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あんこ屋が炊けないあんこ

こんにちは。板谷です。

あんこ屋が炊けないあんこ。

もちろん、技術的にまったく炊けない、という意味ではありません。
正確に言えば、あんこ屋としては炊かない方が良いあんこがある、という話です。

1. 炊きの浅いあんこ

炊きの浅いあんことは、炊く時間が短いだけでなく、火の入り方や、豆と糖のなじみがまだ浅い状態のあんこです。

炊きの浅いあんこは、炊きたてだと豆の風味が立ちやすく、甘さのキレも良くなり、繊細なおいしさがあります。

和菓子屋や鯛焼屋さんが、その日や翌日、使うあんことして炊くなら、炊きの浅いあんこはとても良いです。
炊きたてのおいしい瞬間を、その日のうちにそのまま使えるからです。

炊きたてのあんこ

でも、あんこ屋は事情が違います。

あんこ屋のあんこは、炊き上げて終わりではありません。
冷まし、詰め、運び、お店で使っていただくまでに数日かかります。
だから必要なのは、炊きたてのおいしさだけではなく、その先まで日持ちするおいしさです。

そこで避けて通れないのが、菌の問題です。

2. あんこ屋は常に菌との戦い

あんこ屋の仕事は、常に菌との戦いでもあります。
糖度、水分、炊きの深さ、冷却、保管。
そのどれかが少し違うだけでも、日持ちや安定性は変わります。
場合によっては、それが菌の増えやすさにもつながります。
だからこそ、あんこ屋は菌に対してかなり神経を使います。

炊きが浅いあんこは、豆の風味が立ち、甘さのキレが出ます。
ただ、その分、不安定です。

逆に、炊きを深くしていくと、豆と糖がなじみ、状態が締まっていきます。
冷めたあとも崩れにくく、品質としては安定しやすくなります。

3. あんこは単なる“甘い豆”ではない

あんこ屋が売っているあんこは、単なる“甘い豆”ではありません。
お客様が安心して使えて、狙った商品がちゃんと作れて、一定の品質で届けられるあんこです。

つまり、おいしいことに加えて、安定していること、扱いやすいこと、日持ちすることまで含めて商品になるのです。
だから、あんこ屋は基本的に炊きを深めに持っていくことになります。
しっかり火を入れ、糖度を見て、菌に負けない状態まで持っていく。

でも、それは味を犠牲にしているということではありません。
炊きたての一瞬のおいしさではなく、使われるところまで含めたおいしさを考えているということです。

実際、和菓子屋もされているコンサルの方から、炊きの浅いあんこの相談を受けたことがありました。
私は何度かあんこ屋で炊く難しさをお伝えしたのですが、なかなか伝わりませんでした。

和菓子屋さんは、炊きたてに近い状態のあんこを、数日のうちに無理なく使うことができます。
あんこ屋は、その先の安定したおいしさを求めます。

冷めたあとも大丈夫か。
運ばれたあとも大丈夫か。
相手先でちゃんと使えるか。
菌に負けないか。

ここまで含めて、あんこを考えています。

包装したあんこ

4. 発酵あんこ

最近は発酵あんこの話をよく聞きますし、面白いものだと思います。
実際に依頼として受けたことはありませんが、雑談の中で「発酵あんこを作れば良い」と言われることはよくあります。
ただ、あんこ屋の仕事とは、少し向いている方向が違います。

あんこ屋の仕事は、菌をいかに増やさず、安定して持たせるかにあります。
なるべく工場内の菌を抑えようとしているあんこ屋が、菌を活かす発酵あんこを作るのは、やはりリスクがあるのではないかというのが正直なところです。

設備の面でも、発酵を前提にした業種の方が扱いやすいのかもしれません。

つくれることと、商売として扱えることは、別です。

5. あんこ屋に合うあんこ

浅いあんこは、和菓子屋ではその炊きたての魅力がそのまま活きます。
ただ、あんこ屋は、その先の安定や日持ちまで考えなければならない。
どちらが上ということではなく、求められている役割が違うのだと思います。

正直、私としては、炊きが浅いあんこも、発酵あんこも選択肢として持てたらとは思います。

ただ、安心・安全な商品を安定してつくらなければならないのは、どの業界でも同じです。

そう考えると、あんこと一言で言っても、さまざまな種類があり、あんこ屋が炊くのに向いているあんこと、そうでないあんこがある。
一方で、短い期間で使い切れるなら、炊きの浅いあんこや発酵あんこが活きる場面もあります。
どのあんこを炊くのかも含めて、自分たちに合った形を探していく必要があるのだと思います。

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