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【最終章:後編】勇者よ 何ゆえ もがき生きるのか?

こんにちは!まる。です。

創作小説『勇者よ 何ゆえ もがき生きるのか?』、今回でついに最終話となります。

ここまで一緒に走ってきてくださった皆様、本当に、本当にありがとうございます!



▼前編はこちら!


📗用語
本編を読む前に、少しだけ世界観の用語をご紹介します。

・アルカステラ
星をモチーフにしたカードの精霊たち。
プレイヤーは相棒となるアルカステラを集め、
彼らを駆使して戦う「ステラバトル」に挑みます。

※普通の人たちは、18歳を迎えると彼女たちの声を聴いたり、
姿を見たりすることができなくなってしまいます。



・WCS
「ワールド・チャンピオンシップ」の略称。
世界一のステラバトラー(カードプレイヤー)を決める、最高峰の大会です。

詳しくは、こちらを見て頂けるとより楽しめるかも知れません。

▼星の精霊アルカステラについてはこちら!

▼世界観についてはこちら!





#17 エンディングまで泣くんじゃない

※本楽曲はSunoAIを使用しております。

数千万のユーザーが押し寄せる喧騒の裏側。


『湯間ガーデンタウン』のプライベートサーバー内に構築された、誰もいない簡素なデジタル食堂。


創助は、その一角の席にアバターを座らせ、静かに待ち人を待っていた。



「やぁ」



やがて、招待URLから一つのアカウントが滑り込むように入室してきた。


ノイズすら一切立たない、あまりにも自然すぎる挙動。
現れたのは、デフォルト設定のままのシンプルなアバターだった。




ロマン・ウェッブ博士。





エーテルを発見し、その技術で星の精霊アルカステラという人工生命体を創り上げた偉大なる科学者。





年齢、国籍、性別、そしてエーテルを制御するその技術の根源。





すべてが謎に包まれた人物だ。





一説には、複数人の天才による組織名であるという説や、
地球外生命体説、はたまた影で世界を支配する一族の末裔など、
ネット上では常に彼にまつわる陰謀論が絶えない。





そんな雲の上の存在と創助が知り合ったのは、あの花火大会のあと。







『面白そうなことをしているね』







絶対に特定不可能なはずの創助の管理者アカウント宛てに、
匿名で一通のDMが届いたことがきっかけだった。






「……時間があまりないので、単刀直入に本題に入る。
俺からの要望は二つ。
一つは、NASAに観測データを渡してもらうこと。
もう一つは、レビィ……いや、アルカステラについて、俺の質問に答えてもらうことだ」




創助が画面越しに告げると、真っ白なアバターはふわりと首を傾げた。







「あぁ、その内の一つはもう達成されたよ。
きみの願い通り、きみたちが世界中から集めた莫大なエーテルは、
今この瞬間、然るべき防衛システムへと流し込まれた。
……きみたちの勇気ある行動が、この八十億の人類を救ったんだ。
おめでとう」




パチパチパチ、と無機質な拍手のエモートが画面に表示される。




その声音には、まるで子供が積み木遊びの完成を無邪気に喜ぶような純粋さと、
他人の命のやり取りすら盤上の出来事として俯瞰しているような、
おぞましいほどの冷徹さが同居していた。



一介の高校生が、NASAという巨大な機関とリアルタイムで繋がり、システムをハックするなど本来なら不可能だ。


だが、ロマン博士の研究功績は宇宙探査においても目を見張る実績を誇り、絶対的なコネクションを持っていた。


最初は断られること前提の、藁にも縋る思いでの直談判だった。

だが、彼は「いいよ」と、まるで夕食のメニューを決めるような手軽さで二つ返事で快諾したのだ。




「そして、アルカステラについてだったね。……アルカステラとは何か」




ロマンの声が、ふっと一段階低くなる。


それは、真理を説く哲学者のようでもあり、新種のアリを観察する少年のようでもあった。




「誤解を恐れずに言えば、彼女らは『プログラム』ではない。
我々の住む三次元宇宙よりも上位の次元層……いわば高次元の海に漂う『意志の残滓』だよ。

ボクはそれを、人間の脳が知覚し、干渉できるギリギリの解像度にデコードし、カードゲームというインターフェースを被せたに過ぎない。

きみたちが『エーテル』と呼んでいるエネルギーは、
次元間の情報の浸透圧を利用しただけの、極めて理路整然とした物理現象さ」



人間の理解を超えた超常的な事実を、ロマンは息を吐くように淡々と語る。



「……なら、レビィも、その高次元から来たってことなのか?」
「そこなんだよ」



真っ白なアバターが創助へと顔を近づける。
その時初めて、ロマンの声に純粋な『知的好奇心』という熱が混ざった。




「『シューメーカー・レビィ』。
……彼女だけは、ボクの観測網システムに存在しない」

「……存在しない? でも、俺は現にレビィと……」

「うん。きみは観測しているし、触れ合っている。
それが最高に面白いんだ」



ロマンは、心底楽しげに笑った。




「彼女は、ボクが定義したアルカステラじゃない。
強いて論理的な解釈を与えるなら……並行宇宙パラレルワールド
あるいはさらに高位の多次元領域から、きみという特異点――きみの持つ強烈な『エーテルの引力』に引き寄せられて、次元の壁を透過してきた未知の観測体だ。

……例えるなら、きみの切実な願いがこの宇宙のシステムの脆弱性バグを突いて、
たった一つの『奇跡』をダウンロードしてしまったようなものかな」





創助は、息を呑んだ。自分とレビィの出会いは、ただの偶然ではなかった。

自分の空っぽな願いが、途方もない次元の壁を越えて、彼女をこの世界に引っ張り込んでしまったのだと。










「……彗星は」









創助は、乾いた唇を舐めて、最大の疑問を口にした。





「あの『2026 JH2』は、一体なんだったんだ?」




目の前の人物が全能な存在とは思っていない。
だが、世界の理を知り尽くしたこの男には、聞くしかなかった。




願いの力エーテルには、プラスに作用するものもあれば、当然マイナスの反作用もある。

……きみも、ふとこう考えたことはないかい?

『明日、隕石でも落ちてきて、学校も世界も全部終わってしまえばいいのに』と」




──ドクン、と。

創助の心臓が、跳ねた。



それは、かつて自分が無意識に抱いていた、自己破壊的な逃避の感情そのものだった。




「人類は高い知性を得て、極限まで効率化の進化を遂げた。
……悲しいかな、それによって世の中には
『いっそ全てを終わらせてしまった方がエネルギー効率が良い』という真理に、無意識下で気づいてしまった個体が多く存在するんだ。

むしろ、絶えず生体エネルギーを消費し、変化し続ける不安定な状態である『生』こそが、生物にとってイレギュラーなバグなんだよ。
物質として安定した、完全に静止した状態こそが、宇宙の最適解なんだ」



ロマンのアバターが、創助の目の前でぴたりと静止する。
その冷徹な言葉は、容赦なく創助の心を抉っていった。



「世界中に蔓延する、その無数の『終わらせたい』という負のエーテルが、宇宙の物理法則を歪め、あの彗星の軌道を地球へと引き寄せた。
……つまり、あの彗星は『人類の無意識の願い』が呼び寄せた自滅のシステムオートスケールさ」




ロマンは、酷薄なまでに美しい真理を説くように、言葉を続けた。




「生きることは、苦しく、無駄が多く、常に負荷オーバーヘッドを伴う。

非効率の極みだ。 だからこそ、ボクはきみに問いたい。
システムとして完全に間違っていると分かっていながら――」



真っ白なアバターから、ぞっとするほどの知性と好奇心を孕んだ眼差しが、創助を貫いた。





「――きみは。何ゆえ、もがき生きるのか?」






#18 ゆうしゃよ なにゆえ もがき いきるのか?


『ゆうしゃよ なにゆえ もがき いきるのか?』



そう問われた時、果たしてどれだけの人間が、
明確な自分の答えを持っているのだろう。



少なくとも、十八歳という、大人と子供の境界線に立ったばかりの創助には、生きる理由なんていう大層な答えは、まだ見つかっていなかった。



だからこそ、彼が口にしたのは──あまりにも子供じみていて、理屈も何もない。

世界を救った勇者にしては、ひどく俗物的で、個人的な、たったひとつの願いだった。










「……それは、創作が楽しいからだ」

「創作、かい?」

「ああ」



創助は、俯いていた顔を上げた。
画面の向こうの白いアバターを、真っ直ぐに見返す。




「もっと色んなことを知りたい。色んなものを、俺の手で作りたい。
……まだまだやりたい事は山ほどあるのに、ここで世界が終わっちまったら──」


そこで一拍、間を置いて。

創助は、まるで悪戯を企む少年のような、不敵な笑みを浮かべた。





「──もったいないじゃんか」





デジタル食堂に、深い沈黙が落ちる。

やがて──真っ白なアバターの肩が、小刻みに揺れ始めた。



「……ふふっ」

「あははっ、あはははははっ!」




ロマン博士は、腹の底から楽しそうに、笑い声を上げた。




「なるほどね。……非効率の極みだ。
生命維持のコストを度外視してでも、『知りたい』『作りたい』という知的好奇心と、娯楽を優先する。
まさに宇宙の最適解に逆行する、最悪で、最高のバグだよ、きみは」



ロマンのアバターが、満足げにふわりと手をかざす。




「きみたちの無駄だらけの、
それでも『楽しい』という願いエーテルは確かに受け取った」





その指先が、ゆっくりと空中で持ち上げられ。




「さあ。大団円グランドフィナーレだ」





──パチン、と。

指が、弾かれた。

その、瞬間だった。











カッ────!!!







創助の部屋の遮光カーテンの隙間から、夜を昼に変えるほどの、強烈な閃光が差し込んだ。








NASAの防衛システムと連動した迎撃ネットワークが、
一億人分のエーテルを一点に収束させたエネルギーを放ち、大気圏外に迫っていた破滅の彗星『2026 JH2』を文字通り、宇宙の塵へと変えたのだ。



衝撃波もない。爆音もない。

ただ、光だけがあった。





「ボクの役割は、ここまでだ」





真っ白なアバターが、ふわりと一礼する。




「……素晴らしいエンディングを祈っているよ、
世界一の勇者クリエイターくん」




『ロマン・ウェッブ が ログアウト しました』




システムメッセージのポップアップとともに、真っ白なアバターは電子の海へと溶けるように消えた。

プライベートサーバーに、深い静寂が訪れる。

創助は、ゆっくりと息を吐き出した。長い長い、一夏分の呼吸だった。





「──おい! 創助! 外見てみろよ!!!」






須野尾が弾かれたように立ち上がり、遮光カーテンを勢いよく開け放って声を上げる。

床にずらりと並んだスマホを見つめていた京も、つられて顔を上げ──息を呑んだ。







細かく砕け散った彗星は、無数の小さな流星となって、
奇跡のように美しい光の雨で、真夏の夜空を染め上げていた。


まるで、誰かのために特別に打ち上げられた、たった一夜限りの花火のように。



「……終わった、の?」




京の声は、驚くほど小さかった。

指先で光の尾を追いながら、まだ現実感を掴めずにいる。



須野尾は何も言わず、ただ大きく息を吐き出して、
へなへなとその場に座り込んだ。






今日まで張り詰めていた気だるげな仮面が、初めて丸ごと剥がれ落ちた瞬間だった。



「……そっか。終わったんだ」



京がもう一度呟き、それからようやく須野尾と顔を見合わせて笑う。

安堵の吐息が、二人分重なった。







けれど、その輪の中に、創助はいなかった。





彼はただ一人、部屋の隅──もう誰も映らないモニターを見つめていた。



「……レビィ」




創助は、流星群を見上げながら、もう誰もいない空間に向けて、そっと呟いた。




「見てたか?」




返事はない。 分かっている。もう、彼女の声は聞こえない。

彼女の姿も見えない。


十八歳になったあの夜から、そのルールは適用されているのだ。





それでも、創助はもう一度、静かに笑った。




「──俺たちで作った、アプリが。……本当に世界を、救っちまったよ」




メインモニターには、『湯間ガーデンタウン』で楽しそうに遊ぶ、
数千万人のユーザーたちのログが、滝のように流れ続けている。






ビールを注ぐ音。
コーラのシュワッと弾ける音。
焼き鳥をひっくり返す音。
子供たちの笑い声。








そのどれもが、効率とは無縁で、生産性のかけらもなくて──ただ、楽しい。









ふと、画面の片隅──誰もログインしていないはずのゲストアカウント欄に、一瞬だけ見覚えのある赤い髪のアイコンが灯った、気がした。



瞬きをした次の瞬間には、もう消えている。


気のせいだ。分かっている。

分かっているのに、創助はしばらくその一点から、目を離せなかった。



(レビィの姿は、もうどこにもない。)

(…けれど。)



彼女と一緒に組み上げた、この『魔法の箱』の中でだけは
── 彼女がくれた勇気と、無数の人々の願いが。

今この瞬間も、確かに息づいていた。




夏休みの、夜。




それは、誰も知らない、勇者の物語。

小さな勇者たちが、小さな島国の、
四畳半の小さな部屋で──確かに世界を救った、夜だった。




▶かんそうせん へ(すみません、遅刻しました🙇‍♂️)


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