⚜️ゴールド第0話③ 雫石一族
⚜️ゴールド第0話③ 雫石一族
ノアは、古い書物のページをめくりました。
そこには、見渡す限りの山々が描かれていました。
西の町を離れたカレナは、食料を探すため、さらに奥へと進んでいました。
道は、次第に細くなっていきます。
人の姿も、家の姿もありません。
ただ、風が木々を揺らす音だけが聞こえていました。
「この先に、人が暮らしているというのか?」
カレナが尋ねると、同行していた兵士が頷きます。
「古い記録に残っています。ですが、実際に見た者はほとんどおりません」
「なぜ、人里離れた場所に?」
「争いを避けている一族だと言われています」
カレナは、しばらく黙っていました。
やがて、山の奥に小さな光が見えてきます。
「……あれは?」

木々の間から、淡い青白い光が漏れていました。
カレナたちが近づくと、そこには小さな集落がありました。
畑があり、川が流れ、家々が静かに並んでいます。
そして、集落の中心には、不思議な石が置かれていました。
月の光をそのまま閉じ込めたような、透明な石。
淡い光が、石の中からゆっくりと揺らめいています。
「月雫石……」
カレナは呟きました。
古い記録で、一度だけ見たことがあります。
月の光を蓄え、大地と水を守ると言われる石。
「これは……」
「見事な……」
しかし、それは伝説だと思われていました。
「誰か来たぞ!」
集落の人々がこちらを見ます。
緊張が走りました。
剣を持った兵士たちを見て、何人かが家の中へ戻っていきます。
そのとき、一人の老人が前へ出てきました。
「ここに何の用ですか」
後ろの護衛がすぐさま剣を握ります。
「私はカレナ。北の宮殿から来ました」
老人は、カレナの剣を見つめます。
「戦いに来たのですか?」
護衛は老人の前に出ます。
「違います」
カレナは剣から手を離しました。
「この土地で、何が起きているのか知りたいのです」
老人は、しばらくカレナを見つめました。
「その紋章は……」
剣には、ゴールドの紋章が刻まれていました。
「あなたは、ゴールドの後継者様……」
老人は深く頭を下げました。
「よくぞ、我が地をお尋ねくださりました」
やがて、ゆっくりと頷きます。
「ならば、見ていきなさい」
カレナは集落へ入りました。

そこには、争いの多い町とは違う時間が流れていました。
人々は畑を耕し、川から水を汲み、互いに助け合って暮らしています。
食料が不足しているはずなのに、必要な分だけを分け合っていました。
「なぜ、ここでは争いが起きないのですか?」
カレナが尋ねると、老人は月雫石を見ました。
「欲しいものを、必要以上に奪わないからです」
「それだけですか?」
「それだけではありません」
老人は微笑みました。
「この石は、人の欲を満たすためにあるものではありません。大地を生かすためにあるのです」
月雫石は、長い年月をかけて大地に力を与えていました。
水を清らかにし、作物が育つ土地を守る。
けれど、その力には限りがあります。
だから一族は、月雫石を守りながら、必要なものだけを受け取り、次の世代へ繋いできたのです。
「だから、あなたたちは争いに関わらなかったのですね」
カレナが言うと、老人は静かに答えました。
「争いから離れているだけでは、平和とは言えません」
カレナが顔を上げます。
「では、どういうことですか?」
「誰かが苦しんでいるとき、自分たちだけが平和なら、それは本当の平和ではないのです」
その言葉が、カレナの胸に残りました。
自分たちは山の奥で静かに暮らしている。
けれど、山の外では人々が食料を求めて苦しんでいる。
「あなたたちの力を、この国は必要としている」
月雫石の力を独占することもできたはずなのに、この一族はそうしなかった。
この地域一帯だけは、平和な営みが守られている。
「月雫石を、より多くの人のために外の国へ渡すことはできますか?」
カレナが尋ねます。
老人は首を横に振りました。
「簡単にはできません。月雫石は、使い方を間違えれば大きな争いを生みます」
「だから隠しているのですか?」
「守っているのです」
その言葉に、カレナは気づきました。
もし、この石の存在が国々に知られれば。
食料不足に苦しむ国々が、この石を奪おうとするかもしれない。
そして、この一族そのものが争いに巻き込まれてしまう。
「奪うものから身を守るためですか?」
「奪ったとて……」
老人は、月雫石を見つめました。
「月雫石は、誰にでも力を与えるわけではありません。石が認めた者にだけ、その光を返すのです」
「無論、ほのかに光り輝きます。そして、純粋な血統を持つ者ほど、その力は強くなる。だからこそ、我々は守り続けているのです」
カレナは、月雫石を見つめました。
美しい光。
けれど、その光は同時に、大きな力。
「このことを、誰にも知られないようにします」
老人が驚いた顔をします。
「カレナ様……」
「そして、この一族を守ります」
カレナは、はっきりと言いました。
「月雫石だけではありません。ここで暮らす人々も」
その日から、カレナの考えは変わっていきました。
戦いを終わらせるためには、剣だけでは足りない。
土地を守る者。
作物を育てる者。
水を守る者。
そして、誰かと誰かを繋ぐ者。
それぞれの力が必要なのだ。
「あなたたちの、生きる技術は荒れた地に必要です」
「早急に、できる限りの食料を分けていただきたい。西の地は荒れています。他の地との争いになりかけています」
「再び、この地に戻る時。黄金の世界を守るために、力を貸していただきたい」
ノアは、そこでページをめくる手を止めました。
古い書物には、月雫石の絵とともに、隠者・雫石一族の絵がスケッチされていました。
小さな文字が、丁寧に残されていました。
「雫石一族……月の光と大地を守りし者。」
その文字を見つめながら、ノアは思いました。

月雫石一族の先祖……。
そして、ゴールドの勇者姫君。
王国血統の一族なのだろう。
だが、今。
ゴールドには王国はない。
聞いたことがない。
滅びたのか。
彼女の子孫は……。
未来は……。
ノアは、ゆっくりとページをめくります。
気がつけば、窓から朝日が差し込んでいました。
夜が明けていたのです。
(第0話 ③ 終)

いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします❣️運営費にします🌸iPad代金どうも有難うございます。チップってあんまりピン📍とこないのは🫢私だけ❓(いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! )