旅の終わりは、いつもの家へ。|KOYO.RION 沖縄編 第10話
2026年6月28日。
沖縄、最後の朝。
帰りの飛行機は12時。
最終日まで、何か予定を詰め込むつもりはなかった。
もう十分だった。
結婚式があって。
みんなで笑って。
ハレクラニを出て。
那覇の街も歩いた。
あとは、ゆっくり空港へ向かって、ゆっくり帰ればいい。
そんな朝だった。
最後の朝ごはん
朝ごはんは、ホテルの1階。
ロビー横のレストランで、かずきとみさとと待ち合わせた。
まっきーは僕らの部屋に泊まっていたので、そのまま一緒。
けんは――そうや。
ホテルが違った。
こうして数か月後に書き直していると、最初はぼんやりしていた人の配置まで、ひとつずつ戻ってくる。
「ああ、そうやった。けんは違うホテルやったな」
一つ思い出すと、その横にあった景色も少しずつ見えてくる。
記憶というのは、なかなか面白い。

豪華な話になるかと思ったら、印象に残ったのは数切れのスイカだった。
朝食はビュッフェ。
僕はヒルトンのゴールド会員。
そして、かずきはダイヤモンド会員。
さすがダイヤモンド。
何か特別なものがあるらしい。
ちょっと期待する。
そして出てきたのが――
スイカ。
何切れかのスイカ。
まあ、ダブルツリーやしな(笑)。
それでも、
「ダイヤモンド会員のお客様へ」
みたいな感じで出てくると、普通のスイカもちょっとありがたく見えるから不思議だ。
そんなことを言いながら朝ごはんを食べていると、
「ああ、今日で沖縄も終わりなんやな」
という感じが、少しずつしてきた。
今回は、任せる旅だった
朝食のあと、けんが僕らのホテルまで来てくれた。
レンタカーの返却は、けんの運転。
僕は任せる。
今回の旅では、いろんな人に助けてもらった。
歩く時も。
移動する時も。
昔の僕なら、自分でやることが当たり前だった。
でも今は、任せることも増えた。
覚えたというより、
覚えさせられた、と言った方が近いかもしれない。
それでも、
家族と沖縄まで来て、結婚式に出て、最後の日まで一緒に帰る。
少し前までなら当たり前だったことが、今はちょっと違って見える。
だからといって、しんみり考えていたわけでもない。
レンタカーを返してしまえば、
次は空港だ。

最後の運転も、けんに任せた。
酒を飲まない空港は、意外と長い
那覇空港に着くと、みんなはお土産を見に行った。
僕は特に買うものがない。
お菓子御殿で、もう買って送ってある。
こういうところだけは準備がいい。
さて。
何をしよう。
昔なら簡単だった。
空港に着いたら、まずバー。
ビールを飲んで、飛行機を待つ。
僕にとっては、それも旅の一部だった。
でも今は飲まない。
バーへ行く理由もない。
仕方ないので、
空港をぐるぐる。
また、ぐるぐる。
酒を飲まない空港って、
こんなに時間があるんやな。
57歳になって、初めて知った。

僕は、ひたすらぐるぐる歩いた。
僕なりの「ありがとう」
保安検査を通って、その先へ。
免税店を見ながら歩いている時、ふと思った。
今回、沖縄まで一緒に来てくれたみんなに、
何かお礼をしたい。
妹や、息子の嫁たちを呼んだ。
「好きなん買ってええよ」
大げさなお礼ではない。
結婚式のために沖縄まで来てくれた。
一緒に笑ってくれた。
僕が歩くのが遅ければ待ってくれた。
いろんな場面で助けてもらった。
その、僕なりの「ありがとう」。
化粧品やら、何やら。
みんなそれぞれ好きなものを選んでいたと思う。
ついでに甥の分も。
こういう時は、たぶん、
買ってもらう人より、買っている僕の方が楽しい。

大げさではない、僕なりの「ありがとう」。
それぞれの飛行機へ
そして、いよいよ帰る時間。
けんはANA。
僕らはJAL。
かずきとみさとは、羽田へ。
偶然、搭乗口が近かった。
だから最後の最後まで、しばらく一緒にいられた。
「じゃあな」
たぶん、そんな普通の言葉だったと思う。
大げさな別れではない。
また会える。
LINEもある。
電話もできる。
それでも、
数日前まで沖縄に集まっていたみんなが、
ここから別々の飛行機に乗って帰っていく。
それを見ると、少しだけ不思議な感じがした。
こうようとりおんの結婚式のために、
それぞれの場所から集まった家族。
その時間が終わって、
また、それぞれの生活へ戻っていく。

僕らが乗るのはJTA042便。
那覇を12時に出て、
中部国際空港には14時10分着。
飛行機が沖縄を離れていく。
窓の外を見ながら、
この数日間のことを、ずっと考えていた――
というほどでもない。
たぶん、普通に座っていた。
でも時々、
雨のセントレアだったり。
ハレクラニの海だったり。
結婚式の朝の雨だったり。
急に現れた青空だったり。
披露宴で笑っていた顔だったり。
そんな場面が、一つずつ頭に浮かんだ。
まだ数日前のことなのに、
少し前の出来事みたいだった。
セントレアで、また一人
セントレアに到着。
けんとは、ここでもう一度合流した。
そして今度は、
まっきーが静岡へ帰る。
その前に、みんなで食事をした。
何を食べたのか。
そこは正直、今ははっきり覚えていない。
でも、
一緒に食事をしたことは覚えている。
食べ終わると、
まっきーは電車へ。
「ほなな」
また一人、帰っていった。
結婚式が終わってから、
家族が一人ずつ、それぞれの場所へ戻っていく。
少しずつ、
旅が小さくなっていくようだった。

旅の最後は、弁当だった
そこからは、りえの運転。
いつもの方向へ帰る。
途中、けんがサービスエリアで言った。
「弁当買いたい」
いつも買う弁当があるらしい。
それなら僕らも買おう。
今日の晩ごはんは、それでええ。
サービスエリアで弁当を買って、
また車に乗った。
ハレクラニ。
結婚式の料理。
沖縄で食べたもの。
今回も、いろんなものを食べた。
その旅の最後が、
サービスエリアの弁当。
なんか、
それでよかった。
急にいつもの生活へ戻っていく感じがした。

でも旅の最後は、サービスエリアの弁当。それが妙に良かった。
いつもの家へ
夕方5時頃だったと思う。
帰ってきた。
家。
いつもの家。
旅行前と、たぶん何も変わっていない。
荷物を下ろして。
少しすると、
LINEが届き始めた。
「着いたよ」
「家に帰ったよ」
それぞれから届く連絡。
みんな無事に帰った。
それを見て、
やっと僕の中でも、
今回の沖縄旅行が終わったような気がした。
りえと二人で、
サービスエリアで買った弁当を食べた。
そして寝た。
ただ、それだけ。

僕らも家で弁当を食べて、沖縄の4日間は終わった。
旅の終わりは、いつもの家へ。
思い返せば、
最初は雨だった。
セントレアへ向かう車のフロントガラスに、
ずっと雨粒が流れていた。
台風はどうなるんやろ。
結婚式は大丈夫なんやろか。
そんなところから始まった旅だった。
それが沖縄に着いたら、
ハレクラニでは青空が見えて。
結婚式の日にはまた雨が降って。
そのあと、急に空が明るくなった。
こうようとりおんが笑っていた。
みんなも笑っていた。
披露宴が終われば、
ホテルには静かな時間が戻った。
次の日にはハレクラニを出て、
那覇の夜を歩いた。
そして最後は、
空港をぐるぐる歩いて、
サービスエリアで弁当を買って、
いつもの家に帰ってきた。
こうして並べると、
何日もあったような気がする。
でも、たった4日間。
旅行から帰ってきた家の空気は、
出発した時と、たぶん何も変わっていない。
ただ、
僕たちの中には、
沖縄で過ごした4日間がひとつ増えた。
こうようとりおんの結婚式があった4日間。
家族が集まった4日間。
雨も、青空も、笑った顔も、
たぶんこれから少しずつ記憶の中で混ざっていく。
そして、
「あ、そういえば」
と、突然何かを思い出す日が来るのかもしれない。
その時は、また書けばいい。
今はただ、
みんな無事に帰ってきた。
それで十分。
旅の終わりは、
いつもの家だった。
そして次の日から、
また、いつもの毎日が始まった。
