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日常へ。  3

腹が減った。 このバカはこの前危篤やったというのに、アホみたいに腹減った、と。

だってさー、おもゆ地獄から抜け出したー!と思えば、米粒が数えられるほどのお粥さん。 育ち盛りのオッサンには足らんて。 冬眠前のクマみたいに、徘徊ついでに院内コンビニで煎餅でも買おうっと!とアホ面丸出しでレジで待っとったら、ざーっと先生に見つかってぶっ殺されるか?と思うくらいに怒られちゃうし。 いたずらしたのがバレた小学生みたいにシバキ上げられるかと思ったわ。
そりゃあね、見たことのないくらいの点滴が鎖骨あたりにブチ込まれて、バチクソ栄養は摂れとるらしいけどさ。 その点滴の太さたるや、腕からチマチマと入れるストローのようなモノではない。
それにせっかく処置してもらった食道が、また破裂するかもって。 はい。ごめんなさい。

動くとかちゃかちゃうるせえのである。


普通の点滴なら 「はい、腕から一本入れますねー」で済むところ、こいつは違う。 心臓付近まで深々と刺してあり、一本なら分かる。二本でもまあ分かる。 三本となると配管である。 まるでプールに給水するんじゃねーの?くらいのシロモノですわ。
栄養はないけど腹が満たされるものの方が嬉しいのだ、オッサンは。

かくしてエサを食いっぱぐれたクマは、すごすごと巣穴へ帰るのであった。


二週間ほど収監されとったか?
やっと仮出所の許可が出た。 体調は、どこも痛くも痒くもない。
通常運行である。
それどころか、半月も休んだ。 バッチリ回復した。
ワシのいる観光バス業界は、いわゆる「シーズンイン」
あのコロナも鳴りをひそめ、西へ東へと忙しい毎日に放り込まれた。
世の中は動いている。
ワシらがコロナ禍で暇な時、高速道路は延伸するわ、知らんトンネルは貫通しとるわ、観光地の駐車場は様変わりしとるわ、各地の侵入経路も変わり散らかして新人ドライバーの頃のように勉強したり、地元のバス屋さんに聞いて回ったり。 ちょっと懐かしい気分に戻ったりして、楽しく仕事しとったなー。
そんなこんなで、二年ほど普通に仕事をしていた。
元通りに。
何も変わらない元通りの生活を送っていた。 華の40代(当時)、脂が乗ってるのはハラだけじゃねえぜ!
絶好調だった。

そんなある日、なんか体がだるい。重い。(うるせえのである。)
なんかおかしい。
ここんとこ調子こいて仕事しすぎたなー。 
二年前の、ざーっと先生の話なんかこれっぽっちも覚えてなかった。

「色々と不都合なことが起こります。 その時が来たらまたお話ししましょう」

確かこんなことを言われたよな・・・。
いやいや、ちゃんと薬を飲んどるし、毎月血液検査もしてもらっとる。完全に酒はやめた。

大きな病院?

そんなもん、とっくにアルカトラズ島に埋めてきた。

ところがどっこい。 アルカトラズ島から、出頭命令が届こうとしていた。

ちょっと待てよ。こちとら二年間、真面目に仕事をしてそれなりに頑張っとったんやぞ? 
もうあの島のことなんぞ忘れとった。
腹も減った。それがどうしたw

ところが身体のほうは、ちゃーんと覚えとったらしい。
だるい。重い。すぐに疲れる。 一気に80歳くらいになったような感じ。

でもな、最近忙しかったしさ。疲れが溜まってきとるだけやろ。うん。
そうに違いない。 もう今日は早く風呂に入って寝よ。

だが翌朝。
事態はワシの診立てとはだいぶ違う方向へ転がり始める。
いつも通り歯を磨いて顔を洗って、タオルを手に取り鏡に映った顔を見た。
顔を拭いてもう一回見た。
目を擦ってもう一回。
照明を点けてもう一回。
謎に屈伸をしたりしてもう一回。

黄色いのである。
パンツがではない。
顔が。白目が。
待て待て。一気に脈拍が跳ね上がる。

ここは一度トイレに座って、落ち着こう。
でも、したくないものは出ない。
しゃあない、出勤時間も迫ってきた。 一旦出よう。
で、流すボタンを押そうと指を流すボタンに添えて、便器の中を見た。
ワシが使っただけやろ? 他に何も投入してへんよな?


なんで麦茶がそこにある?
おしっこが麦茶色しとる・・・

あかん、うんこしたくなってきた。
もう一回便所に座って、一応スッキリはした。

スッキリはしたんやけどさあ・・・・・・・

今度はうんこが白いやんけ!

今朝はどうなっとるんじゃ?顔は黄色い、オシッコは褐色、目は黄色い、うんこは白い。。。。
今度は目がおかしくなったのか?
明らかにおかしな色はしとるけど・・・・
これはもう素人がどうのこうの、と出来る問題じゃないんだけはよーく理解できた。
その晩、ヨメ氏に乗せてもらって夜間外来へ向かった。
その頃になると、身体が重くて満足に歩けへん。

そして診察の結果を待つ間 「まあ、明日になりゃ治っとるやろ」
と思いたかった。 そう思うようにしていた。

しかし人間という生き物は、こういうピンチやよくない状況の時ってなんでこんなに時間を気にするんやろ? いつも思う。
「どれくらい経った?」「いま何時?」

そうこう考えているうちに、

「日常、終了」
アルカトラズ島再収監

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