いい言葉は、響く日と響かない日があるから鰻食わせろ
いい言葉がやたら心に響く日と、まったく響かない日がある。
あれはおそらく、心のやさぐれ具合なんじゃないか。
私は仕事が忙しいと、心がすぐやさぐれ出す。
いつも一番前の席で、私の目を見ながら私の話を「うん、うん」と聞いてくれていた心が、ある日突然、一番後ろの席で机に足を乗っけてタバコを吸い出す。
もちろんアイコスではない。
紙タバコである。
「どうしたの?」と問いかけても、もう遅い。
うるせえ。
知らねえ。
今話しかけんな。
心は完全にやさぐれきっている。
そう、それもこれも、忙しすぎて心にかまってやれなかった私のせいなのだ。
おそらくこれは、そんな時に呟かれた一節なのではないだろうか。
夫に毎日毎日ご飯作ったり洗濯したり同じことの繰り返しで疲れたと言ったら、同じことの繰り返しが意外と幸せだったりすると言われた。うるせぇ、鰻食わせろ。
今は心が割と落ち着いているので、冷静に見られる。
夫はわりといいことを言っている。
毎日同じことを繰り返せるというのは、確かに幸せなことなのだろう。
ただ、何が悪かったのか。
タイミングなんじゃないだろうか。
心が紙タバコを吸っている状態の私に、正論や綺麗事はあまり通じない。
あと「意外と幸せだったりする」というのは、問題が過ぎ去った後に感じること。
絶賛やさぐれ中には絶対に響かないやつだと思う。
じゃあ、あのときの正解はなんだったんだろう。
「わかる。大変そうだなって思ってた。家事、外注してみない? ちょっと良さそうなところ探してみるね」
とか、どうだろう。
まずは共感。
そして、今この瞬間に疲れ切っている妻の状態をなんとかする。さらに、家事代行は便利だけれど、調べたり、比較したり、申し込んだりという新たな手間が発生する。そこは自分が引き受ける。
そして最後に、お金の心配をする私に、
「こんなときに使うもんだよ、お金ってのは!」
と笑って言ってくれたら完璧だ。
……いや、これはちょっとハードルが高い。
私の夫は口下手で、人間の心は半分ほどしか持ち合わせていない。
となると、もっと現実的な正解は、
「じゃあ、鰻でも食べに行く?」
なのかもしれない。
正論も、綺麗事も、いったん置いておく。
とりあえず鰻を食わせる。
それで心が一番後ろの席から前の席に戻ってきたら、落ち着いたところで、
「同じことの繰り返しって、意外と幸せなのかもね」
と話せばいい。
たぶん、そういうことなのだ。
いい言葉が届くかどうかは、言葉の良し悪しだけでは決まらない。
受け取る側の心が、今どの席に座っているのか。
それが大事なのかもしれない。
そして私の心が一番後ろの席で紙タバコを吸っているときは、とりあえず鰻を食わせておけばいい。
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