熱帯夜|あの夏の風は、どこへ #シロクマ文芸部
熱帯夜が連日続いている。
家族4人、別々の部屋でエアコンを朝までかけっぱなしで寝るので、電気代の請求が恐ろしい。
この家を建てた20年前、まだそこまで熱帯夜が続かなかった。
だから、風通しがよく涼しい、自然素材の家を造った。
柱はヒノキの芯持ち材で、ヒノキのいい香りが漂ってくる。
赤ちゃんだった娘のあのフワフワした髪の毛に顔をうずめると、いつもほのかにヒノキの香りがした。
壁材はホタテ貝の塗り壁。
漆喰のようだけど、ホタテ貝は化学物質の吸着や調湿効果もあって快適だ。
床と天井は、パインの無垢材。
裸足で歩くのがとっても気持ちいい。
火打柱にひっかけたハンモックは、娘たちがゆらゆら揺れてよく遊んだお気に入りだった。
ある日、その部屋で娘たちと本気の鬼ごっこをした夫が、ハンモックへ足からダイブ。
見事にひっくり返って骨折したのも、今となっては我が家の伝説だ。
切妻の三角屋根の屋根裏部屋は、娘たちの作品を飾るギャラリーでもあった。
ここには両側にしっかりと窓をつけたので、暑い空気を逃すことができた。
だから、家を建てて10年くらいはエアコンのない部屋もあった。
友達が遊びにくると、玄関に入るなり
「なにこの家、すごく涼しい!」と驚くのが、なんだか誇らしかった。
熱帯夜の日は、特別だった。
「今日はエアコンのあるリビングで、お泊まり会にしよっか」
家族みんなで布団を引きずってリビングに集まる。
ただ寝場所を変えただけなのに、娘たちは目を輝かせて「キャンプごっこだ!」とはしゃぎ、お気に入りの絵本を引っ張り出してきた。
あの時の子どもたちの嬉しそうな笑顔を、私は今でも鮮明に覚えている。
寝る部屋をリビングにするだけでなぜあんなにワクワクしたのだろう。
あれから、20年。
小さかった子どもたちは、すっかり大きくなり、各々が自分の部屋で寝るようになった。
あの頃「風が通り抜ける家」として雑誌にも載ったこの家を、
いま通り抜けていくのは30度を超える熱風だけだ。
そもそも窓が、開けられない。
なんだか切ない。
この夏も連日、危険な暑さが続いている。
みなさま、風通しのいいお家だったとしても、迷わずにエアコンをかけてどうか命を守ってくださいね。
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