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弱音を吐けなくなっていった夜に|休符も、音楽の一部だった

こんにちは、ゆきのです。


「責任が増えるほど、弱音を置いていける場所が減っていった気がします」

面談室で、その言葉を受け取ったのは、夕方が少し遅くなった日のことでした。


別件で声をかけた相手でした。
廊下でよく会う人で、業務の話はする。
でも、それ以上の話をしたことは、ほとんどなかった。

その人が「少し話していいですか」と言ってきたのは、帰る前のことでした。


声は静かでした。
怒っているわけでも、崩れているわけでもなかった。
ただ、言葉が出てくるまでに、少し時間がかかりました。

私は、何も言いませんでした。
部屋の空調の音だけが、低くありました。


話が終わったあと、その人が立ち上がりました。

廊下に出るとき、扉を引いた手を、そのままドアに当てたまま止まった。

一秒か、二秒か。

振り返らずに、そのまま廊下へ出ていきました。


あの止まり方が、今も目の奥に残っています。
 


帰り道、建物の外へ出たとき。

足裏が、地面の固さをはっきり受け取りました。
一日分の重さが、そこに集まっているような感触でした。
頭が今日を整理するより前に、足はもう知っていた。


あの人の足裏にも、今日一日の重さが降りていたのだと思います。
扉に手を当てたまま止まった、あの一秒のあいだに。



相談室を片づけながら、考えていました。

責任を持つ側になるほど、弱音を預けられる場所が見えなくなっていく。
聞いてもらうことへの後ろめたさが、言葉を喉のほうへ向かわせない。

誰かのそばに立ち続けるほど、自分のそばには誰もいなくなっていく。


音楽に、休符があります。

鳴っていない時間も、拍の中にある。
音符と同じように、長さを持っている。


言えなかった夜の沈黙も、少し似ています。
消えたのではなく、拍の中に、ちゃんとある。
 


あの扉の前の一秒に、言えなかったものがあった。

そばで聴いていた人間は、休符の長さまで、受け取っていた。


私は、あの面談で何かを渡せたのかどうか、今もわかりません。

ただ、扉の前で一秒止まったあの人のことは、受け取っていました。

言えなかったものが、あそこにあった。
そのことだけは、確かでした。


ゆきの
 



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