい」
そんな気持ちが、私の背中を押した。
もう借りられるようになっていた。
それくらい、あの日々は私の中で
もう、“向き合える” 過去になっている。
読み始めてすぐに、これはノンフィクションだとなんとなくわかった。
主人公は、小学3年生の女の子。
自分の病気の経験から気づいたことを、自らの言葉で綴っていた。
この絵本を読んだのも、息子がちょうど同じ3年生のときだった。
どの言葉も、せつなくて。
気持ちが胸に迫って、はじめて、声が出なくなった。
病院で過ごす子どもたちが感じる、言葉にしにくい孤独が、
この本にはそっと描かれていた。
「どうして自分だけ?」「泣いてもしかたない」──
そう心の中では思っていても、
周りには、同じように頑張っている子どもたちがたくさんいて、
言葉にすることなく、静かに日々を受け止めている。
それだけではなく、
入院によって家族の生活がどう変わっていくのか。
そんなことまで幼い彼女には、ちゃんと見えていた。
夜中の怖さも、毎日の薬も、本当はいやなのに、
それを口にしたら、周りを困らせてしまう気がして、言葉を飲み込む。
病気はつらい。
でも。明日がどうなるかなんて、病気じゃなくても、みんな同じ。
そのことばが、あまりにもまっすぐで。
伝えようとしていることが十分すぎるくらい伝わってきて、読めなかった。あの頃の記憶と、すべてが重なってしまって。
私は涙もろいほうでは決してない。
出産してからは少し変わったけれど、幼い頃から、人前では泣かない。でもこの日は、ちがった。
あの頃のことが思い出されたのと、
こうしている今も、病院には、さまざまな病気で辛い思いを抱えている子どもたちがたくさんいる。
わたしたちは運よく、自宅というこの上なく幸せな空間で、毎日を過ごせている。そう思ったら、言葉が詰まってしまった。
こうやって今、自宅で家族そろってご飯をたべて、息子と絵本を開けるという環境。
なんという幸せな空間にいるのだろうか。
私は大人になって息子が入院するまで、こんな当たり前のことが全然わかっていなかった。
病気で苦しむ子どもたちは、世界中にたくさんいる事実は、もちろん誰でもわかる。
わかるけれども、特別な入院経験もなく、ほんとうに表面でしか理解できていなかった。
それなのに、彼女は小学3年生という年齢で、ほんとうに「深くまで」見えているということ。
その子どもたちの中でも、言葉にできる自分が、「いま」表現できるから、文字を残そうと決めたという彼女の強さに圧倒された。
気づかれないように、喉にツーンとした痛みを感じながら、最後までゆっくり読んだ。
もしかしたら、あの朝。
息子は気づいていたかもしれない。
それでも息子は、なにも言わなかった。
いつも通りの顔で、学校へ行った。
涙を誘う絵本には、これまでにもたくさん出会ってきた。
でも、10年間で、涙がこぼれたのは──
この1冊だけだった。
作者の海音さんも伝えているように、病気の人も、そうでない人も──
ふだんは気づかず通り過ぎてしまうことを、そっと手渡してくれる絵本です。
「生きていることのすばらしさは気づきにくいということも、わたしは知っている。」
この一文が、読むたびに違うふうに響く。
私にとって、そんな絵本になりました。
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涙の理由は、ひとつではなかったと思います。
読んでいるうちに、「あの時間」がよみがえったのも確かで──。
よければ、こんな記事も、そっと置いておきます。
▶【小児病棟で泣いた春】車椅子のキミと、公園でお弁当を食べた。
--------------
読書が“習慣”になっていった日々のこと
▶「1万冊なんて無理!」と思ってた私が、10年読み聞かせを続けられた理由。
▶ 【ひとり読みのその前に】親がそばでできる10のこと。
すべて、あの時間と、今につながっています。
📌追記(2025.7.12)
この記事は「note編集部の今日の注目記事」に選んでいただきました。読んでくださった方、ありがとうございます。
これからは、「読み聞かせ」から「ひとり読み」、そして中学受験へ向かう日々のなかで、
こどもと向き合うことで見えてきたことや小さな気づき、ときにはぶつかった壁のことも、少しずつ綴っていけたらと思っています。
よかったら、あなたの「忘れられない1冊」もぜひ教えてください。コメントで読ませていただけたら、とても嬉しいです。
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