見出し画像

何年も、同じ問いに答えを出せずにいる|持ち歩くことと、答えを出すことは、別のことだった

買い物帰り、鞄の内ポケットに手を入れました。
財布を出すつもりでした。

指先に触れたのは、財布の硬さではなく、厚みのある紙の感触でした。

四つ折りにされた、小さなメモです。

この紙に触れるのは、ずいぶん久しぶりのはずなのに、指はためらわず、その形をなぞっていました。


しばらく歩いたところで、立ち止まりました。
鞄の持ち手が、肘の内側に軽くあたっていました。

そのまま、広げてみました。


自分の字でした。
何年も前、まだ迷いの真ん中にいた頃に書いたものだと思います。
 


「このままでいいのか」
 


一行だけ、書いてありました。

続きは、ありません。
答えを書くつもりで、書けないまま、たたんでしまったのだと思います。


あれから、何年も経ちました。
毎日、何かはしていました。

それでも、あの一行にだけは、まだ続きが書けていません。


決められない自分を、どこかでせかしていました。
いつまで迷っているんだろう、と。


たたみ直そうとして、指先が気づきました。

紙の角が、少し丸くなっていました。
表面が、うっすらと光って見えます。
端のほうは、少し薄くなっている部分もありました。


書いたときには、なかった手ざわりでした。
 


開いては、たたむ。

その繰り返しの跡だったのだと、そのとき初めて気づきました。


本当に手放していたなら、この紙は、もうこの鞄になかったはずです。

今日も指が迷わず、この紙をなぞったのは、この問いを、まだどこかで覚えていたからなのだと思います。


決められないことを、進んでいないことだと、ずっと思っていました。

でも、開いてはたたみ、たたんではまた開いてきた、その繰り返しは、止まっていた時間ではなかった気がします。


問いを持ち歩くことと、答えを出すことは、たぶん、はじめから別のことでした。


一枚の紙に、その両方をさせようとしていたのかもしれません。


急いで書き足す必要は、もうない気がしました。

メモを、また四つ折りにしました。

新しい答えは、まだ書けません。
それでも、もう一度、内ポケットへ戻しました。


鞄を持ち直すと、いつもと同じ重さが、肘の内側に戻ってきました。

そのまま、歩き出しました。


ゆきの
 



【ココミチの「心の図書館」へようこそ】

この記事が、あなたの心に少しでも余白を届けられたなら幸いです。
「ココミチ」では、これからも心のゆとりと小さな気づきをお届けしていけたらと思います。


🌸 次に読む記事を探すなら
【迷ったら、まずここへ】

あなたの今の気持ちから、次の一冊を見つけられます。

いいなと思ったら応援しよう!