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まだらの樹氷

 腐りかけの右脚を庇いながら、雪と腐肉が混ざった地面を踏み締め、ヨルニムは枯れた森を歩いた。

 眠る巨人の広間。枯れた森の中の平原で、座り込む巨人の死体があるからそう呼んでいた。
彼はそこに、よく見知った後ろ姿を見つけた。
巨人の死体の前に座る人影は、兄の朱色の防寒着を身に纏っている。

 「兄さん」
 ヨルニムは声を張り上げ走った。脚が痛もうが、構わず突き進んだ。
そしてその肩にぐっと指をかけた途端、人影はぐしゃりと崩れた。
ヨルニムはうっと飲むとも吐くともつかない声をあげて、潰れたそれを見下ろした。
ごろりと転がった死体、防寒着のフードから覗く顔は間違いなく兄のそれだ。
髪に、眉に、睫毛に、霜が下りていた。
兄はこの雪と腐肉の森の一部となった。

 しばし呆然としていた。
だからヨルニムは、目の前の巨人の、死んで動かぬはずのその睫毛に、霜が下りていないことに気づかなかった。
風の流れる音。ヨルニムは反射的に巨人を見上げる。
巨人が彼を見ていた。その両の眼は死体のそれではない。生きてぬらぬらと光っている。
まさか。巨人はずっと前に死んだ。死んでそこにあった!
だが巨人は身じろぎし、大きく息を吸い、吐いた。息がヨルニムの顔に当たり体温を奪う。
これは現実だ。彼はそう思った。

 「ヨルニムか」
 巨人はそう言った。喋れるのか。…なぜ私の名を。
その疑問を口に出すより先に、巨人はヨルニムの傍らを指さした。
雪の上から突き出る、これも見慣れた朱色。兄の輸送箱だ。
思い当たる節があった。ヨルニムはそれを雪中から引っ張り出す。
兄弟しか知らぬ解錠パターンを打ち込むと、箱は呆気なく開いた。
中にあったのは、小さな樹木。葉の緑はあまりに鮮烈で、二つ三つ実がついている。
「そこの男が持っていた」
巨人は崩れた死体に目を向けそう言った。
兄はどこでこれを。そう訊こうとしたが、できなかった。
「哀れな男よ…」
兄を見る巨人の目に、涙が溢れたからだ。

【続く】

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