ショート: 星から来た男②
「夜桜というより、夜葉。ヤバっ」
コンビニへ行った帰り道、キンクマははしゃぎながら桜の下、動画で覚えたダンスを踊る。
小さくてまん丸な体型だったハムスターが、人間になると指先が伸び、動きが機敏でしなやか。
今どきの若者はスタイリッシュだ。
通販で買ってやった服は、着こなしがシャレて、「横浜生まれの都会育ちは違うなぁ」
親が子を見る目でキンクマを眺めてしまう。
「ねぇ、タツジュンが出張に行ってる間に色々検索したんだけど。僕、人間として生きて行こうと思うんだよね。というか人間じゃん」
踊るキンクマが何を言い出すかと思えば、決意表明で「そっち⁈」
キンクマは飛び跳ね、桜の葉を千切り、ついでに口へ入れてモグモグし始めた。まだハムスターの名残がある。
「人間並みの知識と言語能力があるし、本体……じゃなくて、この身体の持ち主を探すより、僕は僕のままが、この身体の持ち主も喜ぶと思うんだ」
「どうしてそう思うんだよ。
ああ、キンクマくん。俺と別れるのが寂しいんだろ」鼻でせせら笑う。
「ううん。
ネットで記憶喪失を調べるうちに、身体の持ち主は辛い経験をして記憶を失ったんじゃないかと思うんだ。普通はさ、身体の持ち主に家族が居たら捜索願を届け出たり、SNSで行方を呼びかけたりするでしょ。でも、それがなくて」
葉っぱを頭に乗せ、両手を合わせたキンクマは、
「つまり、僕はタヌキみたいに化けて生きるよ。
新しい戸籍を作って、高卒認定試験を受けて、人間として生きる。ペットじゃないじゃん。
いつまでもタツジュンに迷惑かけられない」
目を細めた表情がアンニュイで、でも覚悟のある口元へ、俺は何も言えずに言葉を飲み込んだ。
寂しそうなキンクマを見ていると、星に送ったアイツが戻ってきたみたいでさ。
「異世界転生モノなら、お前は御令嬢だったのに。
ツンデレ夫と幸せに暮らせたのにな」
「そんなもんは望まないよ。もっと長く生きられる可能性を手に入れただけで恵まれてるよ」
街灯がキンクマの目から流れる粒へ反射し、
人間臭い、どこにもファンタジー要素がないリアルを示しているようだ。
「キンクマが良ければ、うちに居ろよ。
あのマンションはお前の家だ。帰る場所があるなら遠慮はしなくていい。
戸籍も俺と遥香の子どもでよくないか?
遥香が喜ぶぜ」
夜風が若葉をしならせ、キンクマの長い髪が顔にかかる。表情はよく見えないが、明らかにキンクマは泣いているのが分かった。
